<<特集>> イラク情勢―イラクの「ベトナム化」が始まった

◇ファルージャの事態は虐殺

 イラク南部では4日から、シーア派のムクタダ・サドル師を支持する人々が各地で蜂起し、現在も聖地ナジャフで米軍と対峙している。また、バグダッド西方のファルージャでは、米軍の包囲攻撃に対して、スンニ派武装勢力が激しく抵抗している。フセイン政権が倒れて1年に当たる9日、バグダッドではシーア派とスンニ派が合同で金曜礼拝を行い、約1万人の人々が反米を唱え、ファルージャ支援を呼びかけた。実際の戦闘においても、一部でシーア派とスンニ派の共闘が行われているという。
 そもそも、サドル師支持派が蜂起にいたったのは、同派関連の週刊紙『アル・ハウザ』を、反米的だとして60日間発禁処分にしたことが直接のきっかけである。そして現在、米英占領当局(CPA)はサドル師に逮捕状を出して、「殺害または拘束」の指示を出している。イラクに民主主義をもたらすという米国の主張がいかにいいかげんかを示している。米国にとって、反米勢力はすべて「無法者」「過激派」「テロリスト」になるのである。
 ファルージャの状況は、ファルージャ市民が、米民間会社が雇った米軍物資の輸送警護を任務とする特殊部隊出身者ら4人を無残な方法で殺害したことに対して、米軍が報復攻撃に出たものである。一般市民による米人傭兵4人の無残な殺害は、いかに普通の市民が占領軍を憎悪しているかを示している。
 5日以降の米軍の攻撃は、典型的な虐殺の様相を示している。米軍はファルージャに通じるすべての道に検問所を設け、街を完全に包囲し、モスクや病院、一般民家などを無差別に爆撃し、破壊している。米軍の狙撃兵は無抵抗の市民を射殺し、救急車を狙撃するなどして、救助活動も妨害している。現地の病院関係者の情報では、わずか10日間で600人以上のファルージャ市民が殺害された。そもそもファルージャ市民の間に反米感情が強くなったのは、昨年4月末、米軍が学校の敷地を駐屯地として利用していたのを、市民側が学校を再開するため米軍に退去要請したのに対し、米軍の対応が強硬で、平和的な要請からだんだん衝突がエスカレートし、米軍が発砲して市民17人が殺害されたことがきっかけである。

◇サミットで仏・独の囲い込み狙う

 米国は、占領軍に抵抗しているのは一部のフセイン政権残党や外国からやってきたテロリストだと言ってきたが、この間の事態は明らかに、フセインも占領軍も望まない普通の市民がレジスタンスに立ち上がっていることを示している。
 レジスタンスが激化し、イラク占領の不当性がますます明らかになってくる中で18日、スペインのサパテロ新首相が予定を繰り上げて撤兵することを表明した。それにともない、スペイン軍の指揮下にあった国々に撤退の動きが出始めており、フィリピンやタイも状況次第での撤退を検討し始めている。イラク戦争を開始した米・英・スペインの一角が撤退を開始することの政治的意味は大きい。
 米国にとって、6月の政権移譲を形だけでも演出することが至上命題となっている。しかし、政権移譲の形はまったく見えてこない。米国は完全に無方針状態に陥っている。今や国連をもち上げるしか、後にも先にも進めなくなっている。ブッシュ米大統領は16日、ブレア英首相と会談し、会談後、政権移譲後の暫定政権作りにあたり、CPAが任命したイラク統治評議会を解散し、国連がCPAと協力して改めて暫定政権の指導者を人選することを受け入れる考えを示した。また、ネグロポンテ米国連大使は16日、来年1月までに実施予定の直接選挙を支援する国連要員を警護するため、新たな多国籍軍創設案をイラク新決議に盛り込みたいとの意向を示した。
 これらから見えてくるのは、新たな国連決議によって国連の要請という枠組みを演出し、中身は変えずに衣だけ変えて、占領軍を多国籍軍に横滑りさせようという魂胆である。しかし、米軍が国連の指揮下に入ることはありえず、軍事的には米軍主導という枠組みを維持しつつ、政治的に国連に主導性を持たせるということである。米軍抜きに国連が治安に責任をもてない以上、米国寄りのアナン事務総長がこの案にのる可能性は十分ある。仏・独も、米国が政治的に下手に出てくれば、この案にのり、6月サミットで手を打つ可能性はある。しかし、イラク国民の間ではもともと経済制裁を10年以上行ってきた国連に対する不信感が強く、米・英の戦争責任をあいまいにしたまま、米・英と協力した形での国連の役割をイラク国民が支持するかどうかは不透明である。
 6月の米シーアイランド・サミットでブッシュは、「大中東民主化構想」を主要議題とすることを決めている。6月末の政権移譲を前に、前述したような内容で新たな国連決議をとりまとめて仏・独を巻き込み、サミットで各国の思惑の違いは棚上げにしつつも「民主化」という耳障りのいい言葉でイラク戦争を正当化するというのが、当面のブッシュの狙いであろう。そもそも、本来の米国のイラク戦争の戦略目標は、親米か反米かにかかわりなく、アラブ世界に米国のスタンダードを押し付けることにある。つまり、市場経済化と米国式「民主化」であり、その過程で反米政権を一掃することなのである。                           (片岡)

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