13年前に作られたこの野田芝居を再演する意味。
「戦後の終わり」とも言われる現在だからこそ、
その設定やその言葉が胸の奥深くを抉ってくる――そんな気がしました。
野田秀樹のお芝居は、
同じ新国立劇場で観た『贋作・桜の森の満開の下』以来です。
実はあんまり予習もしていなかったため、
主演が宮沢りえだったことすら
劇場に入ってパンフを観て初めて知りました(爆)。
ストーリーもまったく知らず、
舞台の上に大きくかかった日の丸の大風呂敷に
「あ、そういう話なのか〜」と思ったくらい。
(お芝居が始まってその日の丸が舞台上に降りてきたときに
「大風呂敷を広げました」という台詞が入るのは、
さすが野田芝居だよね(笑)。掛詞はハズさない)
ストーリーはこんな感じ(あくまでも「感じ」。
相変わらずあっちこっちが複雑に絡み合っているため、
うまく説明ができません〜(^ ^;;) 。
昭和16年、太平洋戦争開戦の日。
天皇の勅命で「20世紀で消滅してしまうもの」を集めることになった
華岡軍医(手塚とおる)、愛染かつら看護兵(高橋由美子)、
のらくろ軍曹(有薗芳記)、ロボット三等兵(大沢健)。
水まくら、味噌カツ、ドラム缶バケツ、などなどかき集め、
最後に「20世紀を生きた人」を一人21世紀に持っていくことになった。
「いなくなっても害のない悪人」を、ということで目をつけられた
結婚詐欺師の透アキラ(阿部サダヲ)。
華岡軍医たちに「100年眠るカプセル」に入れられたが、
その時に起きた爆発事故で、彼は透明人間になってしまった!
だが、鳥取砂丘でみやげもの屋を経営するサリババ先生(野田秀樹)と
暮らす目の見えないヘレン・ケラ(宮沢りえ)ただ一人には、
彼の姿が見えて…!?
「野田芝居」らしく、
あちらこちらに言葉遊びやシニカルなジョークがちりばめられています。
たとえば「めくら」なんていう放送禁止用語を
何のためらいもなく使うくせに、
「透明人間」と言われるのを嫌がった透が
「じゃあなんて呼べばいいの?」とケラに聞かれると、
「肌が不自由な人?」と半ギモンで答える。
ある意味とてもブラックなんだけど、でもそこには一本通った筋があって、
だからこそそこで笑えるんだよね。
そういう言葉遊びの妙や動きの妙に笑っているうちに、
ストーリーはあっという間に煮詰まっていくの。
ラスト、追いつめられるケラの姿に、ちょっと震えが走りました。
一番のテーマは「言葉を信じられるか」ということ、でしたね。
言葉を自由自在に操る野田秀樹だからこそのテーマ、という気がしました。
舞台装置や衣装もすごいのよ。
まず日比野克彦による衣装。
新聞紙を使ったお衣装になっているんだけど、
そのキャストの性格によって使われている新聞が違う(笑)。
結婚詐欺師のアキラは「オレオレ詐欺」だったり、
アキラに騙されていたマダムはスポーツ新聞だったり、
華岡軍医はそれこそ戦争中っぽい記事だったり。
その他、英字新聞だったり株価欄だったりする人もいたりして。
思わずオペラグラスでまじまじ眺めてしまいました。
舞台装置も、何がスゴイってボール紙を使ったところ。
ちょっとヤオヤになっている舞台自体にも前面ボール紙が敷かれていて、
「あれって毎回貼り替えるのかしら…大変(>_<)」とも思ったのだけど、
それ以外でも、ときどきボール紙のカーペットが出てきて、
まるでホールの赤絨毯のようにさっと敷くのね。
そうしてその上を役者さんが走ってくると、
あら! その足跡がくっきり!
…つまり、砂丘に残る足跡なんです。すごい(*T-T*)。
その他、日の丸が焦げて穴の開いた向こうが星条旗で塞がれ、
「もう日本はなくなってしまったんだ…!」みたいな呻きが
会場を満たしたときも、
その反骨精神にわくわくしてしまいました。
そうそう、舞台装置といえば、
今回もいろいろセリ上がりセリ下がりあったのですが、
最初にセリ上がったのは「風呂屋の番台」でした(笑)。
「うわ〜、番台、一人セリ上がりだよ!」とツボに入ってたのですが、
本当に、最終的にキーオブジェクトとなったものでした!
びっくりした(笑)。
キャストの皆さんもさすがな方々ばかり。
私、初めて宮沢りえって(生の舞台を)観た気がする。
思ったより高い声だけど聞き取りやすかったし、
ボーイッシュな短髪で可愛かった。
お父さんとのやりとりで
「子どもの頃、千代の冨士が好きだった私に」
父「…コイツ女装癖があるんだよ」
という小ネタがあったとき、ネタそのものに笑うだけでなく
ああ、そういえば…と貴乃花のことを思い出すような
下世話な奴でごめんなさいm(_ _)m。
高橋由美子が出ているとは知らなかった!
ていうか、すごい声が出ていてびっくり!!
以前『モーツァルト!』で観たときには
「もうちょっと声量があればな〜」と思っていたのに、
今日はマイクを通さないナマ声で、
しかもかなり大きく聞こえてたよ!
もちろんナンネールとはぜんぜん役どころも違うし、
最初は彼女とは分からなかったくらいでしたが(^ ^;;。
野田秀樹の舞台を観ると、
その後なんだか無口になってしまいます。
うまく伝えきれないのがもどかしいですが、
だからこそ観に行く価値があるんだ、ということで。
fin
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