はじめに
2008年1月9日追記 
下記が日経ナショナル ジオグラフィックから刊行されました。
ナショナル ジオグラフィック(日本語版)2008年1月号
地球の悲鳴ー廃棄パソコンはどこへ行く
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0801/feature02/index.shtml
ナショナルジオグラフィック誌(英語・電子版) 2008年1月号が「ハイテクごみ(High-Tech Trash)」を特集しましたので紹介します。
アメリカでは今後数年で毎年3〜4,000万台のコンピュータが廃棄されるようになり、国連環境計画(UNEP)によれば、世界中の廃電子機器の年間発生量は5,000万トンに達すると予測されています。電子廃棄物の処理問題は地球規模の問題です。
アメリカ連邦政府の電子廃棄物に関する無干渉政策の結果、アメリカ国内で処理されるべき電子廃棄物の大部分が海外に流出することとなり、中国、インド、西アフリカなど環境規制実施の緩い地域に流れ込み、人の健康と環境を蝕んでいるとしています。
参考までに日本の現状を紹介すると、日本でも毎年国内で廃棄されるパソコン1,000万台のうち3R推進センターを通じて回収されているパソコンはその1割の100万台であり、多くが中古品名目で海外に流出していると考えられます。また、廃家電4品目(エアコン、テレビ、冷蔵冷凍庫、洗濯機)についても"家電リサイクル法"に基づきメーカーに自主的に回収されているのは年間排出廃家電4品目約2,300万台のうち約半分であり、残りの半分は見えないフローとして回収業者により消費者から回収されており、新聞報道によれば4品目廃家電全体の約3分の1近くが途上国に流出しているとされています。
既に中国の広東省グイユ及びアフリカのナイジェリアの首都ラゴスの電子廃棄物リサイクルの惨状については、バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)が2002年と2005年に世界的に有名な映像ドキュエンタリーを発表していますが、このナショナル・グラフィックの特集では同様に、アフリカのガーナの首都アクラ及び中国の江蘇省泰州市(Taizhou)の電子廃棄物リサイクルの惨状を報告しています。
また、写真ギャラリーでは電子廃棄物リサイクルの現状を迫力ある映像で伝えていますので是非ご覧ください。
ナショナルジオグラフィック日本語版2008年1月号の発行が待ち望まれます。
英語版の特集は下記の構成となっています。
本文記事の概要紹介
- ガーナの首都アクラにおける廃電子機器マーケットには世界各国から集められた使用済み電子機器が並べられ売られている。
- テレビ、コンピュータ等から売れるものだけが取り出されて残りの残骸は投棄、野焼きされる。またケーブの被覆を焼いて銅を取り出すためにケーブルが野焼きされ、異臭を放つ煙があたりを漂っている。
- ムーアの法則によればコンピュータの機能は2年で2倍になる。新品もすぐに陳腐化し電子廃棄物になる。
- EPAによればアメリカでは今後数年で毎年3〜4,000万台のコンピュータが廃棄されるようになる。アメリカではテレビのディジタル化が2009年に実施されるので、鉛を含んだ有害なブラウン管テレビが毎年2,500万台廃棄される。
- 米EPAの見積もりによれば2005年には、コンピュータ、テレビ、ビデオカセットレコーダー、携帯電話、その他の電子機器が150〜190万トン廃棄された。国連環境計画(UNEP)によれば、世界中の廃電子機器の年間発生量は5,000万トンに達する。
- アメリカでは、多くの州が電子機器の投棄を禁止するようになってきたが、70%以上のコンピュータとモニター、そして80%以上のテレビが最終的には埋め立て処分されていると見積られている。
- そこでは, 水銀、ヒ素、カドミウム、ベリリウム、その他の有毒物質が漏れ出して地下水を汚染している可能性がある。
- EPAによれば、2005年現在、使用されていない1億8,000万台という恐るべき数のテレビ、デスクトップPC、及びその他の機器が家庭の屋根裏や地下室で眠っている。
- 電子機器には有害物質だけでなく、金、銀、その他の希少金属を含んでおり、それらの金属を廃電子機器から回収することは、鉱山から採掘するよりもはるかに効率的で地球環境に対する負荷も小さい。
- 現在、電子廃棄物で回収業者を通じてリサイクルの流れに入っているのは20%以下であるが、カリフォルニア州のように埋め立て禁止の取り締まりが強化されているのでその数は上昇傾向にある。
- しかし、回収業者に渡してもや自治体の回収場所に持っていてもそれが安全に処分されることを保証するものではない。汚染と健康リスクを最小にしようと努力をしている回収業者もいるが、多くの回収業者はそれらを環境規制の緩い開発途上国に輸出するブローカーに売り渡している。
- 途上国においてこのような状況の最前線にいる人々に取っては、これはとんでもないことであり、強い怒りがこみ上げることであった。
- 多くの諸国は電子廃棄物の不適切は扱いが環境と人の健康を損なうことを憂慮し、国際的な規制を実現しようと試みた。1998年に締結され、現在170か国が加盟しているバーゼル条約は、先進国は途上国に対し有害廃棄物の輸出を事前に通告することを求めている。
- 環境団体と多くの途上国はこの条約は弱すぎるとし、1995年にバーゼル禁止修正条項として知られる途上国へのいかなる有害廃棄物の輸出を禁止する修正案を提案した。この禁止修正条項はまだ発効していないが、欧州連合(EU)はこの要求を法律に導入した。
- EUはまた、安全な処分の責任を製造者に求めている。最近EUは、鉛、水銀、難燃剤等の使用を制限する設計を求める指令(訳注:RoHS指令)を発表した。もうひとつの指令(訳注:WEEE 指令)は製造者に電子廃棄物を収集する基盤を整備し責任あるリサイクリング戦略を求めている。これらの措置にもかかわらず、莫大な量の電子廃棄物がヨーロッパの港から途上国にひそかに送り出されている。
- バーゼル条約に署名しながら批准していない国はアメリカ、ハイチ、アフガニスタンだけである。
- アメリカのいくつかの州はリサイクル・システムを立法化しているが、EPAによれば、アメリカは基本的には産業と協調して責任あるリサイクルを推進するというアプローチである。例えば、環境的に適切な製品には承認ラベルを貼る格付けシステムである。このような連邦政府の無干渉政策の結果、国内で処理されるべき電子廃棄物の大部分を海外に流出させることとなった。
- ”先進国はこらの電子機器から便益を得ているが、それらが使用できなくなると、環境に対する外部化したコストと責任を途上国に押し付けている”とバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)の代表ジム・パケットは述べている。
- アジア、特に中国は長年、世界の電子廃棄物が行き着く墓場であった。
- 2002年、BANは中国における電子廃棄物のリサイクル現場、広東省北東部にある貴嶼(グイユ)の惨状を撮影したドキュメンタリー・ビデオを発表して世界に衝撃を与えた。原題:Exporting Harm:The High-Tech Trashing of Asia、日本語版DVD 『危害の輸出:アジアで処分されるハイテクごみ』(制作:BAN/販売:当研究会)。
- 2000年から中国では電子廃棄物の輸入を禁止していたが、その流入は止まることはなかった。BANのドキュメンタリーが報道されると中国政府は地方政府に取締りの強化を指示したが、それでも大量に流入している。
- 最近、江蘇省泰州市(Taizhou)を訪問したが、そこはもうひとつの電子廃棄物処理センターであり、中国における取締りとその限界の証拠を目の当たりにした。数年前までは泰州市郊外の丘陵地帯は現在では、グイユに匹敵するする巨大な廃電子機器解体産業の非公式な拠点となっている。
- ハイメンやニンポーにある大量の金属スクラップのための港湾情報センターの担当官は不法な有害廃棄物の流入に目を光らせている。
- 泰州でのハイテクごみの輸入は1990年代に始まり、2003年がピークであったが、2005年からは下降気味であり、現在は見かけなくなったと、生徒が周囲の大気汚染を測定している高校教師は述べた。
- 今日ではリサイクル作業は人目の付かないところでコッソリと行われている。丘陵にある村の家の戸口の中では、主人がペンチでコンピュータのマザーボードからマイクロチップと金属部品を引き抜いている。
- 買取人は銅を回収するためにこれらの部品を燃やす。名前を明かさないある男は”これらのビジネスは違法である”と告白した。同じ村で何人かの男達が囲いの中で金属を抽出するために電子基板を炎であぶっていた。ドアの外には焦げた基板が山積みされていた。
- 昨年発表された研究で、中国の科学者らはグイユの環境の惨状を報告した。作業場の近くから、世界で最も高いレベルのダイオキシンが検出された。土壌は、恐らく発がん性、内分泌かく乱性、免疫毒性をもつ物質で汚染されていた。PBDEsと呼ばれ、低濃度でも胎児の発達を潜在的に損なう電子機器中で使用される難燃剤が電子廃棄物リサイクル労働者の血液中から検出された。
- いつの日にか中国では電子廃棄物の輸入の削減に成功するかもしれない。しかし電子廃棄物の流れは水のようなものであり、中国に流れ込んでいた電子廃棄物は容易にその行き先をタイ、パキスタン、その他どこにでも変えることができる。
- ”中国やインドというように個々の場所での対応では世界的な対応には役立たない。流れは最も抵抗の少ない経路を通って底に流れ込む”と社会正義の観点から電子廃棄物を研究しているカリフォルニア大学のデービッド N. ペローは述べている。
- どの位多くの電子廃棄物が中国に輸出され、その他のアジア諸国に行き先を変え、あるいはガーナやナイジェリア、象牙河岸のような西アフリカ諸国へ投棄されているのか知ることはほとんど不可能である。
・・・(以下略)
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