▲ 書評 
  私の中の「在日」はいつも複雑で不自由でネガティヴ…「在日」(講談社・姜尚中著)
 姜尚中といえば「朝まで生テレビ」に出ている、鋭いコメントをする在日のエリート教授というイメージでしかなかったが、「在日」というストレートな本のタイトルと、今、話題の本ということで早速、読んでみた。
 著者は朝鮮戦争が始まった年(1950年)に在日2世として熊本で生まれた。その「在日」としての生い立ちが時代に沿って自分自身のこと、家族のこと、日本のこと、朝鮮半島のこと、世界のことが素直に熱く語られている。1960年生まれの在日3世の私も自分に重ね合わせて一気に読んでしまった。
 私の中の「在日」は、いつも複雑で不自由でネガティヴだ。著者同様、物心ついた頃から自分は他の子と違う、選択肢が少ない差別・偏見の中で希望が持てない生活だった。そんな生活にも慣れっこになると、いつしか自分が在日=外国人という意識よりも「個人」(国籍ではなくありのままの私を見て欲しいという思い)の思いが強くなった。そんな自分がこの本を読んで昔を振り返り、自分を見つめ、朝鮮半島の統一、世界の平和について考えさせられた。
 本文の下には歴史的事件、人物、キーワードの注釈が随時入っているので、高校生ぐらいから読めるのではないかと思う。また、団塊の世代にも自分と重ね合う部分が多いのでは? できれば様々な世代、立場の人たちに読まれ、単なる知識にとどまらず、それぞれの中で消化され、ひとりの人間として、世界視野で物事を考え創造できれば、この本が生かされる。故国の地を再び踏むことなく逝った一世のためにも…。  (Y)