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(02/1/24作成)

(02/2/24掲載)


ミッチ・ミラー(英・人:Mitch Miller
 「ミッチー」・ミラーではありません。それだと、正田美智子さん(誰だかわかる?)か三橋美智也の愛称になってしまいます。「古すぎる」といわれないために、及川光博というのも用意しておきましょうか。
 ミッチ・ミラーという名前を日本で一躍有名にしたのは、「ミッチと歌おう(Sing Along with Mitch)」というテレビ番組でした。NHK総合テレビで1963年の4月7日に第1回目の放送が始まった、毎週日曜日のお昼過ぎのバラエティ番組です。ミッチ・ミラーという人が「Mitch Miller and The Gang」という男声合唱団を率いて名曲を歌うというものなのですが、指揮者のミラーは合唱団といっしょにカメラの方を向いて(つまり、合唱団には背を向けて)、「皆さん、いっしょに歌いましょう」というスタイルで指揮をしていました。その格好も、腰のあたりに置いた拳を肘といっしょに左右対称に動かすというユニークなもの、ちょっと薄い頭と長いあごひげという人懐っこい風貌と相まって、人気は回を追うごとに高まっていきました。メンバーの一人、テナーのソリストとして、甘い歌声を聴かせてくれていたボブ・マグラスは、最近まで「セサミ・ストリート」で「ボブ」として出演していましたから、思い当たる方もいるのでは。
 もともとはアメリカのCBSネットワークで1961年から64年まで3シーズン半にわたって放送されたもので、日本でも66年の1月まで、シリーズがすべて放送されたはずです。

 じつは、このテレビ放送が始まる前に、すでにレコードの世界ではこの「Sing Along」シリーズはブレイクしていました。1955年に「テキサスの黄色いバラ」、1957年に「クワイ川マーチ」という大ヒットを放ったミラーが1958年に発表したのが「Sing Along with Mitch」というLPで、これはたちまちビルボードへのチャートインを果たします。翌1959年には「More Sing Along with Mitch」、「Still More! Sing Along with Mitch」、「Folksongs Sing Along with Mitch」、「Party Sing Along with Mitch」もチャートイン、さらに61年までに「Memories Sing Along with Mitch」、「TV Sing Along with Mitch」、「Happy Times Sing Along with Mitch」、「Saturday Night Sing Along with Mitch」、「Holiday Sing Along with Mitch」などという、数多くのアルバムがチャートインを果たすという快挙を成し遂げます。この成功を受けて、「Saturday Night〜」に収録されていたその名も「Sing Along」というタイトルの曲をオープニング・テーマにしたテレビシリーズが制作されるようになったのですね。
 アレンジ的には、メロディーの上にハーモニーがのるという、バーバーショップのスタイル。基本的にはギター、ベース、ハーモニカだけのシンプルな伴奏ですが、合唱には思い切りエコーがかけられており、まるでフィル・スペクターのような「Wall of Sound」が味わえます。CD化された輸入盤がいくつか手に入りますから、ぜひ聴いてみてください。
Sing Along with Mitch More Sing Along with Mitch Still More! Sing Along with Mitch

 1911年生まれのミッチ・ミラーは、本名をミッチェル・ウィリアム・ミラーといって、もともとはクラシックの音楽教育を受けた人でした。15歳の時には、すでにオーボエ奏者としてオーケストラのメンバーになっています。1932年にイーストマン音楽院を卒業したあと、彼はニューヨークでアンドレ・コステラネッツや、あのジョージ・ガーシュインのオーケストラでオーボエ奏者を務め、1936年から47年まではCBSラジオ交響楽団のメンバーとして、あるいはソリストとして、多くの録音を残しました。R・シュトラウスのオーボエ協奏曲をアメリカで初演したのも、じつは彼なのです。
 1948年に、彼はA&Rマン、いわゆるレコーディング・プロデューサーへと転身します。最初はマーキュリーそして、1950年からはコロンビア(CBS)レーベルで、多くのポップスの新人を育てるという仕事に従事するのです。パティー・ペイジの「テネシー・ワルツ」や、ローズマリー・クルーニー(ジョージ・クルーニーの叔母さん)の「カモナ・マイ・ハウス(家へおいでよ)」などは、彼のプロデュースになるものです。同時に彼は、彼自身をアーティストとしてプロデュースして、さっき述べたような数々のヒットを生んだのですね。

DVORAK
Symphony No.5(9)
Leopold Stokowski/
His Symphony Orchestra
BMG
ファンハウス/BVCC-37322
 ところで、このCDは、レオポルド・ストコフスキーが1947年に「ヒズ・オーケストラ」を指揮して録音した、「新世界」ですが、この中の第2楽章のコールアングレソロは、このミッチ・ミラーが吹いています。本名の「ミッチェル・ミラー」でクレジットされているため、おそらくレコード会社の人も気が付かなかったのでしょう、ライナー・ノーツではそのことは触れられてはいません。というより、このライナーを書いた人は「ホルンのミッチェル・ミラー」などというとんでもないまちがいを披露しているぐらいですから(イングリッシュ・ホルンはホルン奏者が吹くと思った?)そこまで期待するのがそもそもまちがいなのでしょうが。余談ですが、このライナーにはもっとすごいまちがいがあるのですよ。それについては、こちらをご覧下さい。

 CDもいいですが、この「ミッチと歌おう」のテレビシリーズ、DVDあたりで陽の目を見ることはないのでしょうかねえ。昔は白黒でしか見られなかった映像を、ぜひカラーで見てみたいものです。ちなみに、1999年の資料によれば、ミッチ・ミラーはまだまだ元気で、クラシックの指揮者として全世界を飛び回っているとか。

(10/8/3追記)

去る7月31日に、ミッチ・ミラーはお亡くなりになったそうです。享年99歳、大往生でしょう。

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