イラクの治安を破壊してしまった米国
              全国民を反米レジスタンス勢力に

公共機関の役割を代行する聖職者協会

 4月8日、イラク・ファルージャで、自衛隊のイラクからの撤退を求めて、4人の日本人が地元の武装勢力によって拘束され、彼らの映像がアルジャジーラを通じて世界中に流されました。このグループは自ら「サラヤ・ムジャヒディン(聖戦旅団)」と名乗っていますが、持っている武器はバラバラ、体格も小柄で一見して素人の集まりであることが分かります。その後、ここで、イタリア人、中国人、韓国人、ロシア人、米国人など、外国人が相次いで拘束されました。彼らが出した声明は、これまでのアルカイダ系の組織が書いたものとは違って、「宗教色がなく、世俗社会の人々が書いたものだ」、と指摘されています。「誘拐」というと、「テロリスト」との答えが鸚鵡返しに返ってきますが、彼らは「にわかテロリスト」、言わば寄せ集めの素人集団にすぎません。
 15日、彼らはイスラム聖職者協会の説得に応じ、日本人人質はバグダッドの彼らの事務所で無事解放されました。イラクで公共機関が崩壊した今、彼らが公共機関の役割を果たしています。サラヤ・ムジャヒディンは声明の中で「日本の中でイラクからの自衛隊撤退を求める声が上がっている」と指摘し、人質解放に当ってこれを評価したことを認めています。
 ファルージャはイラクの中でも際立って反米色の強い地域です。3月30日、ここで4人の米国人が殺害され、彼らの死体を車に繋いで市中を引きずりまわすという極めてショッキングな事件が発生しました。この映像が余りに刺激的だったので、米国ではテレビで放映されませんでした。この4人の米国人は「民間人」と報道されましたが、実際には米軍の警備のために雇われたガードマンでした。こんな情報操作も行われ、私たちは油断できません。
 ファルージャは「スンニ派トライアングル」内にあり、フセイン政権時代に軍、治安機関関係者を多数出しており、その意味でフセイン政権崩壊後、反米感情の強い地域でした。だが、スンニ派はイラク人の中で20%に過ぎません。60%がシーア派で、彼らは主に南部の農村地帯に住み、ここにはナジャフというシーア派の聖地があります。
 米軍が、フセイン政権の支持基盤であったスンニ派を相手にしている内はまだよかったのですが、彼らはイラク人の多数派を占めるシーア派まで敵に回してしまいます。ブッシュが掲げたイラク戦争の大義名分は、「フセイン独裁政権を打倒し、イラクに民主主義を」のはずでした。それが多数派までも敵に回して戦おうというのですから、行き詰まるのも当然です。

中東の政治地図が変わるきっかけに

 米イラク駐留軍司令官キミット准将は「シーア派リーダー・サドル師を逮捕、或いは殺害する」と公言しましたが、その後、まずいと思ったのか、ブッシュはシーア派を国教とするイランに仲介を頼んだ、と伝えられています。2年前の年頭教書で、彼はイランを「悪の枢軸」と名指しで非難しています。その国に仲介を頼むというのですから、「イラク戦争は失敗だった」と、彼が自ら認めたことにほかなりません。
 「6月末にはイラク人に政権移譲する」、とのブッシュの約束は選挙を控えて、破るわけにはいきません。それで政権移譲後も、彼は何とかして親米勢力をイラクに残し、実績を強調しようとしていますが、前提が狂ってしまったのですから、やればやるほど泥沼にはまり込むだけです。今の予定では、来年1月までに国会議員選挙が行われることになっていますが、国民の60%がシーア派ですから、実際に選挙をすればシーア派が勝つに決まっています。
 「フセイン独裁政権を倒せば、イラクに自由と民主主義が実現する」と彼が豪語して始めた戦争ですがシーア派を敵に回してしまったため、この戦争は彼の思惑とは逆に、全国民を反米レジスタンス勢力に変えてしまいます。彼らは自ら「反米レジスタンス勢力」と自称していますが、「レジスタンス」とは、第二次大戦中、ナチス・ドイツ軍に占領されたフランス、イタリアの人たちが、武器を手にして抵抗運動に立ち上がったことを指しています。イラクの人々は自分達の戦いを彼らに重ねあわせています。
 彼らはテロリストではありません。「反米レジスタンス勢力」との名が示す通り、彼らは自信に満ち溢れています。祖国全土を血に染めてでも、自力で米軍をペルシャ湾に突き落とす覚悟で戦っています。ブッシュ政権はこれを恐れたのでしょうか、シーア派との仲介をイランに頼んだと報じられましたが、その後、国連に問題解決を付託した、と報じられています。
 イラクの治安を破壊してしまった米国、今度はその修復を国連の手に委ねようというのです。虫のいい話です。一度破壊してしまったものを元に戻すのは、容易なことではありません。先ず、国連は米国の対イラク政策の誤りを明らかにし、イラク国民に謝罪させることが先決課題でしょう。   (渡辺)

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