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00/12/19掲載)


 今年(2000年)の流行語大賞は「IT革命」が獲得したそうですね。「岩手県種籾協会」のプロモーションに一役買ったものとしては、これは何にも優る喜びです。しかし、最近の流行はめまぐるしく変わるもの。「流行語」が「死語」になってしまうのは時間の問題なのです。しかし、本来私たちは一度脚光を浴びたものが見る影もなく落ちぶれてしまう姿を見ることが何よりも好きなのでしょう。最近は「死語辞典」なるものが出版されて、「死語に出会う」ことが「流行」になっているのですから、面白いものですね。

 この死語辞典に収録されているかどうかは分かりませんが、現在では全く使われなくなってしまった言葉に「トルコ風呂」というのがあります。これがいったいどういうものだったのかということについては、私には皆目知識がないので、語る資格はありません。きっと、トルコの王宮あたりで使われたような、豪華な浴槽のあるお風呂かなんかのことなのでしょう。
 というわけで、今ではもはや誰も知っていることがなくなったこの言葉ですが、音楽の世界ではいまだに日常的に使われているのです。モーツァルトが作った5つあるヴァイオリン協奏曲の最後のもの、K219というケッヘル番号を持つ作品には、「トルコ風呂」という愛称が与えられているのです。本当ですよ。その証拠に、「レコード芸術」の1997年1月号に掲載された、徳間ジャパンコミュニケーションズというレコード会社の広告をご覧になっていただきましょうか。ねっ、堂々と書いてあるでしょう。
 終楽章の行進曲風の部分が、広大なお風呂でみんなしてしぶきを上げたり、お湯をかけあったりする様子を描写したものなのでしょうね。ちなみに、ヴァイオリン独奏はアゼルバイジャン生まれの幻の巨匠オイストラ。同じく旧ソ連のヴァイオリニスト、オイストラフとは別人です。

 このように、このレコード会社は、私たちが今まで持っていた既成概念を打ち破るような、斬新な情報を与えつづけてくれています。最近でも、CDの帯にこのようなコメントが書かれていました。
 これを見て、まさに目から鱗が落ちる思いをしたのは、私だけではないはずです。本来ならば「首席」と書くべきものなのでしょうが、ドレスデンといえば、かつての東ドイツ。社会主義国家として、同じ体制を持っていた中国共産党の最高責任者の役職をフルート奏者に冠したというところに、音楽家が置かれている社会的な状況までを考慮した洞察の深さを見る思いがしたものです。赤地に白抜きというのも、出来すぎ。

 これと同じように、今まで信じて疑わなかったことを、根底から覆させてくれたドイツのレコード会社があります。
 2002年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの指揮者に小澤征爾が決まったというニュースは、とても衝撃的なものでしたが、それに関連してかどうか、ヨハン・シュトラウス関係の話題が、このところにぎやかです。先頃も「シンプリチウス」という、今まで全く知られていなかったオペラのCDが発売になったということで、大騒ぎになったばかりですね。
 そんな中、珍しい曲を安い価格で提供してくれるということで評判になったARTE NOVAというBMG傘下のレコード会社から、「ヨハン・シュトラウス作曲、ナクソス島のアリアドネ」というオペラが発売されたのです。えっ、「ナクソス〜」って、ヨハンではなくてリヒャルト・シュトラウスの作品ではなかったの?とおっしゃる方、ごもっともです。確かに、リヒャルト・シュトラウスにも、同じタイトルのオペラがあります。ですから、ARTE NOVAも、最初は勘違いをして、このようなジャケットの製品を出してしまったのです。
 しかし、程なくして間違いに気付いたARTE NOVAは、あわてて正しい作曲家名に差し替えたジャケットを印刷して、全世界のレコード店に送ったのですね。ところが、あまり急いだものですから。作曲家の生没年を訂正するのを忘れてしまいました。まあ、これはご愛嬌。
 こうして、今まで誰にも知られることのなかった、ヨハン・シュトラウスの作品が、めでたく陽の目を見ることになったのですぅ。

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