相模湾のシイラ
平成15年8月9日〜11日 by一本釣り師
8月8日 決戦前夜・・・のはずが
昨年、諸々の事情により開催できなかった銀座楽釣会の夏合宿であるが、2年ぶりに開催することが決定し、その時を指折り数えながら仕事をこなしていた。しかし、今年の夏はどうも不順である。東京の気温がなかなか30度を越えず、梅雨も明けない状況でやきもきしていた。シイラをはじめとする黒潮の使者たちは気温が上がらなければ望み薄だからだ。8月の到来とともにようやく梅雨は明けたものの、南海上には大型台風の姿が。我々の期待をあざ笑うように北上してくる。そして上京予定の8日、ついには関西直撃、列島縦断という最悪のコースをたどることがほぼ確実になった。北海道の菅原氏は夕刻にはすでに東京に到着した模様。鳥取の田苗氏は飛行機をあきらめ、スーパー白兎から新幹線を乗り継いで東京へ向かうとのこと。私も仕事を終えて新幹線で向かう予定だったが、私が新神戸を発つ予定の20時頃には、神戸も暴風域に入る可能性が高く、下手をすれば、途中で足止め、夜明かしというケースも考えられる。ギリギリまで迷っていたが、17時頃から急変し始めた天候についに決断。一日遅れの状況を決定した。いずれにしても、9日の出船は100%無理な状況。いきなり出鼻をくじかれたが仕方がない。今回の夏合宿はどうなることやら・・・。
8月9日 一日目
神戸の朝は何もなかったかのように晴れ渡っている。強い台風の直撃を受けた割には穏やかな町並み。しかし、台風はまだ北陸南部をうろうろしているらしい。テレビでは東海から関東の大雨の模様が映し出され、江ノ島には大波が砕け散っている。台風の動きが遅く、かつ進路を東よりにとったために関東も大荒れの天気になったのだ。これじゃ、明日も無理かもしれんな。やれやれ。東京に集結したメンバーからは「おっさん3人で横浜めぐり中でーす」なんてメールが飛び込んでくる。気は重いが、とりあえず出発せねば。午後5時新横浜着を目指して家を出たが、途中乗り過ごして東京まで行ってしまうハプニングもあり(新神戸や熱海に止まる新幹線が新横浜に止まらないこともあるなんてはじめて知りました)合流が19時を回るという大遅刻をしでかし、3人には大迷惑をかけてしまった。挨拶もそこそこに焼肉屋へ直行。ビールとカルビで乾杯だ。この時点でまさみ丸の見解は、明日の出船は五分五分とのこと。いつもなら釣りの話題が全開となるところが、今日は好調な阪神の話など、その他の話題で盛り上がる場面が多かった。釣りの話題になると、どうしても明日はどうなるのかという悲観的な話になりがちだ。ホテルに帰り着いた時にはまだ、波浪警報が継続中。しかも明日の波の予想も5m。夏合宿の一日目は何もできず、不安を抱えながら幕を閉じた。
8月10日 二日目
朝5時に起床。しかし、誰もなかなか起き出そうとしない。台風は未だ北海道をうろついている。波浪警報も継続中だ。まさみ丸に確認の電話を入れてみる。今、港へ向かっているので少し待ってほしいとのこと。この状況でもなんとか船を出せないかという心意気。頭が下がる思いだ。5分後、運命の電話がかかってきた「出ますので港に向かってください」その言葉に一同大慌てで準備をする。半信半疑のまま2年ぶりの逗子市のあぶずる港へ。逗子駅からしばらく走ると懐かしい風景が広がるが、低い磯には白波が乗り上げている。酔い止めを服用し戦闘態勢は完了。しかし、どれだけ釣れるのかという考えは微塵も無く、どれだけ揺れるのだろうという不安ばかりが募る。
2年ぶりのあぶずる港、そして我らがマザーシップまさみ丸。船の関係者や鶴三船長が笑顔で迎えてくれる。大急ぎで船に乗り込むと同時に出港。揺れる船体は竿を組んでいるだけで酔いがきそうになる。しかし、ウネリは高いものの、想像したほどではない。今日は時間が経過するほど海の状況がよくなる予報。これなら午後からはなんとか釣りになるんじゃないかという期待感が沸いてきた。
まさみ丸はゆっくり、ゆっくりではあるが、南へと進んでいく。出船時には想像すら出来なかったことだが、東京湾の航路筋付近まで南下してきた。ここまで来ると大島もはっきり確認できる。過去にもこのあたりでシイラやカツオ、キハダの爆釣を経験(正確には目撃というべきか・・・)している。南風に乗って三宅島の硫黄の臭いも漂ってくる。すぐにでも釣れそうな感じなのだが、絶好の流れ藻にさえシイラの姿はない。水温が低いらしい。魚も散っているようだ。魚の寄り場を探すのがこの釣りの第一歩。しかし、ここ2日で海の状況は一変している。百戦錬磨の鶴三船長といえども、そう簡単に魚の寄り場を探しだせないのも当然だろう。我々は海面の変化に目をこらしながら、船長の腕を信じるしかない(潮目、漂流物、トリヤマやナブラを探すのもこの釣りの楽しみであります)
気がつくと船は西へと向かっていた。今度は伊豆半島が近づいてくる。このあたりは若干水温が高いようだ。舳先に陣取ったグループがポツポツとシイラを上げ始めた。上がれば60cm以上、メーター近いのも混じっている。銀座楽釣会のメンバーもポイントごとに必死のキャストを繰り返すが、からっきしダメ。この釣りは漂流物などについているシイラをまず自分のエリアに寄せてくることで勝負が決まることが多い。今日のように個体数が少ない日ははっきりと腕の差が出てしまう。今日のところはもうひとつのグループに完敗という状況だ。
時計は13時。そろそろ陸上がりの時間だ。この頃からトリヤマが出始めたが、雑巾でも引っかかったような感触で小さなサバをかけるのがやっと。シイラもいるんだけどなあ。今日はもう、あかんのか。そう考えていると、突如、鶴三船長が南に向かって舵を切った。波しぶきを巻き上げながら全速走行。どこへ行くんだ?10分ぐらい走っただろうか。まとまりはイマイチながら雰囲気のあるトリヤマだ。シイラか、サバか。その時、舳先のグループにヒット。そして船長の声が飛ぶ「おおっ、キハダだ!大事に取りなよ!」一気に色めく船上。そして次の瞬間にボールテージは最高潮に達する「キハダじゃねえ、カツオだ!でっけえ」船上に横たわったのは70cmはあろうかという本カツオ。重さも4キロはありそうだ。こんなデカいカツオ見たことがない「やべえ、帰れないぞ」という船長の絶叫のなか、その後2本立て続けにカツオが上がるがいずれも別グループ。銀座楽釣会のメンバーはどうしてもヒットに持ち込めない。ダイエーに29対0で負けた日のオリックスの心境ってこんな感じだろうか。無線を聞きつけたのかルアー船が続々と回りにやって来る。しかし、魚が潜ってしまったのか苦戦している模様。そしてついには一本釣り遊漁船が登場。それが生きたイワシを撒くものだから、その船の周りだけ真っ白になるぐらいにカツオが浮いて大ナブラ状態、ポンポンと面白いようにカツオを上げていく。生きエサを持ち込まれてしまうとルアーは圧倒的に分が悪い。これにて万事休す。今日は全く釣れなかったが、最後の最後、逆転ホームランに持っていく鶴三船長の野性的カンとフットワークの凄さに舌を巻きながらの帰港となった。とにもかくにも、これで明日への希望は大きく膨らんできた。明日こそは台風の置き土産を釣りまくってカツオ寿司にありつくぞ!?
8月11日 三日目
この日は終日晴れの予想。海もいっそう穏やかになっているはずだ。今日こそシイラ日和のなかで釣りになるんじゃないか。そうなったらシイラもカツオも爆釣だ!そんな期待を胸にあぶずる港へ向かった我々の期待は、出船後5分も経たずに木っ端微塵にされてしまう。ウネリは収まったが、南よりの風が昨日にも増して強く、波の立ち方は今日の方がタチが悪い。鶴三船長も最初のうちは、昨日のカツオポイントへと向かおうとしていたようだが、一転して江ノ島向きへと舵を切らざるをえなかったようだ。この風が収まらない限り、カツオには逢えない・・・。まさみ丸は西へ西へと向かう。途中、絶好の潮目、漂流物の山に遭遇するが、思い出した程度に、やる気全くなしのペンペンシイラの姿が見える程度。昨日よりも魚の反応は鈍いようにみえる。気が付けば、長大な潮目に出た流れ藻の帯に10隻近いルアー船が集結。どの船も他に行き場がないようだ。
そうこうしていると、突然、鶴三船長が東へ全速で走り始めた。どこへ行くの?10分ほどで江ノ島の少し南側、イメージ的にはワカシ釣りのポイントという場所で船が止まった。目前には台風の大雨で川から流れ出たであろう濁りを含む茶色がかった薄緑の水と、清んだ濃紺の水がコントラストを描く、長大でくっきりした見事な潮目が横たわっている。船長の「いいよ」の声もほどなく、いきなり背後からヒットの声。周りもざわめいている。かなりいい型のシイラらしい。左舷側では何人かがヒットに持ち込んだようで、横山氏もついにヒットさせた模様。しかし、私のいる右舷はヒット無し。船が潮目に突っ込む角度で明暗が分かれたのか。ヤル気は抜群だが、群れ自体は小さいようだ。左舷でシイラをかけたアングラーが魚に引っ張られるように右舷に回ってきた。ファイトしている相手は明らかにメーターを超えるシイラ。潮は清んだ水の方から濁った水の方へ流れている。しばらく流していると船が濁った水の側へ入るので、船長がその度に船を前に動かし元の位置へと戻す。何度か戻していると次の群れが入ってくるのか、何人かにヒットする。そんなことの繰り返し。やがて田苗氏、菅原氏もシイラをゲット、そして本日のサポートメンバーである佐竹氏も私の横でシイラをランディング。ついには私だけが蚊帳の外になってしまった。
昨日から分かっていたのだが、今年のシイラはミノーに対する反応がすこぶる鈍い。昨日のグループもペンシルやポッパー、ジャークベイトなど、水面で飛沫を上げたり、トリッキーな動きをするルアーでシイラを上げていた。今日もその傾向は変わらないようだ。私は少々意地になっていた。これまで抜群の実績を残しているミノーのトゥイッチ入りファストリトリーブで食わしたい。絶対食うはずだ。
魚が大きいこともあって、温存していたいちばん大きなミノーを取り出し意地のマシンガンキャスト+トゥッチ+リトリーブ。しかし、ここで思わぬ事態が発生する。ルアーが重すぎたためか、ライン切れでルアーをロスト。再びラインシステムを組まなければならない。しかし、焦りのためかオルブライトノットがなかなか決まらない。その間にも船中でのヒットは続いている。そんな時、鶴三船長が声をかけてきた「がんばりなよ」そう、たぶん、この時点で私だけがノーヒットなのだ。なんとかしなければ。10分ぐらいかかっただろうか。ようやくラインシステムが復旧。しかし、なんとなく締まった結び目の形が不恰好。怖いのでドラグを少し緩めておく。
再び元のミノーに戻してやってみるが反応は薄い。しかも、苦労してせっかく寄せてきたシイラを、左右から投げ込まれたトップウォータープラグに横取りされることが数度続く。ミノーへのこだわりもついに限界だ。トップウォータ用のルアーは小振りのポップクイーンしか持参していない。ベタ凪の状態でのサイトフィッシング用に持ってきたものだが、こんなに波が高い時に使えるんだろうか?ポッピングはそれなりに経験しているが、これまでは、少しでも波気のある時には水面を大きく跳ねてしまい使い物にならなかった記憶がある。ええい、どっちみち釣れんのじゃ、やってみよう。
ポップクイーンに替えての一投目。うまく水飛沫がたつように慎重にポッピングを開始する。ほどなく、背びれを海面に出した良型シイラがチェイス「食え、食え」と思わず声が出る。ポッピングを3、4度。普通ならここでガバッとくるのだが・・・。我慢できずにアワセを入れるが、微かな重みが一瞬かかった後に竿先がフッと軽くなった。慌てて同じ方向にキャスト。すると再び、背びれを見せながらシイラがチェイス。4回、5回とポッピングを繰り返すとその度に奴はにじり寄ってくる。まだか、まだなのか。ほんの1秒がべらぼうに長い。竿先に負荷がかかる。でもまだアワセない。もう一度、そしてもう一度。我慢のポッピングを繰り返しているとルアーの動きが止まった「今だ!」感触をきくように軽めにアワセる。魚がひらをうつ。2度3度の追いアワセ。ドラグからジリジリとラインが出る。よっしゃ、ヒットじゃ「食うとこ見ちゃったよ。がんばって取りなよ」と船長の声。おそらくこれが最初で最後のチャンス。なんとか期待に応えなければ!
しかし、奴は釣られたことに全く気がついていない。ほんの1分ほどでランディング体勢に入ってしまった。メーターはありそうな立派なオスのシイラ。本当にこれで終わり?しかし船長が差し出したタモに納まるかと思った瞬間、ようやく事態を察知した奴は狂ったように疾走しはじめた。瞬く間に20メートル以上もラインが引き出される。そりゃ、そうでしょ。これで終わっちゃおもろない。これからが本当のファイトだ。
寄せては走られ、そして潜られということを何度も繰り返す。腕の筋肉が悲鳴をあげているが、これも久しぶりの懐かしい感覚。「ファイトしている幸せ」とでもいおうか・・・心の底からこの瞬間を楽しんでいる自分がいる。2度目のランディング体勢に入り、今度は横山氏がタモをかけてくれるが、波が高くてうまく入らない。タモを見たシイラは再び疾走。いつもなら焦るところだが、今日は妙な落ち着きがある。「もう一度、ファイトが続行する幸せ」とでもいおうか・・・
気にかかるのはラインシステム。船上で組んだものは信頼度が低い。いきおい慎重なやりとりにならざるを得ない。そのため、寄せてきてからが少々長くなったが、その分、十分に楽しむことができた。船長の差し出すタモに奴が納まる。さっそく検寸。全長120cmジャスト、査長も104cmという正真正銘のメーターオーバーだ。周りの祝福、そして記念撮影。「これぞ、ファイトに打ち勝った幸せ」とでもいおうか・・・・
後続を期待するが、後が続かない。一度、横っ飛びのバイトがあったが、フッキングせず。メーター近い魚がジャンプして飛びつくシーンだけは迫力満点だったが・・・。この頃から風がいっそう強まり、波も高くなってきた。船が大きく傾き、時折、波が舳先を越えんばかりに襲ってくる。恐怖さえ感じる。
沖上がりの時間が迫り、今回の夏合宿もいよいよ最後の仕上げに入る。陸よりのトリヤマでのサバ釣り。20メートルほどラインを送り出してから、少しゆっくりめにジグをしゃくるとガンガン食ってくる。なかには40pクラスも混じるからなかなか捨てたもんじゃない。夜の宴に必要な数量も確保できたので、ほっと一息。台風で幕を開け、釣果どころか出船さえ危ぶまれるなかでの夏合宿であったが、仲間が集まればそんな心配もどこへやら。存分に楽しめた3日間となった。
2日間の私の釣果
シイラ 120p
サバ 25〜35cm 5匹、
番外編 夜の宴
3日間の合宿が終了し、菅原氏はさっそく北海道へと帰路についた。残る3人は横山氏が住む国分寺へ。横山氏が懇意にしている寿司屋で魚をさばいてもらっての宴である。シイラの刺身はほんのりピンク色で口に入れるとなんともいえない甘味が広がる。サバは酢でサッとしめたものをいただくと脂が重厚な味を醸し出し、そのあとに酢のサッパリ感が追いかけてくる。軽くあぶったものもいただいたが、これがまさに絶品。サッパリ感のあとに香ばしさが加わり、これぞプロの仕事と感心するばかり。釣り上げた魚以外の寿司もいただいたが、それぞれのネタにこだわりと工夫があり、どれもたいへん美味しかった。店のご主人も釣りに詳しく、魚についての知識もいろいろと教えていただいた。横山、田苗、鶴田の3人に加えて、佐竹氏、そして今回は釣りには不参加だったが店に駆けつけてくれた矢澤氏も加わり、美味い魚に美味い酒、そして際限なく続く釣り談義と楽しい夜の宴は過ぎていったのでした。
銀座楽釣会・夏合宿フォトギャラリー
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横山氏と田苗氏。ちょっと船酔い気味? | 出船してすぐに江ノ島が拝めます |
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記念撮影その1。左から私、田苗氏 | 記念撮影その2。右から横山氏、菅原氏 |
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ランディングまであと少し! | 国分寺の江戸前・都寿司さん。お世話になりました |
国分寺の江戸前・都寿司さん・・・ちょうど今はシンコ(関東ではコハダの新子のことをさすそうです)の季節だそうです。当日は台風のため入荷せず食べられませんでした。残念。それぞれのネタにこだわりと工夫が感じられて本当においしかったです。お近くの方は是非、足を運んでみてください。0423-21-0760