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(01/9/7作成)

(01/10/6掲載)


バンダ(伊:banda
 頭や首のまわりに巻いたりする小さめの風呂敷(それはバンダナ)ではなく、目の縁に隈があって、最近はダレ〜ッとたれている動物(それはパンダ)でもなく、フーゾク街で「いいコ、いますよ」と呼びかけられる人(それはダンナ)でもありません。(うっとおしいでしょうが、お約束なので・・・)

 「オーケストラ用語辞典」のたぐいの資料には、「ステージ裏、あるいはステージ外に配置された別働隊」というような事が書いてあります。つまり、本体のステージ上のオーケストラ以外に設置された小編成のアンサンブルのことを指し示す言葉です。レスピーギの「ローマの松」や、ベルリオーズの「レクイエム」などでは、聴衆を囲むように金管アンサンブルが配置されて、音が全方向から聴こえてくるというスペクタクルな効果満点です。また、同じベルリオーズの「幻想交響曲」のオーボエや、ベートーヴェンの「レオノーレ序曲第3番」のトランペットのように、一本の楽器であっても、舞台裏などで奏される場合は便宜的に「バンダ」と呼ばれています。

 オペラの場合では、オーケストラピットではなく、舞台の上で演奏されるものを「バンダ」と呼びます。「ドン・ジョヴァンニ」の宴会のシーンでの木管合奏や、「アイーダ」の凱旋の場でのトランペットなどがそうですね。普通は演奏者もきちんと衣装をつけて(「アイーダ」では裸になって)、場合によってはお芝居もこなさなければなりません。もちろん、全曲暗譜。大変でしょうが、1回やったらハマりそう。そう言えば、今回(2001年秋)ニューフィルで演奏する「タンホイザー」の行進曲でも、ファンファーレを吹く12本のトランペットは舞台の上のバンダという指示になっています。

 ところで、お気付きかと思いますが、このbandaというイタリア語、もともとは「楽隊」という意味の、そう、英語のバンドbandに相当する言葉なのです。イタリア語読みをしたときだけ、このような特殊な意味になってくるというわけなのです。

 ちなみに、クラシック関係で「バンド」と言えば、「ブラスバンド」のように、「管楽器のアンサンブル」を指すことになっています。かのジェームズ・ゴールウェイが、ベリリン・フィルのことを「カラヤンのバンド」と呼んだのは、非常に高等なジョークと取るべきで、決して一般的な言い方ではありません。(確かに、「ラ・プティット・バンド」とか「ハノーヴァー・バンド」という名のオーケストラが存在した時代はありましたが。)

 しかし、他のジャンル、例えばロックの場合は、管楽器が入っていない基本的なリズムセクションのことを「バンド」というのはご存知のとおり。声楽部門からボーカルが参加することもありますね。ですから、「バンドブーム」といっても決して吹奏楽がブレイクしたわけではないのです。

 これがジャズになると、少々事情が変わります。リズムセクション、あるいは、数本の管楽器が入った小さな編成は「コンボ」とよばれ、「バンド」というのは、リズムセクション(ドラムス、ベース、ピアノ、ギター)にトランペット、トロンボーン、サックスがそれぞれ3本以上入ったものを示す言葉になります。さらに、この場合は念をいれて、「ビッグバンド」と言ったりもします。

 ビッグバンドにパーカッションを加えてラテン色を前面に出した、いわゆる「ラテンバンド」も、かつては1つの時代を築いたものでした。戦後の日本を代表するラテンバンドに「見砂直照(みさごただあき)と東京キューバンボーイズ」というのがありました。もちろん、「キューバン」は「キューバ風」という、サルサの国にあやかった命名なのですが、時代の趨勢から取り残されたこのバンドは、今では「東京吸盤ボーイズ」という、蛸の吸盤か何かをかぶって受けをねらうキワモノのグループと誤解されてしまうという、悲しい末路をたどっているのです。
見砂直照と東京キューバンボーイズ

 このように、一口に「バンド」と言っても、そのカテゴリーによって、受け取られ方はさまざま、逆を言えば、この言葉からなにを思い浮かべるかによって、その人のバックグラウンドが分かろうかと言うものです。

 余談ですが、フランス語で「バンドbande」と言った場合は、多くの場合、「録音テープ」をさすということは、あまり知られてはいません。(「ゴムバンド」などに使われる、「細長いもの」という意味の「バンド」ですね。)現代曲などで、「avec bande」と書いてあれば、それは、前もって録音されたテープと一緒に演奏するということ、決して「バンド」を呼んでくるということではないので、念のため。

 「バンダ」の話でしたよね。つい横道にそれて、すみません。

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