リレーコラム「地域・自治」 

今後の福祉の方向性示す小規模多機能ケア

  先日、高槻でグループホームの運営、医療、福祉の現場に携わっている人や高槻生協の職員たちと、「施設入所ではなく、地域で暮らす高齢者、障害者を支えるケアを実践している」長野県伊那市の小規模多機能施設「宅老所おらほ」(おらほ=自分の家)「宅老所かいご家」と、その活動を独自の補助制度をもって支援している伊那市役所を訪ねた。両施設とも古い民家を改修した建物で、バリアフリーでもなく、これといった設備もない。スタッフの方々も決してプロ化しておらず(いい意味で)、また小規模だからこそ可能だと思うが、1日のスケジュールやプログラムも決めず、利用者一人一人のペースに合わせてケアを行っているので、とても家庭的な雰囲気で、高齢者の方も介護されていると意識せず利用されているようだった。
 介護保険制度がスタートして5年。現在、厚生労働省で制度の見直しが進められている。これまで、国は「ゴールドプラン」「新ゴールドプラン」として各地に特別養護老人ホーム、老人保健施設といった大規模施設の整備を巨額のお金を使って急激に進めてきたが、高齢化率がどんどん大きくなっていく中で、制度を維持するための財源の確保と補助の見直しが最大の課題となっている。一方、利用者や医療福祉の現場からは、大規模施設による介護では、ケアが画一的になり高齢者の「生活する能力」「その人らしさ」を奪ってしまい、さらに地域社会から隔絶して「老人をより老人にしてしまう」との批判があった。財政面での解決のためという国と、利用者本位の介護を求める運動側と、出発点は異なるが、皮肉にも今回の見直しでは「脱施設」「介護予防」「在宅介護」へと目的が一致することとなった。
 では各市町村の動きはというと、完全停止状態である。「国の施策、制度がこうもころころ変わっては怖くて何もできない」といった担当課長の言葉が本音であろう。それと同時に、これまでの行政の常識や発想では立ち行かなくなり、市民自ら実践し、行政はそれを受け入れ、タイアップするといった新たな市民と行政との関係をつくっていかなければならないことを示している。そういった視点からも、「今すぐにでも地域で取り組める」「誰でもその気になれば実行できる」この小規模多機能ケアの取組みとそれを支援する行政システムは、今後の福祉全体のひとつの方向性と可能性を示していて、大いに参考になった。

(高槻市会議員・松川泰樹)