「火の鳥」オタクの ジュラシック・トーク

Perc・K.A.(96・11・14掲載)


 春の定期の曲目が「火の鳥」に決まった時から、「版について、私にもひとこと言わせてくれー」と思っていたのです。その矢先jurassic氏が大変分かりやすい「チャート式」解説図を載せられたので、「ひとこと」がなくなってしまいました。残念。そこで私にはもう少しややこしい話をさせてください。

◆版による楽器編成のちがい

 前号の解説のとおり、「火の鳥」には元祖バレエ版も含め、4つの版が存在しますが、楽器編成からまとめると〔資料1〕のようになります。
1910年版
(全曲版)
1911年版
(組曲版)
1919年版
(組曲版)
1945年版
(組曲版)
編成 4管 4管 2管 2管
特殊楽器 ピアノ・チェレスタ
ハープ3
舞台袖にバンダ
(編成は金管・鐘)
同左

バンダはなし
ピアノ
チェレスタ
(Option)
ハープ1
打楽器は縮小
19年版に
+小太鼓
-チェレスタ
-コール・アングレ
パオーッ! なし なし あり あり

 

ご覧のように、11年版は10年全曲版の抜粋、19年版は全く新しい観点での仕切り直し、45年版は19年版の発展型といえるでしょう。
 4管と2管とのいちばんの違いは「カッチェイ王」の中でのトロンボーンの“パオーッ!”でしょう(何のこと言ってるかわからない方も、練習が始まればどの部分かすぐにわかります) 4管ではフルートとバスクラだけでやっている音形ですが、2管ではバスクラの代わりにファゴットが入り、それにトロンボーンがかぶっています。ブーレーズ=ニューヨーク・フィルの全曲(
1910年)版が国内で最初に発売されたとき、ライナーノートには「なんと、トロンボーンのグリッサンドがない!」という評論家さんもびっくりしているくだりがありました(年代の順序から言うとびっくりの仕方が逆なんですけど)。

◆各ヴァージョンの絡み合い

 4管・2管の響きの比較は、19年版の録音を、モントゥー=パリ音楽院管とその他を(どれでもいい)聴き比べるのが早道です。モントゥー盤(〔資料2〕)は19年という看板を出していますが、実際には19年版の曲を、全曲版の楽譜(4管編成)でやっているのです。ですから厳密には19年ではなく「10年版抜粋」というべきでしょうか(19年版と信じて買った私は騙された)。
モントゥー/パリ音楽院 ピエール・モントゥー指揮
パリ音楽院管弦楽団
(キング
KICC8176
                   
モントゥーは、ステレオ最初期の1956年頃に、自分が初演を指揮した「ペトルーシュカ」、「春の祭典」とともに、「火の鳥」を録音しました。国内盤ではロンドン響を振った「シェエラザード」とカップリングされたCDが、93年6月に発売されています。再販切れになってますが、たぶんまだ入手できるでしょう。
 同じような例は他にもあります。ユーリ・シモノフ=モスクワ・フィルの1981年の来日公演(ムラヴィンスキー=レニングラードがキャンセルになった代役)では、45年版の楽譜で19年版の曲をやっていました(これはたいへんな名演!今でもライブ・録音を通じて私の聴いた中では最高の演奏です)。
 また、前号で紹介があったサヴァリッシュの録音は
11年版となっていますが(実際には11年版+子守歌・終曲)、1983年のN響定期では、同じ曲を「1910年版抜粋オリジナル版」として演奏しています。当時のプログラムによれば、11年・19年版は曲のセレクトがバレエのストーリーに基づいていないのでイヤ、楽器編成は10年版の元祖を活かしたいというサヴァリッシュ氏の強い要望で組まれたとのこと。余談ながら、N響は同じ年に45年版も取りあげています。なぜか指揮者は全然それらしくないギュンター・ヴァント、非常にすっきりした、分かりやすい演奏でしたが。
 ここまで書いてきて、筆者自身も何が何だかわからなくなってきましたので、このへんで終わりにさせていただきます。前号で理解が深まったと思ったら、今回で元に戻ってしまったという方、たいへん申し訳ありません。要は「火の鳥」にはいろんなヴァージョンがあって、しかも実際の演奏では複雑に絡み合っているケースもあるのね、ということなんです。
 私は
45年版がいちばんいいんですけど、19年版をやめて45年版になったりはしないですよね?。