総選挙を前に自民党の手痛い失策
20日のANNによる世論調査で、小泉内閣の支持率が8ポイント急落し、46%を記録しました。その理由は、16日に行われた、日本道路公団総裁・藤井治芳氏に対する国交省の聴聞会でした。彼は2600万円の退職金を棒に振り、自ら懲戒解雇の道を選ぶ、という捨て身の抵抗に出ます。聴聞会で、彼は解任理由に逐一反論し、それを粉砕します。これで暴露されたのが、小泉改革の中身でした。法令遵守を身上とする官僚に、中身のない政治家は所詮、勝てませんでした。
多くの国民は「果たして小泉内閣は道路公団民営化ができるのか」と、疑問を持ったに違いありません。小泉首相は「改革に抵抗すれば、自民党といえどもぶっ壊す」と威勢のいい啖呵を切っていますが、「これはどうも口先だけのようだ」と、多くの国民は考え始めました。総選挙を前にして、自民党の手痛い失策です。
5日に民主・自由両党の合併大会が開かれることになっていましたが、小泉首相はわざわざ石原国土交通相に、この日を指示して彼を解任させます。こんな小泉の小手先細工に、多くの国民は疑問を持ち始めました。しかし、この辞表提出もすんなりとはいきませんでした。石原国交相は6日に藤井氏から辞表提出があるものと思い込んでいましたが、彼はこれを拒否します。それで、法令の定めるところにより、国交省による聴聞会開催となりました。彼は3人の弁護士に付き添われて出席し、聴聞会そのものは形通りに行われて終わりました。しかし、彼は法廷闘争に持ち込む構えを示しています。彼は法令を駆使して、その場で自分の処分の不当性を巡って、徹底的に争う構えです。
石原国交相は、「藤井氏が政治家のイニシャルを挙げて、国有地の払い下げを求めた」と、政治家の公団に対する騙りの事実を暴露します。これに対して、「明らかにすべきだ」との世論が高まりますが、公務員には守秘義務が課されています。それで彼は、石原国交相にその解除を求めましたが、総選挙直前に抵抗勢力と波風を立てることを恐れ、彼に対する守秘義務を解かずに、藤井氏を罷免します。これは、石原国交相の内部告発者に対する口封じにほかなりません。小泉「改革」のスター石原も、この有様です。
何より政治家自身の改革こそ必要
しかも、この問題で先ず目立ったのは、石原国交相の彼に対する詰めの甘さでした。5日、彼を国交省に呼びながら、「辞表を出します」との言質を取っていませんでした。この甘さを逆手に取った官僚のしたたかさに、石原は一本取られます。16日の国交省主催の聴聞会は、彼の後輩に当る官僚が先輩に質問するのですから、形式的なもので、中身のない時間潰しに過ぎませんでした。
小泉首相は「政治改革とは官僚主導の政治から、政治を政治家自身の手に取り戻すことにある」と言います。だが、そいう小泉首相自身未だに、内閣総理大臣でありながら、いかなる議案も事務次官会議の了承がなければ閣議にかけることができません。今日まで官僚の使い走りしかしたことのない政治家が、明日から官僚を使おうなんて、彼らがそんな芸当をできるはずがありません。「大言壮語、少なし仁」との格言がありますが、この言葉は小泉首相を指しているのではないでしょうか。
総選挙を控え、官僚を叩いて得点を稼ごうとした小泉政権は、官僚のトップによる捨て身の抵抗で返り討ちに会い、思わぬ痛手を被りました。彼の言う「改革」の薄っぺらさが、これで暴露されます。政治改革とは何よりも政治家自身の改革にあるにもかかわらず、日頃面倒を見てもらっている官僚を悪者に仕立て、自分を正当化しようとした「小泉流改革」が、官僚の捨て身の抵抗に会い、その狡猾さが暴かれました。 (渡邉)
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