昨年、関西よつ葉連絡会の呼びかけで、9月8日から17日にかけてカンクンWTO閣僚会議抗議行動を兼ねてキューバの都市有機農業を視察してきました。皆、キューバ・ファンとなって帰ってきたわけですが、一度、キューバの歴史と現状について基礎を学習しようという趣旨で、ラテンアメリカ研究家の太田昌国さんにお話していただきました。講演会の要旨を報告させていただきます。 (要約・文責:片岡)
コロンブスの「アメリカ大陸発見」
この10年くらい、グローバリゼーションという言葉がよく使われるようになりました。グローバリゼーションというのは、「全地球化」ということを意味する言葉です。グローバリゼーションというのは、ある一つの絶対的な価値観をもった国が、その価値観を地球の他の地域にすべて押しつけようとする、そういう力が頂点に達した段階であるというふうに言えると思います。
では、地球を一つの力で支配しようとする動きというのはいつ始まったのかというと、僕は、コロンブスが大航海を行って、カリブ海の島々に到達したとき、いわゆるアメリカ大陸発見と言われてきた時代ですが、これがグローバリゼーションの始まりの時期だと思います。1492年のことですから、今から511年前のことです。
グローバリゼーションがいつ始まったかという問題と、今現在、全世界を覆い尽くしているグローバリゼーションと対峙して、その波に飲み込まれないでかろうじて生き長らえているという二つの面から、キューバというのは非常に特徴的な存在だと思います。その話をしながら、だんだんと現代の話に入っていきたいと思います。
コロンブスが航海を行った頃、ヨーロッパの人々はアメリカという土地の存在をまだ知らずに、海のはるかかなたには日本とかインドとか中国という地域があると信じていました。ところがこんな巨大な大陸があったということで、この段階で、当時のヨーロッパの人々にとって地球に対する全体像が成立しました。それ以降、人の行き来とか物の行き来が始まりました。同時に、ある地域の人々が、他の地域の人々を植民地化する過程の始まりでもあったわけです。まずアメリカ大陸を征服し、だんだんとアフリカ全土を征服し、やがてアジアにもやってきて、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの多くの地域がヨーロッパの国々の植民地となっていく。そして、近代ヨーロッパの資本主義的発展というのは、植民地の資源を収奪し、そこの労働力を安く使うということを抜きにして考えられません。
100万人の先住民が絶滅
ヨーロッパの人々が、キューバをはじめとしてカリブ海全体で何をしたかというと、当時航海に随行したカソリックの神父が残した記録によると、キリスト教の価値観に燃えたぎっているので、カリブ海の人々を自分たちと対等な人間とは認められずに、ただそれは邪教を信じる者であったり、文明を知らない裸族であったりするわけで、別に殺しても何の痛みも感じなかった。正確な人口はわかりませんが、例えばキューバ島には100万人くらいの先住民が住んでいたという記録があります。そして、キューバ島の先住民はほぼ100年後には絶滅したと言われています。これはジャマイカやハイチ、ドミニカ(ハイチとドミニカは一つの島ですが)など、ベネズエラに向かって小さな島々がたくさんつながっていますが、どの地域もほぼ同じです。
最初はスペインが全部支配しますが、その後フランスやオランダ、イギリスなどいろんなヨーロッパ列強が勢力争いをやって、それぞれの勢力範囲を定めます。ジャマイカはイギリスの支配下におかれ今でも英語圏で、ハイチはフランスの支配下におかれたので今でもフランス語圏です。キュラソーというベネズエラ沖の島は、今もオランダ領になっています。
これらの島々では、先住民がほぼ絶滅して死の島と化したので、働く人間がいなくなって、アフリカから黒人が強制連行され、サトウキビやコーヒーのプランテーションで黒人たちが奴隷労働を強制されていきます。一方、ヨーロッパからは白人が移住していく。キューバが白人と黒人からなる国であるというのは、そういう歴史があるわけですね。
キューバを含めたカリブ海の島々というのは、最初のグローバリゼーションの波、つまり5世紀前に始まるグローバリゼーションのもっとも深い影響を受けたところと言えます。一旦そこに住んでいた人たちは死滅してしまうわけです。このように、グローバリゼーションというのは、政治的・軍事的・経済的・文化的な大きな力を作動させ、大きな力を持つ者が他者の存在や価値観、生活形態といったものを理解できないために、力まかせに押しつぶしていくことだと思います。 (つづく)
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