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(98・2・3掲載)


TORU TAKEMITSU/MY WAY OF LIFE
小澤 征爾指揮 サイトウ キネン オーケストラ他
(PHILIPS 454 478-2)
 ここでご紹介したいのは、武満徹の遺作のフルート曲「エア」が収録されたアルバムです。これをわざわざ買った理由のひとつは、オーレル・ニコレが以前NHKでON AIRになった武満追悼のテレビ番組の中で譜面と違うことを吹いていたので、正規リリースの録音ではどうしているかを調べるためでした。( マニアック!)興味のない方には退屈なだけですから結果だけを申し上げると、テレビ番組の中で演奏したときには、楽譜をめくる際に、ページの変わり目よりだいぶ前の片手があいているところでめくってしまったため、別な個所を吹いてしまったということがめでたく判明したのです。
 まあこんなことは本当はどうでも良いのですよ。実は、購買を決定づけさせられたもっと大きな要因は、「ファミリー・トゥリー」の英語バージョンが収録されていたことなのです。武満徹が亡くなったのは一昨年1996年の2月でしたが、その年の6月にはこのCDとよく似た内容の国内仕様盤が発売になっていました。ところが、この中の「ファミリー・トゥリー」は悪名高い日本語版だったのです。もともとこの曲はニューヨーク・フィルから委嘱されたもので、中で朗読される谷川俊太郎の詩(もちろん日本語)は英訳が使われていました。(初演は1995 年4月20日、レナード・スラトキン指揮のニューヨーク・フィル。)小澤が演奏するにあたっては、放送初演の際にオーディションで選ばれた日本人のナレーターを起用したのですが、これがとんでもないミスキャストでした。今回、フィリップスが国際仕様でリリースするにあたっては、ライブ録音時のナレーションのトラックを、小澤の娘を起用して新たにスタジオで録音した英語のものに差し替えてあります。少なくとも私には、こちらの方がずっと自然なしゃべりに聞こえます。みなさんはどう思われるでしょうね?
 それにしても、いくらマルチトラックだからって同じステージ上でしゃっべっていた人の声を完全に消してしまうなんて、さすがはフィリップスの技術陣ですね。そういえば、最初に書いたニコレの演奏も、テレビ番組ではあまりにリアルな録音だったためとても情けない音でがっかりさせられ、「老醜」という言葉をかみしめたりもしたものですが、このCDではまるで別人のような豊かな響きを聴くことができます。それは良いことなのか悪いことなのか、判断に苦しむところではありますが。

(99/6/1)追記
 ミスキャストだったナレーターは、今では朝の連ドラの主人公になってしまいました。なんということでしょう。

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