隠岐のマダイ

平成12年7月20日〜21日 by一本釣り師 

 私はなぜか夏場の魚に縁がない。主たるターゲットがカレイであることも原因であろうが、たとえマダイ狙いで釣行しても、暑さにマイって帰ってくるだけだった。通称チャリコキャスター。今年こそはマダイと呼べるものを釣りたい。そう思っているときに浜松の木下氏より隠岐へ行きませんかと声をかけていただき、誘いに乗ることにした。
 7月20日、関東から遠征してきた伊豆サーフの今村、福神両氏を加えた4人は一路境港を目指す。午後のフェリーおきじで隠岐に渡り、そのまま夜釣りに突入する予定である。
ところがフェリーに乗船してみてびっくり。2等席の半分以上と特2等席の全部が予約で押さえられている。「詐欺じゃのお!」と腹を立ててみるもどうしようもなく、甲板のベンチで昼寝をしながら勝負の時を待つ。

 隠岐のマダイには借りがある。10年前ほど前、マダイ狙いで西ノ島ヘ釣行した時のことだった。夜中にコンコンと明確なアタリが出た。すかさず大アワセを入れるとはじめて味わう手応え。そして次の瞬間「グッ、グッ、グーッ」とくる強烈な締め込みに見舞われた。最後の「グーッ」で竿は完全にのされ、なすすべがない。結局糸が切れるのを待つしかなかった。あれは大型マダイではなかったろうか? それ以来、マダイとは縁がなく今日まで来てしまった。でもあの時の感触は鮮明に覚えている。今回の釣行で何とかしたい。今度こそ、そして今世紀中にリベンジを果たしたい。そんな思いを胸に、別府港に迎えに来ていた渡船『ふたまた丸』に飛び乗った。

1日目

 私と木下氏は水道筋の地磯へ渡してもらう。ここは過去に木下氏が80a超をゲットしているポイント、ボーズ覚悟で一発大物にかけるつもりだ。伊豆サーフの2人は湾内に浮かぶ島へ。型よりまず確実にマダイをゲットする作戦のようだ。
 無風状態の磯はとにかく暑い。汗をだらだらかきながら竿を継いでいく。磯の右側に木下氏。左側に私。今回はヌタウナギ(ドロウチ)に強いというタイムシをたっぷり買い込んできた。最近マダイ専用として注目を集めているエサだ。どれほどの効果をあげてくれるか楽しみである。
 準備は万端。波もなく、いかにもベストコンディション。しかし暑さに弱い体質がこの蒸し暑さについていけない。ついつい打ち返しを怠りがちになる。全く釣れそうな感じがしない。
 あたりが薄暗くなり、いよいよ本番だ。蚊の猛襲に備え、蚊取り線香に火をつけている時だった。ドラグが「ガガガガッ」と悲鳴をあげている。目を上げると私の竿だ。竿先が狂ったように叩かれている。あわてて駆け寄るが、既に静寂が戻っていた。「乗っていてくれ」すがる思いで糸ふけを巻き取り、えいっと大アワセ。しかしスカ。何も乗っていない。チモトにつけているビニールパイプが、全長2メートルの仕掛けの最上部まで上がっている。少しの衝撃ではこうはならない。いきなり大きなチャンスを逸したようだ。

 日付が変わるころ干潮を迎えた。次に潮が込んでくる2時ぐらいが時合かなあと勝手に決めてかかりラジオを聞きながら休憩。しかし木下氏はよほどこのポイントに確信を持っているのだろう。いつになく気合い十分で休まない。1時ごろ、突然木下氏が竿に駆け寄る。アタリが出たようだ。「これはマダイや」と興奮気味にリールを巻いている。やがて暗闇の中、ライトに照らし出されたのは33aのマダイ。群れが回ったのか、木下氏はその後も同型を立て続けに2匹あげる。
 私もあわてて打ち返をするが竿先はぴくりともしない。しまった。完全に不意打ちをくらった。時合にエサがついていなければ絶対に魚は釣れない。勝手に勝負時間を決めてかかっていた自分のボーンヘッドだ。その後一睡もせず釣り続けるも、向かい風が徐々に強くなったこともあって、再びチャンスが訪れることはなかった。

2日目

いったん民宿へ戻り朝食。あれこれと作戦を立てるが、南西の風はさらに強まる予報。隠岐でこの風向きは相当にツライ。先週は外洋向きの波止が良かったようだが、そちらはまともに風を受ける。船長もあまり行きたくないみたいだ。結論が出ないまま眠りの世界へ…。
 午後3時に起床。よく寝たわいとまわりを見渡すと3人の冷たい視線が…。私の就寝中に「がおーっ。がおーっ」と例の怪獣が出たらしい。いつもながらご迷惑をおかけします…。
 風はさらに強まっている。本来なら水道筋の昨日とは逆側の地磯へ行くべきだろう。だが、今日は波止にこだわりたい。波止ならひらめきで勝負できる。船長に何度もお願いをし、知々井へ走ってもらうことにした。しかし、知々井崎を過ぎたあたり海は大シケに。これ以上進むのは危険と判断し引き返す。
 結局木下、福神両氏は保々見の一文字へ、私と今村氏は宇受賀の一文字へ上がった。ここは新しい波止のようで、釣りをした形跡は全く無い。ひょっとしたら我々が一番乗りかもしれない。期待が大きい反面、不安もつのる。
 さっそくタイムシをたっぷりつけて沖向きへ投入する。しかし、すごく浅い。水深5メートルぐらいか。しかも藻がすごい。どこに投げても団子状態でかかってくる。底もごとごとしていて岩盤のようだ。オモリをとられるような強烈な根掛りが少ないのだけが救いである。
 こんなところでマダイなんて釣れるのか?早くも諦めムードだ。ここで12時間も過ごさなあかんのかい。今村さんに悪いことしたなあ、素直に風裏の磯に行けばよかった…などと本気で考えていた。
 薄暗くなったころ、足元に根魚狙いで入れておいた竿のドラグが鳴った。まさかと思いながら竿を手にとると心地よい引きが伝わってきた。ライトの先には縞縞模様の魚が。イシダイの31aだった。今村さんにもフエフキの子供が連発できた。「魚はいる。諦めたらあかん」自分に言い聞かせ釣り続ける。
 背後からの強い風は少し気になるが、私にとっては扇風機のようなものでちょうどいい恵みの風。これだと暑さがしのげるので体も動く。遠近左右あらゆる場所に投げ込み、少しでも藻の切れている所を探す。波止の延長線上40bぐらいのところに藻の薄いエリアをみつけた。ただ漁船の往来が激しく怖くて1本しか入れられない。
 午後10時ごろ、さらに風が強くなってきた。糸がふけて、自分の竿同志でおまつりが多発する。糸をほどいていると延長方向に1本だけ入れておいたの竿のドラグが微かに鳴った。竿先を注視するが変化はない。この竿は横風になるのでだいぶ糸ふけが出ているはずだ。「風の仕業かなあ…」と手元の作業を先に済ます。
 ドラグの鳴った竿に歩み寄り、リールを巻く。しかし巻いても巻いてもオモリの重みがこない。『?』。考えられないほど糸が出ているようだ。「もしかして!」そう思った瞬間、ぐーんと竿先が絞り込まれた。大合わせくれると頭を振る感じ。そしてほどなく「グッ、グッ」という締め込みが伝わってきた。10年前になすすべなくひれ伏したあの感触だ。次に強烈なのが来るぞと思い、ドラグを緩める。糸がジリリリッと出ていく。かわした!ついにリベンジの時がきた!指ドラグも使いながら慎重にやりとりする。絶対に無理はしないぞと自分にいい聞かせる。

 タモ入れを頼もうと振り返ると今村さんの姿がない。波止の影で寝ているようだ。何度か呼び掛けるが応答がない。そうこうしているとまた強い締め込み。慌てても仕方ないので、まずはやりとりに集中する。やりとりの合間に20回ぐらい名前を呼んだだろうか。
 ようやく今村さんが気付いてくれた。「タモお願いできますか」の声にすぐに駆け付けてくれた。海中ではウミホタルのぼんやりとした緑の光がタイの形になっている。やっぱりそうなのか、ついに奴なのか?!
 次の瞬間ヘッドランプに照らし出されたのはやはり紛れもない大マダイだった。高い足場で難しい条件だったが、今村さんが一発でタモを決めてくれた。波止にずり上げた魚体を見てびっくり。「でかぁー」と叫んでしまった。「ばたばた」ではなく「どすっどすっ」と暴れる魚体にメジャーを当てると72aもあった。自己記録を45a近くも更新し、クラブの新記録だ。「ヨッシャー!!」隠岐の澄んだ星空に怪獣の叫びがこだました。
 まだマダイはいるはずと2人して懸命に打ち返すが、無情にもこのころから突風を伴う強風が吹きはじめた。油断をすると竿が三脚ごとひっくり返る状態になり万事休す。こうなると釣りにならない。アタリもばったり途絶えてしまった。

 夜が明け木下氏たちが迎えにきた。風表の保ヶ見は相当ひどい状況だったようだ。身の危険を感じる状況下で一睡もせず打ち返したがアナゴしか釣れなかったとのこと。その表情には悔しさと疲労がありありと浮かんでいた。 

 それにしても先日のマコガレイの日本記録といい、今回の大ダイといい、神がかり的な好調さである。手に残る確かな感触にほくそ笑みながら隠岐を後にした。


2日間の主な釣果
マダイ 72.8cm
イシダイ 31cm
タックル
竿 プロサーフSF425CX
リール パワーエアロ6000
道糸 ナイロン5号
ハリス フロロカーボン8号 1本針仕掛け
ビッグサーフ17号
エサ タイムシ、ユムシ


戻る