TopPage  Back


(05/6/13作成)

(05/7/26掲載)


2-on-1:(英)(ツー・オン・ワン)
下に記されたロゴの拡大(↓)
 いわゆる「三角関係」、つまり一人の女性が、二股をかけて2人のオトコを弄ぶこと、ではありません(ちょっとヒワイ)。「2-in-1」とも呼ばれることもある(もっとヒワイ)この言葉は、かつてLPというフォーマットでリリースされたアルバム2枚分を、そのまま1枚のCDに収録したものを指し示すものなのですよ。これは、主にポップス、特に70年代以前のいわゆる「オールディーズ」のアルバムをCDに復刻する際によく見られる方式なのですが、「コンピレーション」という、編集の手が加えられた形ではなく、きちんと2枚のアルバムの曲順が変えられずにそのまま収録された場合にのみ、この言い方が使われます。そして、ジャケットにも、その2枚のオリジナルLPのものが印刷されているという点が、重要になってきます。上でご紹介したのは、レイ・コニフ・シンガーズのファースト・アルバム(1956)とサード・アルバム(1957)をカップリングした2-on-1ですが、このアルバムの場合、元のLPのジャケットの裏に印刷されていたライナーノーツまで復刻されています。今となってはとても入手出来ないような貴重なLPと同じ音源が、2枚分まるまる、しかも安い価格で手にはいるのですから、コレクターにとってはこんな嬉しいものはありません。

 ところが、ここで、ちょっと疑問が起きませんか?クラシックの場合、例えば「運命」と「未完成」が表と裏に入っていたLPってありませんでした?ベートーヴェンの「交響曲第5番」は30分ちょっと、シューベルトの「交響曲第番」は約25分ほどの演奏時間ですから、合計で1時間弱のものが1枚のLPに収録されていたことになりますね。そもそもLPというのは、1時間以上入れることが出来るフォーマットではなかったのでしょうか。ですから、それを「2枚まるまる」せいぜい80分しか容量のないCDに収めることなど、出来るものなのでしょうか。そうです。確かに「クラシック」の場合は、LP1枚に1時間以上入れることは可能です。ものの本によれば、「片面」に収録された最長のものは「エロイカ」全曲でなんと4646秒だそうですから、単純に2倍にすれば1時間3332秒までは「入る」ということになります。しかし、ポップスでは、特にロックなどの場合、どんなに頑張ってもそれは45分以上は無理なのです。音楽の種類によって収録時間が違うなんてあり得ない、と思うかも知れませんが、これは厳然とした事実。その鍵は、このLPの溝を撮った写真に秘められています。
イエスタデイ・ワンス・モア(レイ・コニフの国内盤コンピ) メシアン/我が主イエス・キリストの変容(英DECCA盤)
 左がポップスの溝、右がクラシックの溝。ポップスが割と均質に見えるのに対して、クラシックでは濃淡の差が激しいのが分かるはずです。LPの溝というのは、さすが「アナログ」というだけあって、音の振動数や振幅がそのまま溝の形になって現れています。音が大きければ溝が振れる幅は広くなり、音が小さくなれば振れる幅は狭くなるのです。フォルテシモからピアニシモまで、音量の幅、いわゆるダイナミック・レンジの大きいクラシックでは、その音量の変化がそのまま溝の振れ幅の違いになって、目で見ることが出来るわけです。そこで、ピアニシモが続くようなところではもっぱら狭い振れ幅の溝だけが続くことになりますから、溝と溝の間隔、つまり溝を刻むピッチを狭くして、単位面積あたりの溝の量を増やし、収録時間を長くすることが出来ることになります。これは「ヴァリアブル・ピッチ Variable Pitch」と呼ばれる技術で、カッティング・レース(カッティング・マシーン)に送り出すテープレコーダーの再生ヘッドの前にもう一つヘッドを置いて、音の大きさを「予知」し、それに応じたピッチを設定するというものです。
 しかし、この技術はもっぱらクラシックのような小さな音が続く部分の多い音楽の場合にしか使うことは出来ません。ロックなどの場合は、常にリズム帯がビートを刻んでいますから、音の大きさは常にほぼ一定、しかも、それは「大きな音」で一定しているものですから、刻まれる溝の振れ幅は広いままで一定という状態になり、必然的に収録時間は短くなってしまうのです。さらに、この時代の音楽の作られ方を考えてみると、1曲の長さはほぼ3分前後という「お約束」があったことも見逃せません。1枚のアルバムで提供できる曲の数はせいぜい10曲から12曲ですから、殆どのアルバムの収録時間はまず30分前後、したがって、余裕を持って2枚分が1枚のCDに収まることになるのです。

 この2-on-1、2枚の別々のアルバムではなく、2枚組の形で出ていたライブアルバムにも適用されます。LPの時代には4面を使っていたのですから、途中で3回プレーヤーのところへ行ってレコードを裏返したりしなければならなかったものが、何もしなくても最後まで演奏されてしまうのですから、これはたまりません(実は、クラシック・ファンはすでにオペラに於いて同じような体験を味わっていたのでした)。最初にご紹介したレイ・コニフの2-on-1の中にも、このライブアルバムがあります。それの元のLPが幸い手元にあったので、それと比較してみましょうか。左が表、右が裏です。
LP
CD
 表のジャケットは、LPでは曲目が全て表示されていたのですが、さすがにCDのサイズではポイントが小さくなりすぎるのでそれはなくなっています。面白いのは裏のジャケット。ご覧のように、見事に「裏焼き」になっています。こんな罪のないミスを見つけるのも、ご愛敬。

 さらに、この裏焼きになってしまったライブアルバムの写真を、そのまま別の2-on-1に使っているものもあったりして、そのおおらかさには脱帽させられてしまいますね。かと思うと、このアルバムの裏側では何とも手の込んだことをやっていて、驚かされます。よく見て下さい。ここにいる「5人」の女声コーラスは、もともとは一部がレイの足に隠れていた「8人」のメンバーの端っこをつなぎ合わせたものなのですよ。これは、さしずめ、「8-on-5」ということにでもなるのでしょうか。(レコーディングの際は各パート2人のようですが、コンサートでは、このように1パート4人、つまり女声は8人という編成をとっています)
せっかくなので、私もやってみました。


1.最初の画像を切り取ります。

2.「裏焼き」にします。

3.「足」の外側を貼り合わせ、余計なものを消します。

完璧ですね。

 TopPage  Back

Enquete