JURA第14号

レオノーレ ―序夜―  轟正都  長編(章)

 全ての仕事を終えたのち、レオノーレは深き眸を擡げこう言った。 ――吾は子を得ずとも倖せであった。孤独こそ、我が、悦びであった。先達も皆無の荒野を前に、私の後に路は出来る。まさに孤独こそが我が道筋であった。

 

パルフィンドの攻防  海棠了  短編

 トレス・アルボーレス。都の中の都。総ての王の王がすまう都。内陸奥深く創られた石造りの都。 徐々に発達した都市と違い、継ぎ剥ぎだらけの街並みではない。……

 

田楽正伝  馳川誠  エッセイ

 「江戸前」が嫌いだ。東京の食い物にはロクなものがない、と思っている。自分が北海道の生粋の土人であるにも関わらず、この点では妙に関西人と意見が合う。 まず、おでんの不味さが許し難い。……

 

鋼鉄の夢  岡本賢一  短編

 壁に耳をあてると、聞こえる。 ミキミキ、ミキミキ、と鉄の壁を喰い進む "やわらかきモノたち" の鳴き声。 私は、モニター画面へむかった。あまり時間がないのだ。 私が小説を書こうと思いたったのは、ほんの数分前である。 正確には三分十四秒前。

 

月は青いか紫か  吉尋まどか  短編

 水色のキャミソール姿の女が、ペディキュアを塗っている姿はセクシーだ。むろん、それには容姿の良さが必要不可欠であるのだが、水無子はちょっときつめの目と、スレンダーなもつ美人である。……

 

サーヴェントの道  志間悟  中編

 胸ほどの深さの穴から、男が躰を起こした。陽はいつのまにか西に傾いている。男は手の甲で額の汗をぬぐった。見ると、傍らの切り株に娘のケリーが座っていた。昼の休憩からずっと、父の仕事ぶりを見ていたらしい。男の名はカーマイン・アピス。スロウブロウ町の熟練サーベントである。……

1995年3月1日出版