牡鹿半島のスーパーナメタガレイ(随行記)

by 一本釣り師

 私がはじめて釣りに出会ったのは小学校4年の時。加古川尻一文字でサビキをし、何も釣れなかったことを覚えている。その一年後には、家が海から100mぐらいのところにあったことから、毎週のように釣りに行くようになっていた。中学に入ると吹奏楽の練習で多くの時間を割かれるかたわら、10人位で勝手釣りクラブを作り、須磨や淡路へ通ってはカレイやキスを狙ったものだ。その頃から一緒に釣りに行っている釣友がいる。高田 泰宏。彼とはカレイを追っかけて隠岐をはじめとしていろんな場所へ行った。目標はザブトン、50cmオーバー。そして見果てぬ夢である日本記録。レインボーキャスターズに入会したのも一緒だった。
  彼がはじめて40cmの壁を突破した日、私も当時の自己新である35pを釣った。彼が48cmのマコガレイを小豆島で上げた同じ日、私も仮屋で38.5cmのイシガレイを釣り10数年ぶりに自己記録を更新した。カレイでつながる妙な縁である。
 レインボーに入会するまでは常に、記録的にみて私の方が劣勢だった。今にして思えば「釣れなくても仕方ないわ」という自分自身の甘さゆえの結果だと思うが・・・。レインボーキャスターズに入って正直戸惑った。レベルの高さも感じたし、大所帯のこのクラブの中で自分をアピールするにはどうすればいいのか。考えてみると名刺代わりになるような実績は何一つなかった。このままだと、埋没してしまう。その焦りは私を東北遠征へとかりたてた。とにかくまわりから認めてもらえるようなカレイを釣りたかった。2度目で50cmの壁を越え、6回目で60cmの壁、そして夢でしかなかった日本記録にまで手が届いてしまった。私にとって映画のサクセスストーリーのような一年。その間、高田は様々な状況があり、ほとんど釣りに行けなかった。いつも競い合っていた仲間を置き去りにしてしてしまった罪悪感が心のどこかにあった。彼にもなんとか50cmオーバーのカレイを釣らしてやりたい。そう考えて企画した東北遠征3番勝負。今回はその第2幕である。


 5月19日。天気予報に反して牡鹿半島には怪しげな黒い雲が流れ、蒸し暑い風が吹いていた。しかし、幸いなことに目指すポイントには誰もいない。急いで荷をほどき、思い思いのポイントへ投入を開始する。1時間ぐらいして高田の竿が曲がった。急いで駆け寄るとぷっくりと肥えたきれいなイシガレイ35p。まるでマコのような体色だ。東北ではじめて釣ったカレイだけに高田の表情も緩む。
 しかし、そんな安堵も長くは続かなかった。突然大粒の雨が落ちてきた。加えて四方八方で稲光がしはじめた。急いでラジオで確認すると、大雨警報と雷注意報が発令されており、場所によっては1時間30ミリの雨の可能性があるという。今のうちに打ち返しをしておこうと順番に竿を上げていると、今度はそこかしこに雷が落ち始めた。こうなると竿から離れてうずくまるしかできない。ラッキーなことに雨も雷も1時間ほどで止んでくれたが、全く生きた心地がしなかった。
 日没までの残り少ないチャンスに期待して釣りを再開するが、落雷の影響か、海から生体反応が消え失せていた。

                                                                              5月20日。私はこの日、湾岸サーフと東北サーフの親睦例会に参加させていただくことになっており別行動である。高田を前日と同じポイントへ落としていくことにする。去り際に「スカリ持っとくか」と聞いたが「いらんわ」の返事。実はこの小さなやりとりが後で私にとっての大きな後悔になってしまうのだが・・・。
 石巻で湾岸サーフの吉田代表、東北サーフのイシガレイ日本記録保持者・菅野さん、昨年八戸遠征でお世話になった湾岸サーフ東北の小川さんなどと再開。吉田さんの手引きで牡鹿半島の某所へ向かう。おそらく投げ竿など入ったことはないだろうといった感じの荒々しい地磯。竿を出す前からわくわくする。湾岸サーフ東北の小笠原氏と二人で細長くせり出した磯に渡礁。あいさつもそこそこに投入を開始する。根掛かりは見た目ほどではないが、肝心のアタリが出ない。エサはいつまでもそのままである。マムシ、青イソメに加えて、エラコ、イワシ、キビナゴといろいろやってみるがダメ。納竿は11時なのであまり時間が無い。やはり水温が低いのか。
 残り1時間となり、あきらめかけた時、竿先がコンと叩かれた。えっと思って見ていると再びコン、そしてもう一度コン。慌てて竿をとりアワセをくれる。ありゃ、空振りだ。「小魚にしてははっきりしたアタリやったなあ。話に聞くナメタのアタリにも似ていたような気がするけど・・・」逃げた魚ほど妄想を掻き立てるものはない。あれこれ思いを巡らしているうちにタイムアップとなってしまった。またもやボウズである。 審査会場へ戻り、東北らしいスーパーフィッシュの登場を待つがいつまでたってもどよめきが起こらない。どことも良くなかったようだ。他力本願でもいいから東北らしい魚を見たかっただけにちょっと残念だ。抽選で賞品をいただき、その後懇親会へ。これまでにもお世話になった方、今回はじめて出会った方、多くの人と釣り談義がはずみ楽しい時間を過ごすことができた。ずっとその場に留まりたかったが、高田を置き去りにしたままだ。楽しい宴に後ろ髪をひかれる思いだったが、再び牡鹿半島へ向かう。
 約束の予定時間ぴったりに到着。ちょうど高田も荷物をまとめこちらへ向かってくるところだ。「どないやった」「まあ、見てみ」クーラーを開けてびっくりした。大きなカレイだ。ビニール袋に入っているが、50cmは軽くクリアしている。しかもナメタである。とうとうやったか。「たぶんクラブ記録やから、写真と魚拓とったるわ」2日で400キロ近く車を運転したこともあり、体も疲労のピークだ。宿へと急ぐ。
 写真撮影のためにナメタを出すように言ってカメラの準備をする。さあ、撮ろうかと顔を上げた時、マジで腰を抜かしそうになった。「それ、何cmあるか計ったか」「メジャー持ってないから」「釣ってからその魚どないしとってん」「氷にあててた」「アホ!だからスカリ持っていけって言うたのに。それ55cm以上あるやろ。その他のカレイの日本記録がたしか60.2cmやから実寸でえーと、えーと、あぁ計算できへん。とりあえず計るぞ」今度は大慌てでメジャーの準備である。56cm。あと1.5cmほど足りない。釣ったのは11時頃だというから7時間もの間氷に密着していたことになる。マコガレイの40cm級だってそんなことしたら2cmぐらい平気で縮んでしまうのだ。もったいない。無理やりでもスカリを置いていくべきだった。後の祭りとはまさにこのこと。しかし当人は涼しい顔。「マコと違うからなあ、50cm越えただけで上出来や」まぁそれはそうやけど・・・東北でナメタがどれだけのステイタス魚なのか・・・、理解しろと言う方が無理かもしれない。その後、1時間ほどナメタと格闘して魚拓とり。拓寸57.8cm。いずれにしても協会記録は確実だろう。 おめでとう。

 5月21日。昨日、ナメタの出たポイントを譲ってもらい、せっせと打ち返しを繰り返す。しかしここで思わぬ敵が登場する。今日は平日。港内に止まっていた台船に作業員が乗り込んだかと思うと、護岸造成の工事が始まったのだ。その爆音たるや・・・どうやら岩盤を砕いているらしい。こんなシュチエーションで釣った試しがない。これにて万事休す。今回も私はとほほな結果に終わった。しかし、高田に50cmオーバーを釣ってもらうという目標は見事に達成することができ、満足である。次は今季東北最終戦。スーパーアイナメにチャレンジだ。                                                                                                                       戻る