(99/11/16掲載)

[ドゥルース版のCD]


■概要

 イギリスの作曲家、ヴァイオリニスト、ダンカン・ドゥルース(Duncan Druce)が、ヨークシャー・バッハ・クワイアーに委嘱されて作った版です。1984年のヨーク・フェスティヴァルにおいて、ピーター・シーモア(Peter Seymour)指揮による同クワイアーの演奏によって、初演されました。
 ここでドゥルースがとった方法論は、従来の、モーツァルトのほかの作品との比較によって校訂を行うというものではなく、自分がモーツァルトと同時代に生きたモーツァルトに非常に近い感性を持った作曲家になりきって曲をつくってみるというものなのです。
 したがって、出来上がった作品(もはや校訂ではなく、作曲の世界です。)からは、ジュスマイヤー版とは全く異なった音が聴こえてきて、驚きの連続です。
 ちなみに、この版はまだフルスコアは出版されていなくて、ヴォーカルスコアしか入手できません。で、そのヴォーカルスコアの前半には、ジュスマイヤー版がそのまま掲載されているのです。ドゥルース版は後半にひっそりと。まあ、言ってみれば趣味で作ったような版ですから、気に入らないときはジュスマイヤー版を使ってくれという配慮なのでしょうか。

■各論と譜例MIDI

Lacrimosa
 「9小節以下にアイブラーが書きかけたものをそのまま使い、曲全体の構成はSequenzの最初であるDies iraeとパラレルになるようにした。」とドゥルースは述べています。何はともあれ、実際の音をお聴きください。
 このあとに、モーンダー版にも使われたアーメンフーガの断片を元にした、127小節に及ぶ長大なフーガが展開されます。
Sanctus
 「ジュスマイヤー版の改作。」ということで、全体の長さは変えていませんが、後半のメロディー、リズムが変わっています。(6〜9小節の譜例)
ドゥルース版
ジュスマイヤー版
続くOsannaも、ジュスマイヤー版では28小節しかないものを69小節に拡大しています。
Benedictus
 最初のテーマだけを採用して、あとは全く自由に「作曲」しています。ドゥルース版の中でもっともいきいきとした、人によっては絶対に受け入れられないであろう楽章です。
Agnus Dei
 ほとんどジュスマイヤー版と同じ構成ですが、41小節以降で「改作」を行っています。
04/8/13追記)
というのは、出版された楽譜での話。最初に造られたものは、やはりかなり自由度の高いものでした。それは初演者のセイムーアのCDで聴くことが出来ますが、その後ノリントンの録音の際に、より穏健なものに作り替えられました。
Lux aeterna
 イントロを5小節増やしています。

[ドゥルース版のCD]