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(00/2/29掲載)

[図解!EMIの歴史] [HMVとは?] [参考文献]


 ふだんは新聞の経済欄などあまり目を通さない私ですが、1月25日の大見出しにはびっくりしてしまいました。「英EMI・ワーナー合併へ」。世界で最大のレコード会社が誕生した瞬間を報じた歴史的な記事です。
 ところで、「英EMI」と言われて、いったいなんのことだろうと思ったかたはいませんか?これは「はなぶさ・えみ」という女のかたの名前で…ウソですよ。上のような赤い色のロゴマークのイギリスのレコード会社、「イー・エム・アイ」と発音します。そんなことは誰でも知っているって。ごもっとも。では、このEMIというのはいったい何の略称なのでしょう。「愛媛県みかん工業」。ちがいます。
 あはは、あらためて聞かれるとわからないものでしょう?お教えしましょう。"Electric and Musical Industries Ltd."。訳せば「電気音楽工業」。「工業」だけ当たってた。
 そんなわけで、せっかくの機会ですから、このレーベルについてちゃんと調べてみることにしました。
 現在「EMI」と呼ばれている会社は、1931年にそれまでイギリスにあった2つの大きなレコード会社、英コロムビアと英グラモフォンが合併して出来たものです。これらのレコード会社のことについて語り始めるには、レコードのそもそもの始まり、音を記録・再生する機械、つまり蓄音機の発明にまでさかのぼらなければなりません。

■シリンダー型蓄音機
 1877年に、有名なトーマス・A・エディソンによってつくられた「フォノグラフ」が、世界最初の蓄音機とされています。1881年には、ベル兄弟とC・S・テインターによって「フォノグラフ」の改良モデルである「グラフォフォン」が発表されました。円筒状の蝋管の表面に音溝を刻むものです。
 この「グラフォフォン」の製造・販売を行っていたのが「コロムビア・グラフォフォン(米コロムビア)」、そのイギリス支店がいわゆる「英コロムビア」です。英コロムビアが設立されたのは1897年のことでした。
フォノグラフ グラフォフォン

■ディスク型蓄音機
 エミール・ベルリーナによって1887年につくられた、平板上に音を刻むタイプの蓄音機は「グラモフォン」と命名されました。1895年にグラモフォンの製造販売のために設立されたのが「ベルリーナ・グラモフォン」です。そして、ヨーロッパ進出のために奇しくも英コロムビアと同じ年、1897年にロンドンに設立されたのが、「英グラモフォン」です。「英グラモフォン」の工場はドイツのハノーヴァーに作られました。これが「ドイツ・グラモフォン」です。ちなみに、「ベルリーナ・グラモフォン」は1901年に「ビクター・トーキング・マシーン」と名前を変え、さらに1929年にはRCA(Radio Corporation of America)の傘下にはいって「RCAビクター」となるのです。
グラモフォン

■その後の経過
 英コロムビアは1922年には米コロムビアから完全に独立し、逆に1924年には親会社を買収してしまいます。(米コロムビアというのは、こういう買収のパターンに完全にハマっているみたいですね。1927年に既存の放送網を買い取ってCBS−Columbia Broadcasting System−を創立したものの、1938年にはそのCBSの傘下に入らされてしまいますし、1968年に日本での合弁の相手として選んだソニーには、結局1989年に買収されてしまうのですから。)
 さらに、ドイツのカール・リンドストレームが所有していた「オデオン」、「パーロフォン」といった会社とも提携を深め、1928年にはフランスの「パテ・マルコニ」を買収します。
 いっぽうの英グラモフォンは、1907年に有名な「ニッパー」の犬のマークを採用し、"His Master's Voice"というそのマークのキャプションの頭文字をとってそれ以後「HMV」という愛称で呼ばれるようになります。
コロムビア パーロフォン HMV
 HMVのドイツ支社であった「ドイツ・グラモフォン」は、第一次世界大戦の勃発とともに、競売に付されてドイツの会社となってしまい、今ある黄色いレーベルの「ドイツ・グラモフォン」となるのです。
 ドイツでの拠点を失ってしまったHMVは、大戦後は「エレクトローラ」というレーベルを作ります。
エレクトローラ

■合併後
 1931年に英コロムビアとHMVが合併して、世界最大のレコード会社が誕生しました。ただ、合併といっても、今まであったレーベルの独立性は完全に維持されていましたから、レーベルマ−クなども従来のものをそのまま使いつづけていました。EMIとしての統一マークを採用するのは、80年代に入ってからのことになります。
 ほぼ世界中にテリトリーを広げたEMIですが、1950年代になるとそれまで提携関係にあったCBS(英コロムビアとのつながり)やRCA(HMVとのつながり)との縁が断ち切られてしまい、アメリカのマーケットでの地盤が失われてしまいます。そこで目をつけたのが、1942年に創設されたハリウッドの新興レコード会社「キャピトル」で、1955年に買収を完了します。
 さらに最近では、1994年にイギリスの「ヴァージン」、1995年にドイツの「インターコード」を、それぞれ傘下に収めています。
キャピトル ヴァージン インターコード

 EMIとワーナーが合併したことによって、世界のレコード産業の系列は大きく変わってしまうでしょう。少し前には、ポリグラム(ドイツ・グラモフォン、フィリップス、デッカ)が、MCAなどのレーベルを擁するユニヴァーサルの傘下にはいるという「大事件」があったばかりですし、ひと時も目を離せない状況は、これからも続くことでしょう。

01年3月26日追記)
 その後、ヨーロッパの経済界からの横槍が入って、この合併は事実上白紙撤回されました。しかし、ワーナーは新たな合併先を求めて暗躍しているとか。流動的な状況はまだまだ続いています。

20111210日追記)
 
201111月に、EMIはレコード部門はユニバーサル、音楽出版部門はソニーに買収されました。これで、世界のメジャー・レーベルはソニー、ユニバーサル、ワーナーの3つだけになってしまいました。

(2013年8月4日追記)
 2013年2月に、ユニバーサルはEMI傘下のパーロフォン・レーベルをワーナーに売却します。このレーベル内にはEMIクラシックスやヴァージンが含まれており、事実上EMIのクラシック部門はワーナーに買収されました。ワーナーの野望は13年経ってやっと果たされたことになります(クラシック以外の「ザ・ビートルズ」などの資産は、ユニバーサルにとどまっています)。

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