神津島のハマフエフキ

平成15年9月13日〜15日

 

 夏の夜釣りで磯魚を狙い始めたのはかれこれ3年前。メインターゲットは南海の宝石・コロダイと怪力の暴れん坊・タマミ(ハマフエフキ)だ。そのうち、コロダイに関してはそれなりに相性もいいのだが、一方のタマミがなかなか釣れてくれない。35cmほどのものを一度釣ったきり。そんななか、レインボーキャスターズ関東支部の面々が、たびたび神津島に出かけては、70cmオーバー、最大で90cmにあと一歩というようなタマミを釣ってくるものだから、ずっと気になって仕方がなかった。竿もタマン用のものを新調し挑戦の機会をうかがっていたのだが、なにせ夏場は仕事の繁忙期にもあたっており、なかなかチャンスに恵まれなかった。
 はじめての神津島行きは今年の8月。海況もおだやかで抜群のコンディションであったが、肝心の本命ポイントが空いておらず、私にはアタリがなかった。そんな中でも、同行メンバーは70cm級をはじめとして、タマミやフエダイを爆釣。私の横で竿を振っていた板東氏も70cm級のタマミをヒットさせ、その凄まじい引きと壮絶なファイトに唖然とするしかなかった。メーターシイラと渡り歩いてきた私にさえ「自分にアタらんでよかった。こんなもんかかったらどないなるかわからん」と思わせるほどのビッグファイト。しかし一方では、これほどにも手ごわいターゲット・タマミと対決したいという気持ちが高まっていった。関東支部では913日〜15日にも遠征を計画しているとのことだったが、すでに定員いっぱい。残念ながら同行はかないそうにない。また、来年と思いつつも「もしキャンセルが出たら行きますので声をかけてください」と未練たらたら。リベンジの誓いを胸に家路につくしかなかった。 

913
 瀬戸内でニベでも狙っているはずが、なぜか神津島行きのフェリーに乗っていた。直前にキャンセルが出て、まさかの直前参加が叶ったのだ。ルンルン気分の反面、宮古島で風速70メートルを記録した台風14号の動きが気になる。進路は日本列島からは大きく外れたが、日本海を東進する際に、強い南風が吹くであろう。一日目は大風のなかでの釣りか。いや、渡れる場所がないかもしれない。
 フェリーの中では今回参加の高槻サーフ片桐会長、吉田氏、レインボーキャスターズの車谷氏、木下氏、板東氏が集まり前祝いのプチ宴会。釣りってこの瞬間がいちばん楽しいのかもと思う。

 昼前に神津島へ到着。車谷氏、板東氏、私は夜のタマミ狙いに備えて民宿でひと休み。片桐会長、吉田氏、木下氏はそのままイシダイ狙いで磯上がりする。風はやや強く、ウネリが多少ある状態。夜には波風とも強まる予想だ。渡船が出ないことも考えて、車で島内の地磯を見て回る。前回はスケジュールに余裕がなく、じっくり観察して回ることができなかったが、なるほど火山島独特の荒々しい磯がここかしこに好ポイントを形成している。
 午後4時、なんとか渡船は港を出たが、すぐに大きなウネリが襲ってきた。最新鋭の船も錐もみ状態で、とにかく怖い。どこでもいいから早く陸地に降ろしてくれーという感じだ。結局、本命の磯までたどり着けるはずもなく、唯一波の上がっていない入り江の磯に降ろされることになった。3人で並んで竿出しするが、直後からウツボの猛襲。一回ごとに仕掛けを交換しなければならないので、煩わしいこと極まりない。足元には瞬く間にウツボの山。しばらくほっておいて少し弱ったところで海に返すのだが(元気なウツボはたいへん危険です!)すぐにまた山ができるという感じで辟易。
 
 午後
7時、タマミが食ってくるならそろそろなんだけどなあと思いながら打ち返すが、相変わらずウツボ、ウツボ、ウツボ。だが、ここで事件が起こる。ウツボらしき引きに適当にやりとりをして、あとは水面に出た奴をずり上げるだけとなった瞬間、突然竿先が海中に突き刺さった。「やけに元気なウツボやな」竿をためて堪えていると、今度は沖に向かって疾走をはじめた。メーターシイラでも10メートル走れるかどうかぐらいに固く締めたドラグが唸りを上げ止まらない。スプールが熱くなっている。ぎゃあー。なんじゃ、こりゃ。一向に止まる気配が無いこの引き出し方。以前、シイラを狙っていてかけた2メートルのサメとそっくりだ。どうやらかかった魚に巨大なサメかエイがとびついたらしい。以前かけたサメは船のアシストもあって寄せきったが今回は陸からのファイト。このままなら200メートルの糸のストックは瞬く間に尽きるだろう。やむをえん。すべるスプールを渾身の力でロック。ブチンという感触とともに竿先が戻る。ふーっ。すごかった。平穏を取り戻したかにみえたが、すでに思わぬアクシデントが発生していた。これまでルアー釣り中心に数々の大物と対峙してきたペンのスピニングリールのギアが破損したのだ。ハンドルを一回転させる間に止まる個所が一箇所だけ。少しでも負荷をかけるとガタガタ・ガリガリと嫌な音をたてて逆回転してしまう。スペアのリールも無く、騙し騙しの続行を余技されなくなる。
 ときおり、ウツボとは違う鋭角的なアタリが出るが針には乗ってこない。なんだろうと思っていると4回目のアタリでようやく乗ってきた。引きがウツボっぽかったので期待せずにずり上げたが、ライトに照らし出されたのはアカハタ。おいしい魚だと聞いていたので、ぜひ釣ってみたかった魚のひとつ。やれやれ、なんとか最悪の丸ボウズだけは逃れることができた。
 その後、朝まで眠らずに打ち返しを続けたが、ウツボのオンパレードに時折ずり上げることさえできないような大きなエイがかかるのみで追加はできず。またもやタマミからのコンタクトがなく夜明けを迎えた。

914
 今日も昨日同様に波風が強い。もはや渡船での渡礁は絶望的。昨日に続いて、陸路本命ポイントの偵察に出かける。どの磯も波しぶきが吹き付け、昨日以上につらい状況。そんななかでも、いくつか竿出しできそうな場所をチェック。しかし、海に出るまでは、ガタガタかつ起伏の激しい磯を10分近く歩かねばならないところばかり。ただでさえ重い荷物をかつがねばならない上に猛暑。二人はここでやるつもりらしいが、道のりを想像しただけで辟易する。そんな時、板東さんが入り江の反対側にあるポイントに入ったらとすすめてくれた。さっそく車を回してもらい偵察にいく。
 ポイントまでは大きなゴロ石が転がっており磯を歩くのと大差がない。しかも、荷物をもってよじ登らないといけない個所が2ヶ所。しかし、ボイントの足場はいい。3メートル角ぐらいのケーソンがあって、その左側に釣りが可能な磯のせり出しがある。さらに左には、乗ることが可能な平石が2つ。どこからでもできそうだ。しかも、ここのいいところは風がフォローであること。ウツボとの格闘で糸のストックがかなり減っているだけに、少しでも飛距離をかせげるのはありがたい。迷うことなくここでやることに決めた。

 いったん宿に戻って準備を整えて再びくだんのポイントへ。夕方4時というのに日差しがきつい。荷物を2回に分けて、なんとかたどり着き、ペットボトルを一気飲み後、さっそく釣座の設営にかかる。一本目のピトンは比較的すんなりと打てたが、もう一本を打つ穴がなかなか見つからない。やっと見つけた穴のすぐ後ろにはくさーい水溜り。竿を触るたびにこの臭いをかぐのも嫌だが、位置的にはここがベスト。仕方なくそこにピトンを打ち込んだ。海水をくみ上げ、幾度となく流してみるがあまり効果なし。この水溜りを気にしながらの釣りになりそうだ。
 日が西に傾くと同時に、またもやウツボのアタリが連発し始めた。今晩もこれに悩まされるのか。やれやれ。しかし以外にも、日が完全に沈んだ頃からウツボのコンタクトがぷっつり途絶えた。ウルトラスーパーチャンス!昼間に見ておいたシモリの際、左右遠近、あらゆる方向へピンポイントキャストでタマミの回遊路を探す。

 19時半頃、それまで斜め左から吹いていた風が、完全なフォローに一瞬触れた。迷わず正面へフルキャスト。今までより少し向こうへ仕掛けを放り込む。以外にもその一帯は手前より浅い。そしてこの一投に来るんじゃないかなという強い予感が的中する。いきなり竿先が絞り込まれた。アタったのは昨日ギアが飛んだリールの方、ハンドルがガタガタ逆回転している。やれるのか?慌てて竿に飛びつき、ハンドルを手でロックして大合わせ。ゴゴゴーンと激しく頭を振りながら強烈な突込みが伝わる。キタッ。足場を確保するためケーソンの上に移動しようとした時、左足を臭い水溜りにバシャッとやってしまった。プーンというメタンの臭い。でも、そんなことには構っていられない。ケーソンへ移りファイト再開。相手は真夏の夜の暴れん坊・タマミ。激しい引きが休むことなく襲ってくる。腕がしびれる。汗が流れ落ちる。取り込み場所はケーソンの右側に設定している。タモもそこに置いてある。右手で竿を持ち、左手で尻手ロープを外す。強引なやり取りの末、ついに足元に魚体が浮き上がった。間違いない、タマミだ。取り込み場所へ魚を誘導し、タモ入れしようとするが、足場が高いのと、暗いこと、さらにはウネリも加わってなかなか入らない。2分、3分、焦る。しびれをきらしタモを放り出してズリ上げようとするが重すぎて持ち上がらない。再びタモを手にするがダメ。抜き上げようとするがやはり上がらない。頭がクラクラする。泣きそうである。10分以上かかっただろうか。数え切れないトライのうちに、ようやくタモに重みが加わった。竿を放り出し、タモの引き上げにかかるが、網が何かにひっかかって上がってこない。仕方が無いので意を決し、ケーソンを取り巻くように這い出している磯に下りる。時おりウネリがあがってくるので素早くやらないと危ない。網をわしづかみにしてケーソン上に投げ上げる。終わった。70cmはありそうなタマミ。腹のそこから「よっしゃー」の雄たけび。こんな充実した「よっしゃー」はいつ振りだろうか。しかし、体のダメージは大きい。酸欠で頭はクラクラ。立ち上がれば眩暈がしてフラフラ。呼吸が全く整わず、へたりこんだまま動けない。魚のやりとり自体より長時間に渡った取り込みがこたえた感じだ。「こんなもん、一晩に何匹も上げたら死んでまうわ」基本的に21で磯に上がらないとダメという意味がよく理解できた。
 一時間ぐらいへたっていただろうか。そろそろ動けるかなと思ったところで再びアタリ。ファイトに入ろうとするが、またもや壊れたリールの竿。さきほどのファイトでさらに故障個所がひどくなったのか、逆回転するハンドルが止められない。ようやくハンドルをロックして合わせた途端にプチン。アワセのタイミングが悪すぎたようでハリスが切れていた。その後、もう一度アタリがでるものの、今度は大事にいきすぎて道糸切れ。ハンドルの固定がうまくいった油断で、足場のいいケーソンに乗るまでアワセを待ったため、遅すぎて根に回り込まれたようだ。結局この夜は12敗。2度の失敗は授業料といったところか。タマミとの対戦で大事なことは強引なくらいのやり取りで、相手に主導権を握らせないこと。そのためには、仕掛け、タックルを万全の状態にしておかないといけない。そのことを痛感した一夜だった。

 二日間、波風にたたられ苦労した夜釣り組とは対照的に、イシダイ狙いの3人組は絶好調。2日間で24匹ものイシガキダイを釣り上げほくほく顔。幻の魚がこんなに簡単に釣れてしまうとは神津島恐るべしである。来年もなんとか機会を作り、今度はタマミの80cm超を目標にトライしてみたいと思う。

2日間の釣果 ハマフエフキ75.9p、アカハタ39.5cm

              

戻る