【ヤキモチ】 「お前ホンット八戒好きな」 前後の脈絡無くそう言われて、俺は箸をくわえたまま固まって捲簾を見てしまった。 いつもの天蓬込み3人の夕食の最中。今日は少し仕事が忙しかったようで、二人が帰ってくるのが遅くてもう23時を回っているけど、俺的にはまだ宵の口な時間だ。基本食事を作るのは捲簾で、弁当なんかを買ってくることも無いわけじゃないが、大抵は作る。遅いのが解ってるときは俺が作ることもあるけど、今日は俺も出掛けてて、帰った時には帰宅した捲簾が料理を作ってる真っ最中だった。んで、天蓬とだらだら話をしながら料理が出来るのを待って、3人で食べはじめて、やっぱり捲簾のご飯は旨いな〜なんて嬉しくなってたトコだったんだけど? 「ナニ、突然?」 思わず聞くと、捲簾は拗ねたように口を尖らせ。 「別に〜」 うわ、ガキくさ。 呆れると同時にかわいいなぁなんて思わなくもないが、だからと言って放置するわけにもいかないワケで。 「別にじゃわかんねーだろ? 言ってみ?」 「別に……、そう思ったから言っただけだし」 思ったからって、なんでそんなこと思ったんだ。困ってトイメンの天蓬に助けを求めてみるが、天蓬はこっちを見もしないでガリバタのキノコを避けて鶏を取り皿に入れる作業に集中してて我関せずだ。仕方なく脈絡を探すべくさっきの会話を思い出す。いつも通り飯食いはじめて、始めは捲簾もいつも通りだった。そんで、そのうち天蓬がガリバタのキノコを避けてるのを捲簾が叱って、でもまぁそれは仕方ねぇなぁみたいな言い方で。 『しめじも喰えって』 『捲簾酷いッ! 僕がキノコ類苦手なの知ってるクセに!』 『知ってるけどよ、旨いのに勿体ねーって』 『そりゃ捲簾が作ったんだから美味しいのは解ってますけど、嫌いなんですもん』 『まぁ、苦手なモン無理に食う必要もねぇべ。ウチだと問答無用で食わされるケド』 『八戒にですか?』 『そー。アイツ作ったもの残されるの嫌いだから』 『そういえば、八戒って料理上手なんですか?』 『うん。メチャクチャ上手いぜ! そのせいで最近俺外食できねぇもん』 『おや、そんなに上手いんですか。是非一度お相伴に預かりたいですね』 『マジで? んじゃ今度家来る? 八戒に頼んどこーか?』 『いいんですか? 嬉しいです』 『週末にでも久々に帰ろうかなぁ。俺も八戒の料理食いたくなったし。なぁ、捲簾もどう?』 そこで冒頭の『お前ホンット八戒好きな』が出てくるわけだが。 八戒の話をし過ぎて妬いたとか、そういうのだろうか。ケド今までけっこう八戒の話はしてるけど、捲簾がこんな反応したことはなかった。もしかしてずっと我慢してたとか? いや、でもなぁ……。そういうことを我慢して黙ってるタイプじゃねぇし。 行儀悪く箸を噛んで見てる俺の視線の先で、食べ終わったらしい捲簾は自分の食器を重ねて席を立った。いつもなら全員食べ終わるまで座って待ってるのに。 声をかけ辛くてその背を見送るけど、特に怒ってるって感じではないから、ただ単純に拗ねているだけみたいだけど、うーん、なんでだ……。 「ねぇ、悟浄」 「ん?」 ガリバタに集中してるかと思った天蓬が不意に口を開く。 「悟浄はどんな料理が好きなんです?」 「俺? えーと……」 突然の話題転換についていけなくて、目をしばたたかせてしまう。え、まさか天蓬話聞いてなかったとか? うわ、コイツなら有りそう。 「んと、シチューとか? あー、でもこれってのはあんまねーかも。肉全般が好き」 「じゃあ、八戒の料理だと何が好きです?」 「八戒の? んー、どれも旨いし好きだけど……強いて言うなら糠漬け?」 「糠漬け。なんか意外なトコ来ましたね」 ザァ……と水が流れる音がして、捲簾がカウンターの向こうで洗い物を始めたから、慌てて箸を動かす。せっかくの捲簾の料理なのに、食わないのはもったいないし、下げられたら切ない。 「糠床が家にあってさ、ソコで漬けてんだけどこれが結構旨いのよ。アイツが実家に帰ってるときは俺が代わりに混ぜてるから愛着もわいてっし」 「成程」 急いで食ってる俺とは対照的に天蓬は相変わらずのんびり箸を動かしていて焦る気配すらない。 「それじゃ、捲簾の料理なら何が好きですか?」 「捲簾の?」 捲簾の……って、何が好きとか、考えたこと無かった。だって八戒に負けず劣らずどれも旨くて好きだし。んー、なんだろ、今まで捲簾が作ってくれた料理で……って、アレ? 「捲簾が作るモンは全部旨いから、これってのは浮かばねーケド……」 それに、俺の気のせいじゃなければ、捲簾が俺に作ってくれたことのある料理って、被ったこと無い。天蓬のリクエストとかそういうのでってのはあるけど、捲簾が自分で考えて作ったモンは全部違うメニューだった気がする。 チラリと捲簾を伺い見ると、ちょうど捲簾も水を止めて俺を見たトコで、バッチリ視線が合う。 「あのさ……」 「お前、マジでそう思ってンの?」 「へ?」 俺の気のせいか確かめようとした言葉を遮って言われた言葉に間の抜けた声が出た。つか、何をそう思ってるって? 「俺の飯、旨いってマジで思ってんの? 別に気を使ってくれなくてもいいんだぜ」 「え……」 視線を逸らしてそう言われてビックリしてしまう。 「ホントに思ってるって! つか俺いつも」 「一度もンなこと言ったことねぇのに?」 「ぅえ!?」 あれ!? 言ったこと無かった!? 俺、いっつも捲簾の飯食って、感動して、そんで…………。 口に出して言ったことは無かったかもしんない。 冷や汗がたらりと流れる。てことはアレか? 俺一度も捲簾に飯旨いって言わねぇで八戒の飯を誉めてたってことか? しかも捲簾の飯食いながら。更に、そんな状態で八戒の飯を食わないかって捲簾に……って。 捲簾の飯、不味いって言ってるようなモンじゃん!!! 「ち、違っ!! 誤解ッ!」 「俺の飯が旨いっつのが?」 「じゃなくて! 捲簾の飯は旨いって! マジで! いっつも思ってるし今日のももちろん旨いから!」 「べっつに気ィ使わなくてイイケド〜? 八戒のが料理上手くてお前好みでも拗ねたりしねぇし?」 思いっきり拗ねてんじゃん! 「八戒の料理は確かに旨いし好きだけど、捲簾のも上手いから! 俺は捲簾の料理も大好きッ!!」 拗ねたように目を逸らしてた捲簾がチラリとこちらを見た。その瞬間、大人しくしていた天蓬が思いっきり吹き出した。 「アッハッハッハッ!!! いやぁ、いいですねぇ。こんな捲簾、僕初めて見ましたよ!」 「テメッ」 慌てて天蓬を睨んだ捲簾の頬が少し赤い。そんな捲簾に天蓬はテーブルを叩いて泣くほど笑っている。 「プッ……! ご、悟浄、知ってました?」 「へ? 何を?」 「貴方が美味しいって言い忘れてた間、捲簾貴方の好みをコッソリ探ろうと、色んな料理作ったり味付け試したりしてたんですよ」 「……ぇ?」 「天蓬ッ!」 「コッソリ八戒を呼び出して聞いたりとかも」 「黙れッ!! 悟浄! 聞くなッ!!」 手を伸ばして天蓬を止めようとしても、カウンター越しなせいで天蓬は涼しい顔だ。 「もしかして、いつも違う料理作ってくれたのって……」 そう言うと、捲簾は観念したかのようにその場にしゃがみこんでしまった。 「お前、旨いとも不味いとも言わねぇし、何が好きとか何を食べたいとか言わねぇから、コッソリ探ってたんだよ……」 あーもー、こんな恥ずかしい事言わせんなと呟いて完全に静かになった捲簾の姿はカウンターのせいで俺からは見えない。だから、立ち上がってカウンターを回り込んで覗くと、捲簾はしゃがんだまま膝の間に顔を伏せて、片手で頭を抱えていた。けど、その耳は真っ赤で。 「……ッフ」 かわいすぎるその姿に笑いそうになるのを必死で堪える。いっつも大人で余裕って態度で、俺を甘やかして大事にしてくれて愛してくれる捲簾の舞台裏。見せないだけで、案外努力家で地道で、でも隠してカッコつけて。 そっと手を伸ばして後ろから捲簾を抱き締めてみた。拒絶なんてしないその首筋に唇を落とすと、捲簾の指が俺の指をキュッと握る。 こんなカワイイ捲簾なんて初めて見た。いつものカッコイイのとは全然違う。 ケド。 こんな捲簾も大好きだって思ったんだ。 幸せな気持ちで笑いながらしゃがんだまま捲簾を抱き締めている俺の耳に、扉の閉まる音が届く。きっと気をきかせた天蓬が自分の部屋に帰ったんだろう。 だから、そのまま捲簾のうなじを舐めた。こんなカワイイ姿を見て手ェ出さずにいるなんて俺にはムリだから。 と、指を掴んでいた腕を引かれた。強く引かれるソレに逆らわずそのままキッチンの床に転がると、まだ少し頬の赤い捲簾が拗ねたような顔で上から俺を見下ろす。 かわいくてカッコイイ、大好きな捲簾。こんな場所じゃヤダなんてワガママは言わねぇから。 そっと両手を伸ばして捲簾を抱き寄せる。 大好きだから、もう我慢なんてできない。 なぁ、捲簾。 腕に力を込めて、捲簾の耳に囁いた。 「早くシて」 |
花吹雪 二次創作 最遊記 貴方の腕で抱き締めて