(99/4/13掲載)


CD写真

 ジャン・フルネの要請を受けて、「日本フォーレ協会」が日本人の演奏家を用意して制作したCDです。フルネは今までに3回この曲を録音していますが、当然のことながら、全て1900年版を使用しています。しかし今回の録音では、1893年の第2稿、しかもネクトゥー/ドラージュ版をわざわざ指定して使っているというのが、このCDの最大のセールスポイントになっています。最近では、大編成の1900年版(第3稿)ではなくオリジナルの形に近い第2稿を用いて演奏することも多くなってきています。(ニューフィルがおととし演奏した時は1900年版でしたが。)しかし、第2稿とはいっても、今までのスタンダードだった第3稿との違いがあまりにも多いラジカルなネクトゥー/ドラージュ版は、穏健なラッター版に比べてはるかに演奏頻度は少ないようです。ですから、ここでフランス音楽界の重鎮がネクトゥー/ドラージュ版を使ったということは、非常に画期的なことなのです。このCDによってこの版を認知する人が増えれば、この版のファン(しゃれてるわけではありませんが)である私としては、こんなにうれしいことはありません。
 と、まずこのCDのコンセプトについては、おおいに持ち上げてはみたものの、肝心の演奏の水準については、どうもあまり満足のいくものではありません。特に男声合唱のパートは、とてつもなくお粗末です。女声パートは児童合唱が担当していて、これはなかなかの健闘ぶりなのですが、男声パートは音色も歌い方もまちまちな寄せ集めで、とても合唱としての体をなしていないのですから。
 「日本フォーレ協会」とやらは、このCDの準備に2年間を費やしたということですが、どうやら合唱に関してはまるで見当ちがいの準備をしてしまったみたいですね。クレジットを見ると、男声合唱のメンバーは特定の合唱団には属していないプロの声楽家のようですが、いくら歌が歌えるからといっても、基本的なアンサンブルの練習もしないでフォーレの透明なハーモニーを作りだせるほど、合唱の世界は甘くはないのです。
 さらに、"Pie Jesu"のボーイソプラノは私が愛聴しているヘレヴェッヘ盤のアニェス・メロンの名唱には及びもつきませんし、"Sanctus" のヴァイオリン・ソロ(矢部達哉)も驚くほど無表情でエスプリのかけらもありません。5枚目(もっとあるかもしれませんが)のネクトゥー/ドラージュ版として、フォーレのレクイエムのカタログに加えられたフルネの最新盤ですが、残念なことに、私が聴いて幸せになれるCDのカタログが増えることはなかったようです。
9811月録音/CAMERATA 25CM-563