須磨のキチヌ
平成21年4月19日
3月に異動になり、この春から職場と職種が大きく変わった。これまで、8時半に起床すれば余裕で始業時間に間に合っていたのであるが、それがいきなり6時半、日によっては5時半ということになり、元々夜型であることに加え、夜な夜な深夜まで飲み歩くことが当たり前になっていた体がなかなか慣れてくれない。夜も9時になると睡魔が襲ってくる。これまでも土曜出勤からの流れで深夜0時スタートの大会に参加することは幾度もあったが、仮眠もとらずに勢いで参加することができていた。ところが、この日は仮眠のつもりで寝転んだのが、始動予定時間になっても起き上がれない。結局、家を出ることができたのは、春季大会の開始時刻も過ぎた0時30分だった。このような出遅れは、大体において悪い結果を招くものだが、今回はいい結果を招くことになるのだから釣りには意外性がある。
エサ光に駆け込み、エサを購入している最中に店に電話が鳴った。気になって社長に内容を聞くと、須磨の一文字でチヌの大型が釣れたという情報があったとのこと。この情報が聞けたのも出遅れたおかげ。今日はこの情報に乗っかってみよう。当初は塩屋方面へ走ることにしていたのだが、この情報で方針変更。須磨海岸で竿を出せそうな場所を探してみることにする。
須磨には着いたが、この場所がいいという確固たる情報があるわけでもない。ただ、もう午前1時を過ぎているということもあり、迷っている時間もない。ここは昔の記憶を辿り、空いていた波止の先端から投げてみることにする。ここで竿を振るのは中学生の頃以来、おそらく30年ぶりだ。
まずは正面に向かって第一投。オモリの着水と同時に海面がライトグリーンに光る。これは春先に必ず発生する現象、夜光虫の大量発生に起因する赤潮によるものだ。糸ふけをとるとそれの刺激に反応して緑色の波紋が広がる。魚がボイル驚いてボイルしているのだ。赤潮の影響は気がかりだが、正体不明ながら魚は回遊している。そこに一縷の望みを託し、竿をセットしていく。
ひととおりの準備が終わりひと息つく。しかし、しばらく竿先を凝視してみるも変化がない。一本ずつ回収してみるがエサが触られた形跡もない。まずはポイントを把握しなければならないので、遠近左右へと打ち返しを試みる。その時、大きく右へと振って投げこんでいた竿のドラグがジリッとなった。アタリが小さかったので「アナゴだろうか」と期待もせずにアワセみるが、かなりの重量感だ。これはハネかチヌの可能性が高いと慎重にリーリング。最後の横走りをかわして、海面に浮かせたのは予想外に大きなチヌだ。タモ入れ一発でなんなくランディングに成功した。てっきりチヌだと思ったが、ライトに照らし出されたのはキチヌ。それも45cmオーバーの良型だ。キチヌでこのサイズなら上出来。時計をみるとまだ午前2時すぎ。まるで玄関先のように近い須磨でこのサイズが出れば大満足である。あと1匹追加すれば、2匹のSランク割ポイント合計で競う大会でもかなりいい線いくはずだ。これはがんばらなければ。ところが大会における「あるある」である「1匹目がなんなく釣れた時に限って相棒が釣れない地獄」に突入。その後は、竿を締めこむのはアナゴにフグばかり。期待を超える獲物を授けてくれた須磨の海は、いつも通りの期待薄の姿に戻ってしまった。暇なのでクラブメートのS氏にメールを入れてみる。なんと浜岡まで走ってコトヒキを狙っているとのこと。よく考えたものだ。コトヒキはSランクの基準が比較的甘く、浜岡まで走ってしまえばかなりの確立で40cmを狙えるサイズをゲットできる。しかも群れで回る魚だから2匹そろえるのも楽だし、夜釣りで狙う魚だから夜明けと同時に帰路につけば審査にも間に合う。チヌでコトヒキに対抗するためには、50cmオーバーを2匹揃えないといけないだろう。それはまず無理!機動力を駆使しての作戦に天晴れである。この時点で優勝はあきらめた。ただ、ベストは尽くそう。せっかく須磨での釣りで結果が出掛かっているのだから。須磨は私の投げ釣りキャリアの原点ともいえる場所。ここでの釣りで上位に入ることができれば大いに意味がある。
夜明けまでになんとかチヌかスズキを釣りたいところだったが、無情にも日は昇り夜の部は終了。そして明るくなるとともにフグの猛襲が始まった。マムシはもちろんユムシすら瞬時にして丸裸にされてしまう。とはいえ、エサの付いていないハリに魚が掛かる事はない。最後の竿の投入が終わればすぐに最初の竿の回収にかかるというローテーション釣りの体制で休むことなくキャストを繰り返す。とりあえず小さなクジメでもいいので釣らないと一転して大会には失格になる。早く相棒を釣って楽になりたい。
「あきらめ」「場所移動」が頭をかすめる。時間とともに暑さが加わり体力は限界に近い。ほとんど心が折れかけていた時、巻き取る竿にフグとはなんとなく違う感蝕が。半信半疑でリーリングするとミニサイズのカレイが付いていた。やれやれ、これで大会に提出する権利は獲得だ。あとはサイズアップだけを狙っていけばいい。奇跡を信じて須磨での釣りを続行することにする。
フグとの戦いを続けていると、再び竿先に手ごたえが。フグではないことが確信できるほどに力強い引きだ。良型カレイではないかと思ったが、海面に浮いたのは茶色の魚体、まさかまさかのアイナメだ。35cmはあるだろう。須磨でポン級アイナメと出会えたことがなんとも愉快。今日はこれでもういいだろう。時計はまだ午前10時。打ち返しは続けるが、気分はクルージング状態。こんなに余裕のある展開は久しぶりである。30年ぶりの須磨の波止で結果を出せたことが何よりうれしかった。
春季大会は複数の審査会場があるため、集計結果は後日発表となったが、堂々(といっていいと思います。今回は)の6位だった。
釣果 キチヌ47.8p(拓寸50.2p)、アイナメ36.5cm