<<特集>> パレスチナ情勢―ブッシュ、イスラエルの占領政策を全面承認

 14日に行われたブッシュ米大統領とシャロン・イスラエル首相の首脳会談で、ブッシュはシャロンの主張をほぼ全面的に認めてしまった。これまでは、建前としてでも昨年4月にブッシュが提案した「ロードマップ」の立場だったが、今回、それすら放棄してしまった(もっとも、ブッシュは今でも「ロードマップ」は維持していると言っているが)。秋の大統領選を控えて、イラク問題でも泥沼にはまりつつあるブッシュは、公正な仲介者のポーズを取る余裕もなく、ひたすらイスラエルを支持するしかないようである。
 首脳会談の内容は―@シャロンのガザ地区からの「一方的撤退」を歴史的で勇気ある決断と強く支持し、ヨルダン川西岸の入植地の存続を容認、A境界線と入植地問題について、「多くのイスラエル人が集中している現実を考慮すれば、49年の休戦ライン(現在の境界線)が完全に回復される必要はない」と述べ、ヨルダン川西岸の入植地のイスラエルへの帰属を容認、Bイスラエルの隔離壁建設について、安全確保の一時的なものであるべきだとの条件付きとは言え、容認、Cパレスチナ難民の帰還権について、イスラエル域内の旧居住地ではなく、今後樹立を目指すパレスチナ国家に定住すべきだとの見解を示し、事実上帰還権を否定―以上である。ユダヤ人入植地の数と入植者数は、ガザ地区で21ヵ所、約7500人、ヨルダン川西岸で約200ヵ所、23万人である。ヨルダン川西岸の入植地をほぼ全面的に認めるということは、国連決議で否定され続けてきたイスラエルの入植地建設をほぼ全面的に追認するに等しい。
 これに対し、クレイ自治政府首相は「世界の誰にもパレスチナ人の権利を放棄する権利はない」と批判。エレカト自治政府交渉相も「イスラエルが和平を望むなら、選挙で選ばれたパレスチナ指導部と交渉すべきだ」と指摘した。
 直後の16日に行われた米英首脳会談で、ブッシュと一心同体で進むしかないブレア英首相は、米・イスラエル首脳会談の内容をほぼ追認した。ブレアは「イスラエルの撤退案を歓迎する」と述べ、「一方的撤退案」を支持した。現時点での「一方的撤退案」支持が、単純にイスラエル軍の「ガザからの撤退」支持を意味するものでないことは明白である。政治的にはむしろ、隔離壁の建設容認、占領地の境界変更の容認、帰還権を認めないことの支持につながるものである。ブレアは一方で、パレスチナ自治政府に対する経済、政治、治安面での支援を協議するため、国連、米、ロシア、EUによる4者協議の早期開催を呼びかけた。

◇シャロン、国家テロを加速

 さすがにEUは、米・イスラエル首脳会談の内容を批判する声明をすぐに出した。EU議長国アイルランドのカウエン外相は15日、「当事者同士が合意した場合を除き、1967年以前の境界線を変更することをEUは認めない」と表明。さらに16日、EUの非公式外相理事会で同氏は、米主導の中東和平案「ロードマップ」を無効にさせないため、EU、米、ロシア、国連による4者協議を今月中にも開催するよう呼びかける考えを表明した。
 ブッシュの全面的承認を取り付けたシャロンは早速15日、「パレスチナ分離計画」の概要を与党リクードの閣僚に説明した。計画は―@ガザ撤退後もテロ対策として、ガザ侵攻や活動家の暗殺作戦を続ける、A2005年末までにガザからの撤退を完了するが、エジプトとガザの境界へのイスラエル軍の配置は継続、Bイスラエルに出稼ぎに来るパレスチナ人の人数を徐々に減らしていく、C「保安壁」の建設は継続する―としている。これに先立ち、与党第1党リクードの選挙管理委員会は11日、シャロンの「計画」について、29日に20万人の全党員による投票を行うと発表している。
 イスラエル軍は、米・イスラエル首脳会談の3日後の17日、3月22日に暗殺されたハマスの精神的指導者ヤシン師の後を継いでガザ地区代表に就任したばかりのランティシ氏を、ミサイル攻撃で殺害した。ブッシュはイラクで、シャロンはイスラエルで、2人の盟友はまったく同じことをしている。

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