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ブタの姿煮....渋谷塔一

(00/9/3-00/9/16)


9月14日

BACH
Trio Sonatas
Florilegium
CHANNEL CLASSICS/CCS 14598
いつも行くCD屋さん、店員さんがいろいろ物知りで、分からないことを教えてもらったりしていますが、たまに自信のない答えが返ってくることもあります。このあいだも、「音楽の捧げ物のトリオソナタは何番目の曲ですか?」ときいたら、「あれは編曲物で、オリジナルではありません」ですって。で、そもそも「トリオソナタ」というのがどういうものかということもよく理解してなかったようなので、それ以上は聞くのをあきらめました。
マスターほど博学ではありませんが、私もライターのはしくれ、そのぐらいは知っていますので、今回はレクチャーといきましょうか。
バロック時代に盛んに作られた「トリオソナタ」という形式、3つの声部のソナタという意味です。この3つというのはバス、つまり通奏低音1にトレブル(高音楽器)2、という編成。通奏低音は大体ヴィオラ・ダ・ガンバやチェロやファゴットのような低音楽器と、チェンバロやオルガンのような鍵盤楽器が一緒に使われますから、普通は実際のアンサンブルの人数は4人以上になります。
このCDで演奏されている4曲、BWV1037103810391079(音楽の捧げ物)は、バッハが作ったそんな編成の曲で、この場合の高音楽器はヴァイオリンとフルートです(ただし、BWV10371038は現在では偽作とされています)。薀蓄ついでに、これらの曲は緩−急−緩−急という4楽章形式になっていますが、これは「教会ソナタ」と呼ばれるものです。
そのほかに、バッハは一人で3声部演奏できる楽器、オルガンやペダル付きチェンバロのために、オリジナルの合奏ヴァージョンを編曲して独奏曲を作りました。有名なオルガンのためのトリオソナタ(BWV525-530)はそんな例です。もっとも、最近ではこれをもとの形に復元して、合奏で演奏することもあります。高音楽器が一つのときは、チェンバロの右手がもう一つのトレブルになります。ちなみに、この曲の場合は、急−緩−急という3楽章形式になっていますが、これは「室内ソナタ」というもう一つの形式です。また、萩原哲晶の名曲「スーダラ節」は、BWV530を参考にして作曲されたと言われています。
どうです。勉強になりましたか?
さて、演奏ですが、ヴァイオリンのポッジャーが期待にたがわぬ名演、何気ないフレーズにとても説得力が感じられます。「音楽の捧げ物」のトリオソナタ(もちろんこれがオリジナル)は絶品です。ポッジャーは別嬪です(あっ)。低音の声部も充実していて、時としてほかの声部より目立つことも。もちろんこれがトリオソナタの醍醐味。だから、フルート2本の曲が多少つまらなく聞こえても、それは仕方がありません。

9月13日

Kammermusik für Bläser
Bläser der Berliner Philharmoniker
J.Galway(Fl) L.Koch(Ob) K.Leister(Cl)
G.Piesk(Fg) G.Seifert(Hr)
DG/469 582-2
行きつけのCD屋さんで、木管五重奏らしきものがかかっていました。聴いたこともない曲でしたが、フルートパートが出てくると思わず「これは」となって、聞きほれてしまいました。とても伸びやかな特徴的な音、もしやと思い現物の裏を見てみたらやはりゴールウェイの名前。CD自体はユニバーサルのエロクェンス・シリーズで1000円ほどですから、迷わず買ってしまいました。
あとでマスターのディスコグラフィーを見てびっくり。このCDの中の5曲のうち、ゴールウェイが参加した3曲(そのうちの1曲はフルートのパートがないので正確には2曲)がはいっている録音は、だいぶ前にLPで出て以来CDにはなっていなかったのですね。これは、ベルリン・フィルに入団したばかりのゴールウェイが、当時の木管の首席奏者たちと一緒に録音した唯一のもの。久しくCD化が待たれていた貴重な音源だったのです。
収録されているのは、ダンツィ、ライヒャといった、管楽器のアンサンブルでは定番の作品。しかし、誤解を恐れずに言えば、吹いている演奏者は楽しいかもしれませんが、作品として鑑賞するにはどうか、という曲ばかりです。昔オーボエの宮本文昭が「こんな曲死んでもやりたくない」と言ったというのは有名な話。
ところが、これがゴールウェイの手にかかると、まるで生まれ変わったようになるから不思議です。輝かしい音色と、たっぷりした歌い方で、どうということのない曲にみずみずしい命が吹き込まれています。
圧巻はライヒャの第1楽章。始まりはもっさりした鈍い感じだったものが、フルートのトリルが入ってくるやいなや、明るく、見晴らしの良い音楽に変貌します。一緒に吹いているプレーヤーも、ゴールウェイにインスパイヤされて、いつになく好調なのが良く分かります。コッホってこんなに音程良かったっけ、ライスターってこんなに艶やかな音色だっけといった新鮮な驚き。ピースクとザイフェルトはマイペースで少し危なっかしいところもありますが、これはご愛嬌、笑って許せます。
CDにするために、おまけでツェラーが参加しているハイドンが入っていますが、これはまったく平凡な出来。ツェラーも名人には違いありませんが、こうやって比べてみると、ゴールウェイがいかに並外れたフルーティストであったかが分かります。
こんな貴重なCDなのに、いかにも廉価盤といった扱いで、内容のすごさがあまり理解されそうもないのは残念です。マスタリングも、ちょっとアンビエンスをきかせてあって多少甘めなのが気になります。「オリジナルス」あたりで、オリジナルのカップリングで出して欲しいと思うのですが、ちょっと無理でしょうね。かといって、「オレジニナル」はちょっと辛いし。

9月5日

MOZART
Concreto for Flute & Harp etc.
N. Harnoncourt/
Concentus Musicus Wien
TELDEC/3984-21476-2
(輸入盤)
ワーナーミュージック・ジャパン
/WPCS-10569(国内盤)
かつてはオリジナル楽器系の第一人者といわれていたアーノンクール、最近ではモダンオーケストラを指揮して、うとうとと居眠りでもしたくなるような退屈な音楽界に新鮮な殴り込みをかけています。
そのアーノンクールが、古巣のオリジナル楽器のアンサンブル、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(こんな団体、まだやってたんですね)を指揮して、モーツァルトの管楽器のための協奏曲を録音してくれました。
これは輸入盤のジャケットですが、国内盤ではアーノンクールと、若い日本人がいっしょに写っています(確かに「いっしょに」いますが、なんだかどうやっても合成にしか見えないのは不幸なことです)。これはご存知ハープの吉野直子。フルートとハープのための協奏曲に参加、したがって、国内盤は彼女で猛烈に売り込もうという腹なのでしょう。
やはり、アーノンクールはこのあたりがホームグラウンドなのではないでしょうか。実に生き生きと、ということは、好き放題にやりたいことをやりまくっていますよ。現在のオリジナル楽器業界では、ひところのようにやたらとオーセンティックなものを追及していた時期はもうすでに通り過ぎて、いかに個性的なもので勝負するかという段階に来ています。楽譜の解釈や演奏様式の正当性というものに関しては必ずしも自信の持てないアーノンクールですから(はっきり言うと「ハッタリ」ということになりますか。顔面ハットリくんはサザンのハラボー。)これはもう願ったりです。
だから、オーボイストもフルーティストも、そしてもちろんハーピストの吉野さんも、決して指揮者に逆らったりしないで、好きなようにさせていれば、とても幸福な音楽が生まれるのです。この人たちが参加している曲のロンドのなんと生き生きとしてること。作為的であるにせよ、これだけ納得させられるものがあれば大成功です。フルート/ハープの「ドォォシシラソ」というフレーズが「ドォォシラッソ」と聞こえるのは、当分夢に出てくるでしょう。オリジナルハープの、まるでおもちゃのピアノのような情けない音も、このアーノンクールの宇宙の中にあっては、立派に輝く超新星です。
クラリネッティスト(?)のように、ちょっとでもさからったりすると、しっぺ返しを食らって自滅してしまいますよ。

おとといのおやぢに会える、か。


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