牡鹿半島のカレイ・アイナメ
1月26日〜28日 by 一本釣り師
最近、国内線を運行する各航空会社が競って格安のバーゲンチケットを発売している。これは我々遠征アングラーには心強い味方なのであるが、ひとつ大きな欠点がある。それは、たいていの場合2ヶ月前に購入しなければならないこと。そんな先のコンディションを予測することなど絶対に不可能だ。それゆえ釣況や天候が最悪で、強行か撤退かの判断を迫られることも少なくない。竿を出さないと大物に会える可能性はゼロ。しかし竿を出したところで釣れるとは限らない。さらに想像を絶する厳しい気象条件が待ち構えているとしたら・・・。
1月26日。私は気象情報を気にしながら三陸道を北上していた。3日間の遠征であるが、今晩から雪になり明日は終日降り続きそうだとのこと。しかも降れば大雪の可能性が大きい。今日のうちに勝負を決めないと、明日以降は竿すら出せないかもしれない。しかし、予報通りに東の風が強ければ、予めピックアップしていた新規開拓先はほとんどアウトだ。正直焦りにかられていた。2日目からは伝説の釣り師が合流する予定になっているが、この状況では本当に来るのかどうか疑わしい。来ないのが普通だろう。自分ならそうする。「今回は孤独な戦いになるかもしれないなあ」などと考えながら走っていると、もう渡波まで来ていた。ここが各方面への分岐点だ。どこへ向かうのか決めなければならない。迷いはあったが、アイナメの良型を狙うことにして狐崎へ向けハンドルをきった。
多少道に迷ったが、ほぼ予定通り昼頃に狐崎到着。さっそく波止に上がり状況をみる。なんてことだ。小さな港のすぐ外に巨大な台船が2隻も出ており、大掛かりな工事をしている。地方の波止と沖の波止の間に一文字を設置しているらしい。出発前にばんちさんに聞いていたポイントの真上である。これでは荷物をほどく気にはなれない。さあ、どうする。幸い風は弱い西風。東向きの港でも釣りになりそうだ。そこで当初より航空写真で目をつけていた牡鹿半島の最東端、金華山との水道筋を攻めてみることにして再び車を走らせる。しかし、ここで状況を読み間違えていた。空が急に掻き曇ったと思った途端、突風を伴った強い東風が吹き始めたのだ。万に一の可能性にかけて目的地まで走ってみるものの、時化模様の地磯でなど竿を出せるはずがない。時間も2時近くになってしまった。このあたりで東風を背に受け竿を出せるのは、もはや鮎川ぐらいしかない。
定期便ターミナル側の大波止の先端で今回最初の竿だしだ。外向きのイケス周りともう一方の波止とのあいだの水道を狙う。背後からではあるが、風は時間を追うごとに強くなり、時には立っていられないほどだ。たまに淡路島サイズのイシガレイやアイナメがかかってくるが大物の気配はなし。打ち返し以外は灯台の影で身を潜めることしかできない。空は今にも泣き出しそうだ。体がしびれるほどに冷え込みはじめた。たぶん降れば雪だろう。凍結が怖いので早めに竿をしまった。渡波まで戻ることにする。
さあ、どうしようか。天気予報はさらに悪化している。仙台では30cm近い大雪の可能性ありとラジオから流れてくる。そうなったら釣りなんて不可能だ。あと2日パチンコでもはじいて帰るしかないのか。そう考えているときに伝説師から電話が入った。今、伊丹空港に着いたところだという。この状況で本当に来る気か?いまなら思いなおせるぞ。最悪の天気予報が出ていることを教えてやるが、この男来るつもりだ。何の勝算があって・・・。ともかく明日からは頼もしい相棒とともに戦うことができそうだ。
9時すぎに伝説師が到着。食事をとりながら作戦会議だ。ふたりで航空写真集を眺める。しかし選択肢は薄い。風裏になって雪の影響が少しでも軽減できる場所・・・。行き先は案外簡単に決まった。
夜明け。東京はすでに雪のようだ。ただ幸いなことに天気は踏みとどまってくれている。降りだせば撤退も余儀されなくされる状況の中、早く結果を出しておきたい。急いで竿をセットする。懸命に打ち返しを続けるも、無情な海は心躍るような大物からのメッセージを送ってはくれない。あっという間に3時間が過ぎ、9時ごろにとうとう雪が舞い始める。残された時間はもうわずかなのか?絶望感さえ漂い始めるなか、誘いをかけた竿先が絞り込まれた。慎重に巻き取ると良型のアイナメだ。一気に抜きあげると39p。なんとか拓物をゲットすることができた。まだまだ満足できる型ではないが、関西ではそうそう釣れるサイズではない。まあ、この1匹でなんとか格好はついたか。 伝説師の方は小物の反応もないらしい。「魚なんかおらんで」と弱気な言葉を吐きながらも打ち返しを止めようとはしない。彼はこんな時の方が怖い。何かやらかしそうな気がする。
昼前、雪の降り方が激しくなった。竿だけでなく糸にも着雪しはじめた。トップガイドがつまってすべりが悪くなり、竿先を海につけて溶かしてからでないとキャストできない。東京から福島にかけては大雪で、都心でも10p近い積雪になっているようだ。万事休すなのか・・・。しかし、ここから悪い流れが一気に変わりはじめるから釣りは分からない。
急に暖かくなったような気がした。積もりかけていた雪も解け始めた。寒気の入り方が変わり、雪の質が変化したようだ。ひょっとすると納竿までもつかもしれない。 昼食用のカップラーメンの湯をもらいに伝説氏のところに行く。相変わらずの嘆き節を聞きながら湯を注いでいると、伝説師が手をかけた竿先の曲がり具合がおかしい。「またゴミをひっかけたわ、ゴミや」と言ってるが竿先が絞り込まれているように見える。「魚ちゃうんかいな」そう返すのと同時に竿先が躍動感を伴って引き込まれた。「あ、カレイや。でかい」
慌ててタモを取りに走る。駆け寄ると大きなカレイが水中でくの字になっている。「え、カレイがくの字?どういうこと」その時、伝説師が叫んだ。「ナメタや」。
はじめて見る大型ナメタガレイ。しかも子持ちである。カレイとは思えない独特のくねくねした動き、ヌタウナギに匹敵するようなヌメリ、紫の魚体。それでいてうまそうなビッグワンの登場にふたりとも大興奮だった。
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伝説の釣り師会心の一発大型ナメタ やっとの思いのマコガレイ43p
最終日、前日とはうって変わって抜けるような青空だ。しかし、海の状況はお世辞にも万全とはいえない。大きなうねりが入って今にも波止を越えそうなほどだ。危険さえ感じる。しかも前日、底が見えるほどクリアだった水の色は完全に濁っている。今日はダメかもしれない。でもともかく竿を出してみるしかない。なにせ前日のナメタはインバクトがありすぎる。
全部の竿を出し終えて、順番に打ち返しをする。するとどうだ。竿出し前の不安を吹き飛ばすように、すべての竿にアイナメがついている。型は35pまでだが拓物を2匹追加と上々の滑り出しだ。魚の活性は今日の方が高いようである。しかし伝説師の前にはアイナメがいないようだ。まったくアタリがないらしい。そうこうしているうちにアイナメのアタリも止まってしまった。まあ、一応釣ることは釣ったし、絶望的な天気予報のなか、これだけ釣れば上々かなと思い、のらりくらり竿を振る。今回の遠征はこれにて終了・・・といった心持ちだ。しかし、ここまでの出来事は単なるネタ振りでしかなかったのだ。少なくとも伝説の釣り師にとっては。
口火を切ったのは私の方だった。捨て竿のつもりで入れていた軟弱な竿の先が垂直に絞り込まれる。この覚えのある締め込みはもしかして・・・。ほどなく待ちに待ったマコガレイの姿が現れた。念のためタモですくってもらった魚体は43p。なんや、おるやんか。なんでもっと早く会いにきてくれへんの・・・。
この一匹が伝説師の闘争心に火をつけたのか、四方八方にマシンガンキャストをはじめた。するとどうだ。ほどなく「タモや」というかんだかい声とともに38cmのマコガレイをゲット。そのあとは釣るは釣るは・・・。あれよあれよというまに40p〜50cmマコガレイを3連発。負けじとこちらも対抗するが形勢は完全に逆転してしまった。やっとのことでヒットさせた43pのアイナメもやけ気味に抜き上げる。食事もとらずに打ち返し続けたが、無情に時間は過ぎていった。
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伝説の釣り師、終わってみればこのとおり 43pコンビもかすみまくりで・・・
こうして、21世紀最初の遠征は幕を閉じた。今回の遠征では、悪コンディションぐらいものともしない勇気がなければ大物には出会えないことを再認識させられた。だからといって東北の冬をなめるとえらい目にあう。今回、我々が結果を残せたのも、予想外に天気の崩れが小さかったせいだ。もし、予想通り30cmの雪が降っていたら・・・我々は史上最強の「おバカさん」として語り継がれるところだった。事実、2日目の午前中まではふたりとも「相手がやめようって言うてくれへんかな」という目をして釣りをしていたと思う。
安売りチケットはコンディションを選べない。その分たいへんリスキーである。そのため人が竿を出さないような環境下でのトライとなることも多い。それが怪我の功名となって予期せぬ釣果につながることもあるということだ。