芸術は、場数だ!....渋谷塔一

(00/6/1-00/6/20)


6月18日

MESSIAEN
Quatuor pour la Fin du Temps
M-W. Chung(Pf), P. Meyer(Cl), J. Wang(Vc), G. Shaham(Vn)
DG/469 052-2(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック/POCG-10288(国内盤 7月26日発売予定)
この間までは、冷たい雨が降ってばかりで、まさにソコビエ・メシアン。だから今回はメシアンだという、大変わかりやすいおやぢです。
有名な「世の終わりのための四重奏曲」を、当代きっての人気者チョン・ミョンフン、ポール・メイエ、ジャン・ワン、ギル・シャハムが共演、でもって、このCDは知り合いに社販で買ってもらったもの。
1曲目からまず、あまりのテンポの遅さに驚かされます。今まで聴き慣れたものと比べると、まるで別の曲かと思われるほどのたたずまい。テンポだけではなく、ダイナミックスも極端な弱音を多用したユニークさ。2曲目の中間部のヴァイオリンとチェロのユニゾンなどは、それに加えて1音1音の音色が微妙に変わったりします。もっとも、これは単にユニゾンのピッチがずれているだけだとも言えますが。
しかし、5曲目や8曲目のとても息の長い、というか、失速寸前の演奏を聴いてしまうと、あることに思い当たらざるを得ません。つまり、これはペルトを経験した世代のメシアンなのではないかと。あの、いつ果てるとも知れないユニークな時間軸が公然のものとして認知されたからこそ、このような演奏が実現したのではないでしょうか。
そういえば、3曲目のクラリネットソロの、ほとんどソプラノサックスと言ってもいいような官能的な音色は、この特別な時間軸の中でのみ存在価値が認められるもの。あのストルツマンでさえ、70年代にはここまで破廉恥にはなりきれなかったのですから。
だから、4曲目のまるで踊り出したくなるようなノーテンキさ加減も、ある種非常に高度なジョークと受け取ることさえ可能になってくるわけです。そうなれば、7曲目のチェロのグリッサンドは、まさしくオンド・マルトノの模倣だという事実を認識するなど、いとも容易なことなのです。
しかし、演奏様式を分析するのと、その演奏にひかれるのとは別の次元の話。はっきり言って私はこの演奏は好きにはなれません。もっと内から湧き出る感情のほとばしりを聴きたいし、特に6曲目などは、もっと高いレベルでのアンサンブルの緻密さを見せてほしいのです。さきほどのストルツマンが参加しているTASHI 盤のような。

6月1日

TELEMANN
Der Tod Jesu
Ludger Rémy
CPO/999 720-2
始めまして。渋谷塔一です。「おやぢ」と呼んでください。弟はロック専門ですが、私はクラシックです。近代や現代を中心にマニアックな趣味を持っていますが、もちろんバロックだってちゃんとカバーしてますし、ポップスも好きですよ。バート・バカロック
というわけで、私が担当する最初の1枚は、テレマンの「イエスの死」。これが初めての録音というわけではありませんが、殆ど聴かれることは無い作品です。
ハンブルクで同時に5つの教会(聖ペトロ、聖ヤコブ、聖ニコライ、聖カタリーナ、聖ミカエル)のカントールを務めていたという、いわば超売れっ子の作曲家だったテレマン、教会の行事に応じて作った音楽は膨大な数にのぼって、福音書をテキストにした受難曲だけでも20曲以上は残っていると言われています。
それで、この曲は70才を過ぎた晩年(といっも、彼は86才まで長生きしましたが)に、教会ではなくて、コンサートホールで演奏するために作ったものです。したがって、タイトルも「受難曲」ではなくて「受難オラトリオ」。礼拝の目的ではありませんから、歌詞の内容も、宗教的というよりは、もっと文学的。この辺がバッハとの決定的な違いなのでしょう。
曲は2部構成。編成は4人の独唱者(Sop,Alto,Tenor,Bass )と合唱、オーケストラ。受難曲につきもののエヴァンゲリストは登場せず、独唱者がレシタティーヴォとアリアで物語を進めてゆく形式をとっています。合唱はコラールを担当していますが、コラールに前後して、ちょっとした曲が付くこともあります。
バッハの受難曲に見られるような、緊迫した情景描写といったものは、ここには見当たりません。テーマはキリストの死なのですが、あまり深刻にならずに気楽に作ったという感じがします。最初に出てくるコラールが、バッハのマタイと同じなのには、ちょっと驚かされますが、アリアなどはとてもチャーミングなものばかりです。第1部の最後のテノールのアリアなどは、コロラトゥーラを駆使し、ホルンのオブリガートまで付いたとてもハデな曲になっています。第2部の最後も、ちょっとした仕掛けがあって楽しめます。
ほとんど聞いたこともない人たちですが、とても素晴らしい演奏です。特に合唱はしっとりとした深い響き。ソリストたちもみんな様式感がきちんとしてて、落ちついて聴いていられます。もちろんオリジナル楽器を使用していますが、的確な表現のオーケストラも素敵です。このメンバーでバッハの作品も聴いてみたくなりました。

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