<<特集>> イラク情勢―影響力維持目論む米国、
矛盾抱えたまま主権委譲の期限迫る
6月末の主権移譲をめぐって各国の駆け引きが活発化している。米国は予想通り、暫定政府の権限を限定的なものにしようとしており、暫定政府の主要省庁の顧問を米国人で占めることによって実質的な影響力を維持しようとしている。また、米軍は指揮権において他国の制限を受け入れることは絶対になく、多国籍軍やイラク国軍を米軍指揮下に組み入れようとしている。仏露などは今後も多国籍軍に軍隊を派遣することはないと早々に表明しており、仏・独・露・中などは実質的な主権移譲を求めている。主権移譲は予定通り演出し、実権は維持したい、しかしそれでは今の状況から脱却できない、というジレンマにブッシュは陥っている。ジレンマを力のみで押し切る優位性は、もはや今の米国にはない。矛盾をかかえたまま主権移譲の期限が迫っている。
◇英に続き米でも元外交官ら書簡を公開
中東地域での大使経験者を含む米国の元ベテラン外交官ら60人が、ブッシュ大統領の中東政策を「米国の信用を損ねる」などと批判する書簡を4日、公開した。書簡はブッシュ大統領あてで、元駐カタール米大使のアンドルー・キルゴア氏が中心になって準備。
◇ブッシュ米大統領 対イラク・アフガン戦費 250億ドル追加要請
ブッシュは5日、イラクとアフガニスタンでの戦費について、05年度予算に250億ドル追加するよう米議会に緊急要請した。当初は11月の大統領選後まで要求しない考えだったが、方針転換を余儀なくされた。イラク、アフガニスタンでの戦費として、米議会は既に03-04年度分として合計1670億ドルを承認しているが、新たな要求が通ると計1920億ドルに膨れ上がる。今回の要求は「つなぎ」的措置で、来年早々にはより大規模な補正予算案が必要となる公算。ウォルフォウィッツ国防副長官は13日、05年度のイラク、アフガニスタンでの戦費は当初見積もりの500億ドルを「確実に超える」と述べ、600億ドルを上回る可能性があることを示唆した。
◇米軍 サドル師派民兵組織へ殲滅作戦展開
米軍はファルージャから撤退する一方で、サドル師派民兵組織マフディ軍への殲滅作戦を連日、展開している。米軍は6日、ナジャフ郊外の州知事庁舎を奪還、サドル師派民兵41人を殺害。イラク中部のカルバラでも同日、多数の戦車を投入しサドル師の事務所を破壊。7日には、ナジャフで民兵18人を殺害。9日夜から10日にかけて、サドルシティーでサドル師の事務所を破壊するとともに民兵35人を殺害。10日から11日にかけて、クーファで民兵13人を殺害。11日夜から12日にかけて、カルバラのモスク付近への大規模な攻撃を行い、民兵約25人を殺害。13日夜から14日未明にかけて、カルバラで少なくとも民兵4人を殺害。14日には、ナジャフで民兵10人を殺害。米軍は聖地の墓地「ワーディ・アッサラーム」にも侵入し、宗教施設イマーム・アリ聖廟ドームにも被害が出た模様。
こうした状況に対し、ナジャフの宗教指導者や部族代表が9日、サドル師派に武装解除を要求し、従わなければイラク警察や部族が強制措置に乗り出すとの最後通告を突きつけた。これに対し、サドル師の側近ハザリ師は11日、米軍の包囲解除とサドル師を拘束しないことを条件にマフディ軍を同市内から撤収することでシーア派の他派や部族代表者らと合意したと述べた。しかし、米軍はこれ以降もサドル師派への攻撃を緩める気配はなく、「サドル師の殺害または拘束」まで軍事作戦を続ける意向である。
◇イラク人拘束者虐待・殺害
組織的関与の疑い強まる
赤十字国際委員会(ICRC)のピエール・クレンブール事務局長は、7日、2003年3月に調査を始めてから再三、米英暫定占領当局(CPA)に改善を申し入れていたことを明らかにした。ICRCは03年10月、アブグレイブ刑務所の拘束者の扱いについてCPAに、戦争捕虜の待遇を定めたジュネーブ条約に違反しているとして虐待を中止するよう要求していたが改善されず、今年2月12日には虐待の実態などをまとめた報告書をCPAに提出、2月26日にはブレマー代表らと会談し、拘束イラク人の処遇改善について協議したという。
米国防総省は昨年4月、キューバのグアンタナモ米軍基地で拘束者を取り調べる際に、睡眠をとらせないなど約20項目にわたる尋問テクニックの指針を作成、承認していた。この尋問規定がイラク人拘束者にも適用された可能性が高い。米国防総省高官は14日、サンチェス司令官が昨年10月、取調べの際に@72時間にわたって眠らせないA45分間腕を上げたままにするB軍用犬をけしかける―などの方法を、必要に応じて上官の許可を得て実施する尋問規定を承認していたことを認め、これらの尋問規定を全面的に禁止したと述べた。19日、米軍法会議は、アブグレイブ刑務所での虐待に関わっていた技術兵に禁固1年、除隊という判決を出した。米軍のみによる裁判で、米軍の組織的関与が十分解明されないままの判決にイラク人の間には不満が広がっている。
◇ホンジュラス 5月中にイラク撤退表明
◇9日 トルコで反米デモ 2万人
◇NATO イラク派兵当面見送り
米政府はイラク中・南部の治安維持活動をNATO軍が主導する構想について、6月のNATO首脳会議で合意するよう期待していた。しかし、NATOの軍事、外交筋によると、11月の米大統領選前に大規模派遣を約束することについて多くの加盟国が難色を示している模様。
◇サマワ周辺の治安状況も悪化
サマワで10日、オランダ兵が警備中に手投げ弾による攻撃を受け、1名が死亡、1名が負傷した。14、15日の夜には連日、サドル師派民兵組織とオランダ軍との間で銃撃戦が起き、オランダ軍はサドル師の事務所を制圧した。
◇G8外相会合 イラク主権移譲で対立
6月に行われる米国シーアイランド・サミットの準備のための外相会合が14日、行われた。「大中東構想」について、中東諸国の改革と自主性を踏まえた「パートナーシップ」構築を目指すことで合意。イラクの主権移譲問題では、暫定政府の権限をめぐっては米と仏・露の意見が対立。当初検討された議長総括の文書化は見送られた。パウエル米国務長官は主権移譲後も治安維持は米軍などが担うことから、暫定政府の主権は限定的になると主張。それに対し、仏・露は、暫定政府は実質的な主権を備えた政府になるべきだと主張した。また、仏・露・加は主権移譲後も、部隊を派遣しない考えを表明した。
◇米国務長官 主権移譲後も指揮権維持
「イラクと協定へ」
米パウエル米国務長官は16日、主権移譲後、イラク軍部隊に関してはイラク国防当局が指揮・統制権を掌握するという原則を述べた後、「戦場における指揮の統一性」を盾に、イラク軍も米軍司令官をトップとする多国籍軍の指揮命令系統に属するのが望ましいと指摘し、「相当期間」にわたって米軍が指揮権を維持すべきだとの認識を示した。
◇在韓米軍の一部 イラク派兵方針
米政府が在韓米軍第2歩兵師団(兵力約1万4000人)のうち、1個旅団規模(約3600人)を数週間以内にイラクに派兵する方針を韓国政府に伝え、両国が近く本格協議に入る。
◇米国防総省 イラク国民会議チャラビ氏見捨てる
月約34万ドルの支援、5月で停止 |