<<特集>> イラク情勢―シーア派最高権威シスタニ師の存在感が大きく浮上
イラク基本法が期限を8日過ぎて署名された。基本法制定の過程でむしろ、シーア派の大アヤトラであるシスタニ師の影響力の大きさがクローズアップされた。一方、米国の影響力が相対的に後退しているように思える。基本法では暫定政権づくりの手続きは示されておらず、この問題をめぐる各勢力の主導権争いが今後焦点化していく。スペインの列車連続爆破事件で、米英占領軍を支援する国に対する攻撃が実際のものとなった。自衛隊を派遣し、占領軍に協力する日本も標的に挙げられている。
◇米英共同して国連盗聴
昨年3月、英日曜紙オブザーバーが、米国家安全保障局高官が英政府通信本部(GCHQ)に電子メールで送ったメモについて報道した。メモは、昨年1月、イラク攻撃を正当化するための安保理決議案をめぐり、賛否を明らかにしていなかったチリ、パキスタン、アンゴラの外交官の電話や電子メールを傍受するよう英側に求めていた。報道の情報源はGCHQの翻訳官だったキャサリン・ガンさん。同氏は内部告発したことを認めて解雇され、機密保持法違反で起訴されたが、検察当局は2月25日、起訴を取り下げた。情報機関の活動内容に触れられたくない英政府の意向が働いたものと思われる。さらにショート前国際開発相は26日、「英政府はアナン国連事務総長の会話を盗聴しており、自分は電話の傍受記録を読んだ」と暴露した。この後、国連大量破壊兵器廃棄特別委員会のバトラー元委員長も「私の国連事務所も盗聴されていた」と語った。国連側は、「国際法に抵触する」「事実なら、即刻中止を」と言っているが、盗聴自体への驚きや怒りは感じられず、安保理の2大国と事を構えたくないというのが本音のよう。
◇聖地と首都でシーア派標的の自爆事件143人死亡
イスラム教シーア派聖地カルバラとバグダッドのシーア派地区で3月2日、自爆などによる数回の爆発が起き、駐留米軍の発表によると143人が死亡、約430人が負傷した。同日はシーア派の重要な祭礼日「アシュラ」にあたり、シーア派を標的にしたテロとみられる。大型事業について、公開入札を開始。米企業のほか62ヵ国の外国企業も参加できるが、独・仏・露など戦争に反対した国の企業は排除。批判が出る中で、ブッシュ大統領は13日、カナダの参入を認め、ラムズフェルド国防長官は「3、4ヵ国」の参入を容認する方向で検討していることを明らかにした。
◇イラク基本法書名
8日、イラク基本法が署名された。イラク基本法の骨子は、▽序文―旧独裁政権で奪われていた自由の回復に努める▽イスラム教を正式な国教とし、法源の一つとする。あらゆる信教と宗教活動の完全な自由を保障する▽暫定議会を選ぶ直接選挙は可能ならば04年12月末まで、遅くとも05年1月末までに実施。暫定議会が新憲法を05年8月15日までに起草し、遅くとも同年10月15日までに国民投票を行う。総選挙を12月15日までに行う▽大統領は1人、副大統領は2人とする▽議会に占める女性議員の割合は25%とする▽連邦制を採用するに当たって、クルド人自治区は維持され、その他の地域には自治州設立の権利が与えられる▽アラビア語とクルド語を公用語とする。一方、あらゆる少数部族も教育に自らの言語を使う権利がある▽新憲法の是非を問う国民投票の際、不特定の3州で反対票が3分の2以上に達すれば発効しない―など。もともと基本法署名は5日に予定されていたが、シーア派最高権威のシスタニ師の意向を受けたシーア派評議員が直前になって異議を申し出て、米英暫定占領当局(CPA)のブレマー代表との再協議となった。この過程でシスタニ師の強い影響力が浮き彫りになった。シスタニ師は8日の署名式後、「恒久憲法の制定に向け、基本法は障害となろう」との声明を公表。
◇スペイン 列車連続爆破200人死亡
スペインのマドリード中心部の3駅で11日、ほぼ同時に多数の爆発があり、約200人が死亡、1000人以上が負傷した。アルカイダが犯行声明を出したが、イラク戦争で対米協力を貫いたスペインを狙ったもの。日本への攻撃も予告している。スペイン政府は総選挙への影響を恐れ、「バスク祖国と自由(ETA)」犯行説を意図的に流したとの疑惑が浮上している。
◇スペイン総選挙 野党勝利 次期首相イラク撤兵を表明
スペイン総選挙が14日行われ、野党の社会労働党が事前の世論調査の予想を覆して、勝利を収めた。11日の列車同時爆破事件でアルカイダの関与説が浮上し、対米協力を貫いた国民党政権批判に傾いた模様。次期首相が確実な社会労働党のサパテロ書記長は、公約通り軍の撤退を表明。「6月30日が期限になると思う」と述べた。
◇イラク主権移譲 国連が支援要請受諾 顧問チーム再派遣固める
アナン国連事務総長と安保理は18日、イラク主権移譲問題をめぐって、CPAとイラク統治評議会が国連に助言と支援を正式要請してきた書簡を公開した。国連は要請を受けることを即断するとともに、ブラヒミ事務総長特別顧問の率いる支援チームをイラクに再度派遣する方針を固めた。
◇ポーランド大統領 「大量破壊兵器情報、我々はだまされた」
ポーランドのクワシニエフスキ大統領は18日、「イラクの大量破壊兵器に関する情報について我々はだまされた」と不快感を表明した。ただ「現在のイラクは、フセイン前政権下よりもいい状況にある」と述べ、ポーランド軍部隊について「引き揚げる考えはない」と述べた。
◇韓国 イラク派遣先を変更 キルクーク断念
韓国国防相は19日、韓国軍のイラク追加派兵について、当初予定されていたキルクークを断念し、治安が比較的安定している中南部のナジャフなどに派遣先を変更することを決めた。このため、当初4月に予定していた派遣は、6月以降になる見通し。
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