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(06/3/9作成)

(06/3/25掲載)


ポジティフ:(独:Positiv
 英語だと「positive」ですから、ネガティブnegativeの反対語として、「前向きの」(「ポジティブ・シンキング」などという使われ方)といった意味で使われる言葉ですね。最近はデジタルカメラに押されてとんと出番が少なくなってきましたが、銀塩写真のフィルムでも陽と暗が反転されたものを「ネガ」と言うのに対し、「ポジ」と言えば、印刷の現場やスライドで使われる、それこそデジカメの画像のような「そのままの」色でみられる「陽画」を指します。
 そんな、ある意味観念的な言葉が、なぜ「音楽用語」なのでしょう。音楽を聴くことによって、前向きな生きる勇気が湧いてくる、といったことなのでしょうか。でも、聴くだけでとことん暗くなって、死にたくなるような殆ど「ネガティブ」と言っていい音楽だってありますよね。日本人のラップとか。

 実は、そういう「形容詞」的な使い方ではなく、ドイツ語で頭文字が大文字、つまり「名詞」として「ポジティフ」と言った場合には、なんと、「パイプオルガン」という意味を持つこともあるのです。「パイプオルガン」、最近では単に「オルガン」と言うだけでこの楽器のことを指し示すようになりましたが、その中でも、特に持ち運びが可能なコンパクトなものを「ポジティフ・オルガン」あるいは単に「ポジティフ」(正確には「ポジティーフ」)と言うのです。
http://homepage3.nifty.com/umeoka-gakki/sakusaku/8_1.htm
 このように、鍵盤は手鍵盤が一つだけ、せいぜい4種類程度のストップしかない可愛らしいオルガンですが、バロック時代の曲の通奏低音などには十分な威力を発揮するもの、最近では演奏会のステージでもよく見られるようになってきましたし、ピアノなどと同じように、ホールの備品として持っているところも出てきています。

 ところで、「オルガン」と言えば、やはり教会やホールに据え付けられた大オルガンといったイメージが一般的なはずです。これはもちろん持ち運びなど不可能な大きな楽器なのですが、その中にもやはり「ポジティフ」という部分があるのです。その前に、予備知識として、大オルガンの基礎的な構造から見ていきましょう。
 ご存じのように、オルガンというのはパイプの中に空気を送り込んで音を出す楽器です。パイプは「ウィンドチェスト(風箱)」という空気のたまり場の上に立っており、その入り口は通常は閉じられているのですが、鍵盤とストップ(音栓)を操作することにより、ある特定のパイプだけに空気が送られて、音が出るようになっています。その様なひとかたまりのユニットを「ヴェルクWerk」と言います。通常は一つの鍵盤に対して一つのヴェルクが割り当てられており、鍵盤の数だけヴェルクがある、と言うことが出来るでしょう。それぞれのヴェルクには名前が付けられています。例えば、この写真のオルガンですと「ハウプトヴェルクHauptwerk」、「オーバーヴェルクOberwerk」、「ブルストヴェルクBrustwerk」、そして「ペダルPedal」という4つのヴェルクから成り立っています。「ハウプトHaupt」は「頭」ですから、最もメインとなるヴェルクですね。「オーバーヴェルク」は、文字通りその上にあるヴェルク、そして「ブルストBrust」は「バスト」ですから「胸」、確かに頭のすぐ下にありますね。「ペダル」というのもヴェルクの一つ、足鍵盤とつながっているヴェルクのことをこう言います。低音を担う太くて長いパイプが多く含まれますから、ご覧のようにこれは両サイド、あるいは後ろの方に位置することになります。

 もう一つ、この写真のオルガンでは、それらのヴェルクの前に、コンソール(演奏台)を遮る形で別のヴェルクが置かれているのがお分かりでしょうか。つまり、演奏者はヴェルクに挟まれた位置で演奏することになりますね。もちろん彼はハウプトヴェルクに向かって座りますから、この小さなヴェルクは演奏者の背中側に位置することになり「リュックポジティフRückpositiv」と呼ばれます。「リュックRück」とは「背中」(リュックサックですね)、そして、ここで「ポジティフ」の登場です。向かい側の大きなオルガンからは離れた位置に、小さなオルガンがもう一つ、という感じで、その様に呼ばれているのでしょうね。この「リュックポジティフ」、演奏者にとっては「背中」でも、聴く人の側からは一歩前に出た位置にあるわけですから、視覚的にも、そして音場的にも、まるでソリストのような位置づけが感じられることでしょう。事実、このヴェルクはコラールの旋律など、ソリスティックなパートを演奏する時によく使われます。このリュックポジティフが付いたオルガンは、大オルガンの一つのスタンダードとして、長い間制作され続けられました。最近でも、東京カテドラルのオルガンが改修された際には、このタイプのものが取り入れられています。
http://www.tokyo.catholic.jp/text/neworgan/progress11.htm

 ちなみに、今回(2006年4月)私達が演奏会で取り上げる曲は、ブルックナーの交響曲第5番です。毎回素晴らしいアイディアでポスターやチラシをデザインしてくれる当団の専属アートデザイナーS氏は、この作曲家のイメージを具体化するために、彼がオルガニストを務めていたリンツのザンクト・フローリアンのオルガンを素材に取り入れました。これがそうです。総パイプ数が7386本、真ん中に見えるのが「リュックポジティフ」。全部で7つのヴェルクから成る大オルガンです。
 えっ。そんなもの見えないですって? いえいえ、しっかり見て下さいな(カーソルを乗せるとか)。

 ところで、2003年に公開されたディズニー映画で「ホーンテッド・マンション」という作品がありましたね。この中に出てくるお屋敷には堂々たるオルガンが備え付けられています。手鍵盤が4段という、まさに大オルガン、どうやら一番手前にはあるのはリュックポジティフのようですね。大きさから言っても、これがハウプトヴェルクとはちょっと考えにくいものです。その後ろ側にもパイプが見えますし。しかし、この楽器には、そのリュックポジティフの「手前」に、演奏台が付いているのですね。私には、これが大変異様なものに思われるのですが、どうでしょうか?

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