前号に引き続き、「よつ葉連続講座」の第4回目『生協運動とよつ葉』(講師:吉田登志夫さん)の後半を紹介します。前回は吉田さんが関わってこられたここ30年間の生協運動の歴史を紹介しました。今回は生協運動の理念や「よつ葉」について紹介します。(要約:片岡)
今も生きる「ロッチデールの原則」
1840年、ロッチデールというイギリス北部の小さな町で、初めて協同組合が生まれた。18人の工場労働者が集まって共同購入を始めた。マンチェスターの近くの町で、当時、産業革命で羊毛の織物工業が発展していて、そこで働く労働者の労働条件は非常に劣悪だった。そこで自分たちの生活物資は自分たちで共同購入して生活を守っていこうということで始まったのが、世界の協同組合の出発。そのときに、次の9項目の原則を決めた。その原則は今の時代においても、生き生きした内容である。
9項目の原則とその意味を紹介すると、@自己出資する―資本は組合員自らの出資でまかなうA混ぜ物をしない―今でいうと偽装表示しないとか、増量剤はやめようとかいうことB正確に測る―当時、商人たちはよく量をごまかして販売していたので、それはやめようということC現金で販売する―適正な市場価格で請求し、掛売りはしないD利益は利用割戻しをする―利益は各組合員の購入額に応じて比例して配分するE1人1票を原則とする―組合員の権利はすべて等しく実行されるF民主的に運営する―経営は定期的に投票選挙された役員と委員会の手に委ねられるG教育を重視する―利益の一定額を予算化して組合員教育に当てるH経理を公開する―損益計算書と貸借対照表は頻繁に組合員に示される。
レイドロー博士が1990年頃に、これからの協同組合は何をしなければならないかということを「国際協同組合年」に報告した。その4項目は、@食糧問題の解決―飢えを満たすA協同組合的労働の創出―競争や利潤目的でない共生的な労働を創るB第三世界・社会的弱者の保護C協同組合的地域社会の建設。これがこれからの協同組合の役割だということで、報告している。これも光っている報告だと思う。
今の日本の生協は、歴史的には、「ロッチデールの原則」とレイドロー博士の「西暦2000年の協同組合論」が理念の基礎になっている。
狭義の「よつ葉」と広義の「よつ葉」
「よつ葉」について話していく前提として、私なりに「よつ葉」をこういうように捉えているということを提起しておきたい。「よつ葉」の運動を見ていくときに、狭義の「よつ葉」と広義の「よつ葉」というように整理して見ていくといいのではないかと思う。
狭義の「よつ葉」として、各産直センターがあって、商品カタログ「ライフ」を媒介にして4万人の会員さんのところに日々、安全な食べ物などを配達するという事業体・運動体としての「よつ葉」がある。
その狭義の「よつ葉」のまわりには、もっと広がりをもったものとして「よつ葉」の運動がある。農場があったり、豆腐などの食品加工するところがあったりする。自動車整備工場からコンピューター会社まで様々な企業があり、商工組合がある。「よつ葉」の運動をいっしょにやっている地方議員もいる。北民連という政治運動もある。地域の福祉を考えていこうという運動もある。北大阪合同労組といった労働運動もあり、釜ヶ崎で炊き出しを続ける運動もある。私は、それら全部をひっくるめて広義の「よつ葉」と考えている。
例えば、会員拡大や売上の話とかは狭義の「よつ葉」の話になっていく。ダイオキシンの問題やイラク戦争の問題などの社会的な問題になると、広義の「よつ葉」を想定しながら考えていく(環境や生活に関わる問題では明確な線引きはできないが)。そういう切り口から話していきたい。
「よつ葉」の作風
私は「よつ葉」にきて仕事するようになって10年になる。「よつ葉」の面白いところは、担当者に自由裁量が認められているところ。後でいろいろ文句言われることはあっても、とにかく担当者にかなりの自由裁量が認められている。入口は自由で、出口(結果)で総括一致するということ。これは、決定が早く、冒険ができ、いきいきしている。生協で長年やってきた私にとっては新鮮だった。生協では、最終決定までに同じ内容について何段階もの会議があって、合意形成に時間をかける。そのため担当者が冒険しなくなって、官僚化していってしまう。
「よつ葉」は、3000人規模の会員で地域ごとの主権を持った産地直送センターを形成していき、それぞれ自立していて、その連合体として運営されている。それと、「よつ葉」は規律や戒律で縛るのではなくて、自分で判断することを尊重する作風がある。こうした組織のつくり方は、私にとって新鮮だった。
今後の「よつ葉」の展望
狭義の「よつ葉」の運動は、安全な食べ物を会員に届けていくという食べ物運動だが、広義の「よつ葉」という意味では、社会を変えていく運動だと思う。今の社会は資本主義社会だが、それとは違う、対抗社会・対抗文化をつくっていく運動。
例えば食べ物の流通では、スーパーが主流で、資本が生産を握ったり生産者を抑えたりしながら、資本の思い通りにしていく。それに対抗して「よつ葉」は、豚や野菜、豆腐にしても、今の社会の育て方、作り方、流通の仕方とは違う考え方、思想でやっていく。「よつ葉」は、こういう対抗領域を日々こつこつと、地域の中で積み上げ形成していっている。よくオルタナティブと言われるが、今の社会とは違うもう一つの社会、豚の育て方であったり、働き方であったり、対等で自由な人間関係であったり、をつくっていく。
中には「山岸会」のように共同体をつくってその中で完結しようという運動もあるが、「よつ葉」の場合は、対抗社会の原型をつくる努力をしつつ、一方で社会全体を対象化しようとしている。もう一つのあり方を具体的に提示しながら社会全体にはたらきかけ、変えていく運動。そういう目的をもう少し明確にし、地域・アソシエーション研究所などと協力しながら運動論をつくっていけたら、先が見えてくるのではないかと思う。
「よつ葉」の優れているところは、広義の「よつ葉」の中にいつも政治運動、労働運動、福祉運動、とりわけ政治運動を内部にもっているというところ。政治というのは必ず社会全体を対象化するので、とても重要なことだと思う。現状は、それをみんなが意識しているかといったら、そうではない。議員を出したり、北民連という政治のネットワークをもったり、そういう広義の「よつ葉」も私たちの運動であると、狭義の「よつ葉」のスタッフも意識しながらやることが今からの展望ではないかと思っている。
そういう目的と戦略がはっきりすれば、会員拡大ということは躊躇することなく進めていけばいいし、経営強化していけばいいと思う。地域の5%くらいはひとまずの組織拡大の目標として進めていくべきだと思う。ただそのときに、「私たちが何を目指すのか」ということを、前提を省略せずに話し、専従スタッフと常に確認し合っていく必要があるのではないかと思う。 (終) |