原油引き上げの衝撃、世界に広がる嫌米の波
原油高騰の背景に嫌米感情が
イラクに戦争を仕掛け、フセイン政権を打倒した米国は、これでアラブ・イスラム世界に対して優位に立つことができ、攻勢を強めてきましたが、ここにきて両者の力関係は一変し、守勢に立たされました。その主な理由は、価格抑制に動いてきたアラブ産油国ブルジョアジーが、ここにきて一転し、米国の嫌がる原油価格引き上げに踏み切ったからです。これは今後、インフレの脅威に直面している米経済に、ボディー・ブロウのように効いていくでしょう。
石油価格は昨年秋、1バーレル=30$を越え、その後も混迷するイラク情勢を受け上がり続けてきましたが、12日のニューヨーク市場で40$の大台を突破しました。これまで、サウジアラビアは、フセイン政権を打倒してくれた見返りに石油価格を抑制し、ブッシュ政権に協力してきましたが、アラブ・イスラム圏内に広がる嫌米感情の高揚に、彼らも舵を切り替えざるをえなくなりました。
事の起こりは、言うまでもなくバグダット近郊のアブグレイブ刑務所における、米軍人によるイラク人捕虜虐待問題です。連日、世界中のテレビで放映されたこの映像は、アラブ・イスラム圏の人々も見ています。白人兵士によって侮辱・虐待されるイラク人捕虜の姿を見て、アラブ・イスラムの人々が何を思ったか、私たちが想像するに余りあります。
それで、イラク武装抵抗勢力は思い切った反撃に出ます。11日、米フィラデルフィア在住のニック・バーグと名乗る男性の首をナイフで切り落とし殺害する様子を収めた映像が、イスラム系のウエッブサイトで流されました。日本や欧米でこの映像が流されたのは、刀を抜いたところまでで、実際に首を切り落とす場面は流されませんでした。この武装グループは、映像の中で、「米兵によるアブグレイブ刑務所におけるイラク人収容者虐待事件に対する報復だ」と宣言していました。その直後に起こったのが、産油国ブルジョアジーによる原油価格の引き上げでした。
産油国ブルジョアジーは石油収入を全て米金融機関に預け、運用を任せていますが、その彼らも「もう、堪忍袋の尾が切れた」というところでしょう。アラブ・イスラム圏内に広がる嫌米感情の高まりに、彼らも米国にお灸を据える側に回らざるをえませんでした。
暫定統治期限控え問われる国連
このアラブ・イスラム地域における嫌米感情の高揚は波となって、パレスチナを通り、ロシア南部へと広がっています。先ず、この動きは直ちにパレスチナへと波及します。パレスチナ側のイスラエル軍に対する自爆攻撃、これに対するイスラエル軍の報復。原油パイプ・ラインの敷設通過問題を抱えるチェチェン共和国、これに抗議してイスラム過激派による、この国の大統領に対する、公衆の面前での爆弾テロ・暗殺事件の発生。
最早、「米国は世界の警察」と、胸を張っていられる時ではありません。「世界の疫病神」になってしまいました。
ここまで紛糾したイラク問題、6月末の暫定統治期限を迎えて、ブッシュは国連に解決を委ねましたが米軍の占領は続きます。イラク中部のナジャフで米軍はシーア派の民兵を攻撃していますが、イラク人の60%がシーア派です。彼らを敵に回して、米国はイラクで政権など作れるはずがありません。ブッシュの口で言うことと、実際にやっていることとは正反対で、国連の暫定政権作りも難航しています。国連が暫定政権の足場にしようとした統治評議会議長は、殺害されました。
「米軍の占領下での政権作りなど、誤魔化しは止めよう」というのが、反米武装勢力からの国連に対するメッセージです。今、国連がいずれの側に立つのか、問われています。 (渡辺)
|