牡鹿半島、渡波のイシガレイ

by 一本釣り師

 4月の声を聞くと戻りカレイの季節もいよいよ本番。実際、水温が低いと言われながらも、近郊のカレイ場では体力を回復したカレイたちが竿を曲げてくれるようになった。ここまで季節が進めば東北でもカレイが釣れるのではないか、そんな何の根拠も無い甘い思いつきで北へと向かった。今回のパートナーはT田氏。彼は中学校以来の釣友で、カレイの大物を狙ってたびたび隠岐へ遠征した仲である。彼のベストはマコガレイの48cm。小豆島で釣ったものであるから非常に価値があるの。しかし関西ではこのサイズが筒いっぱい。なんとか50cmオーバーの夢をかなえさせてやりたい。そんな気持ちも込めた釣行である。
 まずは私が去年日本記録を釣り上げる幸運に恵まれた牡鹿半島の寄磯へ向かう。私にとっては夢よもう一度。T田にとっては夢への入り口になるはずである。思い思いのポイントへ向かってキャスト開始。典型的な一発場であるのは昨春の釣行で実証済みだ。遠いアタリをひたすら待つ我慢の釣りである。しかし、待てど暮らせど生命反応は無し。あがってくるエサの冷たさから判断するに相当水温が低いようだ。時折漁船が刺し網を上げにくるが、何も入っていない。魚がいないのか、活性が低いのか。しかも刺し網はキャストしているラインより手前に入っている。こうなると仕掛けが引っかかるのを覚悟で投げ込むのが単なる苦痛になってくる。天気もいい。潮もいいはずなのに・・。1日目は何事もなく暮れて行き、さらに2日目も・・・。これは困った、ビックワンどころか魚の顔すら見れるかどうか分からない。必死の打ち返しで小アイナメ一匹、こうなればいかに可愛い釣り場でも見限るしかない。
 3日目、祈るような気持ちで渡波へ。前日の情報収集では、ぽつぽつとカレイが上がっているのは波止の外側で、内側では皆目釣れていないとのこと。特に可能性が高いのは先端周りだという。確かに私が所属するレインボーキャスターズのM会長も先日、先端部でいい釣りをしている。気持ちはひとつ。今まで竿出ししたことは無いが、先端部で一発を狙うつもりだ。
 しかし波止についてびっくりだ。濃い霧があたりを包み込んでいる。視界は数十メートルか。こんな状況で釣りができるのだろうか。でも来てしまったものは仕方が無い。手前で竿を出すT田を残し先端へ向かう。長い道のりをやっとの思いでたどり着いてしばし呆然。好ポイントの先端部が何重にも足場の悪いテトラに囲まれている。ここしばらくの間に新たに入れられたらしい。なんとか竿は出せそうだが魚がかかった時にどうする?必死に歩き回って取り込みルートを探す。無い。無いものは無い。危ないものは危ない。10分ぐらい思案したがここを諦めることにした。大物は釣りたいが命には代えられない。急いで来た道を戻り鉄板付近のポイントを確保して竿を継ぐ。しかし、今度は投げられない。霧が濃いので、漁船が15メートルぐらいのところを航行する。しかも音はすれども姿は見えずという状態。通過の直前まで船の位置が確認できない。これでは糸を掛けられるのは必至だ。潮はすでに引きに入っており、見た目にもごうごうと流れている。ならば無理をすることも無いだろう。内側をやることに決めた以上、チャンスは昼前に訪れるはずの干底の潮止まりの30分間しかないのは覚悟の上。そのころには霧も晴れるだろう。仕方ないので、仕掛けをセットし終えてしばらく寝ることにする。なにせ遠征の3日目。体はくたくたである。
 9時ごろ目を覚ますが依然として霧は晴れる気配が無い。我慢しきれずに2本だけ投入。しかし、予想通り時折漁船に糸を掛けられる。潮も飛びまくっており、根掛りも多発。どうしようもない状態だ。はるか右に流れていった仕掛けを回収して左に投げ込むといったことを淡々と繰り返しながら潮が弱まるのを待つ。
 11時ごろ、沖を流れるゴミの速度が緩んできた。それとともに霧がにわかに薄くなり、対岸の佐須の浜が見えるようになってきた。チャンス到来だ。ビッグサーフ17号の大針にエサを団子のように付けてフルキャストする。すべての竿を投げ込んで順番に誘いをかける。すると2番目の竿が重い。今までの根掛かりとは違う感触。すわ、カレイかと思い巻き始めるがただ重たいだけ。感触はゴミそのもの。首を振る感じも底へ突っ込む感じも無い。半信半疑で巻くうちに波打ち際まできてしまった。しかし、オモリが浮いてこない。捨石の際でさらなる重みが竿先にかかる。姿は見えないがこれはカレイに違いないハズ。そう思って最後の最後、竿先を大きくあおって仕掛けを強引に浮かせた。ようやく見えた。やはりカレイだ。ここは躊躇なく捨石のうえに抜き上げる。よっしゃー。やっと本命に会えたでー。喜びをあらわしたが周りには誰もいない。やれやれと思いながらメジャーをあてると目測より小さい45cmのイシガレイ。あれ、もっと大きいと思ったのに・・・魚に飢えていたので大きく見えたようだ。それでも立派なザブトン。贅沢をいってはばちがあたる。自分の推理どおりに釣った1匹だ。満足、満足。
 さあ、今度は60cmオーバーをと気合が入るが、すぐに込み潮に変わりその流れは再び激流と化した。一縷の望みを託すもこうなってはお手上げ。結局、納竿までチャンスはやってこなかった。
 T田も最後までがんばったが手のひら級1枚に終わった。なんとか夢を見せてやりたかったが・・・。水温がここまで低いとは思わなかった。私のプランニングのミスである。北国は関西とは大きく気候が違うことをあらためて思い知らされた。次の機会には二人揃っての記念撮影といきたいものだ。

3日間の釣果
4月7日、8日
寄磯   ふたりでアイナメ15〜25p3匹
4月9日
渡波   ふたりでイシガレイ2匹(20p、45cm)

水温が低く非常にきつい状態でした。

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