■連載

市民環境研究所

<第9回> 鳥インフルエンザで「除菌・無菌願望」が…
(ニュースレター No.29号掲載)
 今年の冬が過ぎようとしている。鴨川堤の柳の枝がずいぶんと緑を増してきた。ユリカモメが北に帰る頃である。冬の間、晴れた日だと4時過ぎにユリカモメは群れを形成し、集合に遅れてくる仲間を待つように、しばらくは鴨川上空を広がり縮まりしながら波打つように旋回し、空高くへと消えていく。琵琶湖のねぐらに帰るのであろう。
 この冬は人間のインフルエンザはそれほどの流行しなかったが、鳥インフルエンザが東南アジアから日本へと拡大し、京都はその中心となった。数十万羽のニワトリが殺され、埋められた。養鶏場の責任者が自殺した。鶏インフルエンザの媒介者は渡り鳥だとも言われているが、カラスが感染していることが分かり、媒介者は渡り鳥だけではないようである。我が家の小さい庭にはスズメの群が毎日きてくれるが、おまえは大丈夫かと声をかけたくなる。
 なぜこのようにインフルエンザが鶏に蔓延したのかの説明は、まだまだ情報が不充分で、かつ状況が日々変わっていくから、因果関係を軽々に判断するのは危険である。有史以来、このような疫病の大蔓延は何回かあり、大きな犠牲が発生したから、鳥の世界に発生しても驚くことはないだろうが、これほどの大量感染、大量死は初めてではなかろうか。なぜなら、鶏をこれほど密度高く飼育するようになったのはほんの最近のことであるから。
 今回の事件の報道映像で初めて鶏がどのように飼育され、卵を生んでいるかを知った人も多いだろう。白装束の行政職員が白い粉を大量に撒く姿は異様な光景である。病原体のインフルエンザ・ウイルスは白い粉で殺すことができるのだろうかと不思議に思った方も多いだろう。それよりも、身の回りは病原体がいっぱいいるのだから、殺菌、除菌を徹底しなければという風潮が、この事件をきっかけにして蔓延するのではないかと心配である。
 「除菌、無菌」が最近のはやりである。各種の日用品の宣伝文句・殺し文句は「除菌」である。いままで見聞した除菌商品のうちでの傑作品は「握り部分が除菌加工された剪定バサミ」である。剪定バサミであるから、使用場所は屋外であり、木の枝を切るときに使うものである。それなのになぜ除菌加工が必要なのだろうか。剪定バサミも洗っておいたほうが長持ちするから、剪定したら手を洗うついでに洗ったほうがよい。仮に病原菌がついていたとしても、水洗いをすれば千分の1にも、万分の1にも減少する。はてさて、剪定バサミの除菌加工は何のためだろうか。鳥インフルエンザ事件は、このような「除菌・無菌願望」を助長するのではなかろうかと心配である。
 除菌や無菌思想は、結局は弱い肉体を作ることになるだろう。ユリカモメなどの渡り鳥たちがインフルエンザ媒介者と見なされ、いじめられる前に日本から脱出して無事に帰ってくれるように願う。
                                                 (石田紀郎)

[もくじ] [HOME]

Copyright (C ) 2004 地域・アソシエーション研究所 All Rights Reserved.