2002年10月27日 12:00開演
東宝ミュージカル『モーツァルト!

於 日生劇場

   
――『エリザベート』と同時期の公演でなければ…!

前評判通り、言葉では簡単に表せないほど素晴らしい作品でした。
東宝と宝塚で同時期にクンツェ・リーヴァイコンビの作品をやる、
ということをきっと売りにしたかったのでしょうけれど、
でも、もしエリザと同時期でなければ、
私はこの作品にもっとはまりこむことができただろうに…(笑)。

でもホントに、それが残念なの。
ミュージカルナンバーも覚えたいし、
モーツァルトのことももっといろいろ調べてみたい。
でも花組ファンの私としては、
今は『エリザベート』でいっぱいいっぱいなんですよね。
もったいないけど。

ストーリーは、まあ、モーツァルトの一生を描いてはいるんだけれど、
モーツァルトの一生と聞いて
最初に誰もが思い浮かべる映画『アマデウス』とは切り口が
かなり違います。

モーツァルトを演じるのは二人。
ヴォルフガング(井上芳雄)と子役のアマデ(石川楓)。
神童と呼ばれた子供時代のアマデウス=才能はそのまま、
身体だけ大人になり、人らしく女の子と遊んだり悩んだり、
父やスポンサーからの自由を求めてさまようようになるさま、
そして作曲のために自らのいのちを削るさまを、
二人で演じることによって描いてます。

井上くんのヴォルフガング。
井上くんの舞台を観るのは、
彼の初ミュージカル、東宝エリザのルドルフ以来ですが、
いつの間にこんなにまん中に立つオーラを身につけたの! という感じで、
素晴らしかったです。
本当はあんまり声が好きじゃないんだけどね。
声の上の部分だけ天井にぶつけたように真っ平らな印象がして(^ ^;;。
でも、とても踊れるし、歌えるし、
本当にミュージカル界の期待の新星だということがよく分かります。

そしてアマデ。
日本の子役って上手くないもんだと決めつけてましたが、
…上手かったよ(*^ ^*)。
もしかしたら一言も言葉を発さないのがいいのかもしれないけど、
とにかく作曲をしたい! 感情を譜面に映し出したい! という一念のもと、
ヴォルフガングが女の子と戯れるのを嫌そうに見てたり(笑)、
ウィーンへ行こう! とヴォルフガングのコートの裾を引っ張ったり、
でも落ち込んでるコンスタンツェのもとに彼を連れて帰ったり、
言ってみればモーツァルトの良心の部分を素敵に演じてました。
彼の演技が下手だったら、
本当にまったく入れないお話になってしまいかねないものだから、
彼のうまさは賞賛すべきものだと思うです。

それから今までのイメージをイイ意味で覆してくれたもう一人が、
コンスタンツェの松たか子!
こんなに歌える人だとは、ゴメンナサイ、思ってませんでした。
今まで実はあんまり好きではなかったんだけど、
いやいやもう、ゴメンナサイ、本当に素晴らしかったです。
感服。
髪を振り乱して歌い踊る姿に、凛々しささえ感じました(*^ ^*)。

逆に今までのイメージをさらに助長した人――、
それはコロレド大司教の山口祐一郎(笑)。
東宝『エリザ』のトートの時から、
歌は文句なく素晴らしいけれど、けっこうお芝居って…どう?
っていうか、独特な仕種…面白くない?(笑)
と思っていたのですが(ファンの皆様、ゴメンナサイ)、
今回、コロレド大司教というモーツァルトのいわばスポンサー、
しかもわがままなスポンサーを演ずるに当たり、
ちょっとコミカルなところもあったりして
(だって、旅の馬車の途中でお手洗いの用を足したりするのよ!) 、
ますますそんな気分が強くなってきてしまいました(笑)。
腕を振ってリズム取ったり…。

あと、今までのイメージのまま泣かされたのが、
ヴァルトシュテッテン男爵夫人を演じた久世星佳さん。
私が泣いた3シーンのうち2シーンは、彼女の歌でした。
とくに1幕第11場、彼女がモーツァルトをウィーンに誘い、
父の反対にあいつつも、説得するシーンでの、
彼女の歌う「星から降る金」というナンバーが素晴らしいの。
父の保護する小さな世界からモーツァルトを飛び立たせる、
そんな内容を暗喩した曲。
気がついたら両目から涙が落ちていて、
「あれ? まだ1幕なのに…あたしだけ? はやすぎ?」と、
思わず感情のセーブに入ってしまいました(^ ^;;。
彼女自身、そんなにがーっと感情を表に出すような喋り方を
してるわけではない、とても冷めた人なのですが、
それだけに、そして言葉がしっかりと聞こえるために、
本当に心に響いてくるのです。

モーツァルトの姉・ナンネールを演じた高橋由美子ちゃんは
とても可愛かった〜〜(*^ ^*)。
彼女も、こんなに歌えた人だったっけ?
アンサンブルと一緒になったときにもうちょっと歌詞が聞き取りやすいと、
さらに素晴らしいだろうとは思いましたが。

モーツァルトのお父さん・レオポルトの市村政親さんは
もう言うことなし、というくらい完璧だったし、
オペラ『魔笛』を共に作ったシカネーダー役の吉野圭吾さんも
軽妙な演じ方で大きい割にとても愛嬌がありました(*^ ^*)。

そうそう、元月組のあゆら華央さんが、
やまぐちあきこさんというお名前でアンサンブルにいました(*^ ^*)。
けっこうセンターで歌ったりもしていて、イイ感じ。
これからって時に辞めてしまって淋しかったので、
ちょっと嬉しかったです。

役者さんの感想としてはそんなところなんだけど、
演出としてとくに素敵だったところやMYツボについても。

一番私の胸に来たのは、
仮面を被った男(レオポルト)が『レクイエム』の作曲をしにくるシーン。
ここでね、本当の『レクイエム』の1曲目「レクイエム」の
前奏のモチーフが重なってるんです。
今回のミュージカルでは
あんまりモーツァルトの曲は使われてなかったんだけど、
ここでは本当にグッと胸にきてしまい、
胸が痛くなってそれからクライマックスまで胸を押さえ続けてました。
でも欲を言えば、
死ぬ直前には「ラクリモーサ(涙の日)」(モーツァルトは
この曲を書いてる途中で亡くなったと言われてます)のモチーフを
使って欲しかったな。
ちょっと期待してしまってたので肩すかしをくらった気分。
ヴォルフガングが死ぬ直前に歌う曲の中にあった
ゴルゴダの丘を登るようなフレーズではちょっとドキドキしましたが。

まとめ方として(?)上手いなーと思ったのは、
モーツァルトがコンツェルトの完成祝いで友人達と飲みに行った後に
帰ってきたコンスタンツェが、
キレてピアノの上にあったものを全部なぎはらいつつ一曲歌って暗転した後。
彼女がグラスやお花などあんまりにも勢いよく飛ばすものだから、
お片づけどうするんだろう、この舞台には銀橋もないから
銀橋でお芝居やってる間に片づけられないのに、と思っていたら、
ちょっと暗くなってる間に宮廷の給仕や侍女の格好をした人たちが
列を組んで上下から出てきて、一動作でそれをとりあげ、
そのまま下がって、
次の大司教のシーンに繋げていたこと!
黒子としても大活躍なのね、侍女の皆様(*^ ^*)。
(どうでもいいけど、侍女の頭に載せるスカーフが
両脇に海苔の缶をくっつけてるようでおかしかった(笑))

おかしかったといえば、ヴォルフガングの衣装(笑)。
前評判やポスターなどでなんとなくは知っていたんですが、
初っぱなからヴォルフガングがやぶれたGパンで登場したときには
かなりおかしかったです(笑)。
だってそれまでの登場人物は皆様ロココ調の
白くてくるくるしてておっきな頭してるんだもの。
よく考えると、ヴォルフガングだけそういうお衣装なので、
いろんな意味で「人と違う」という意味のある
お衣装なんだけどね。革パンツとか。

しかも、なにげにコンスタンツェも上半身だけ今っぽいお衣装で、
可笑しさ倍増でした(笑)。
だって裾の広がったロングスカートはいてるのに、
上はニットの袖なしハイネックセーターに
アームウォーマーだったりするのよ。
こっちの方がより謎です(笑)。

ああでも、本当にアンサンブルの迫力とか、
インクがなくなって手首から血をとって曲を作る演出とか、
最後には…!(ネタばれすぎるので言えません)の演出とか、
本当に素晴らしい! の一言に尽きます。

たとえモーツァルトが弾いてるピアノが
本当に1780年代当時の(であろう)ピアノフォルテの形をしていて、
でも出てくる音が現代ピアノの音質だったとしても…(爆)。

もう一人のヴォルフガング・中川晃教くんの『モーツァルト!』も
観てみたいなあ〜〜(*^ ^*)。

fin