責任政党」をアピールするあまり、「国家の大事」軽んじた民主党

国債残高問題の正面からの論議を

 総選挙を控えて、マスコミで消費税率アップが話題となっていますが、政府税制調査会はこの議論を封印します。理由は単純です。総選挙で与党が不利になるからです。
 これに対して、野党の民主党は年金改革の財源に消費税率アップで対応することを決め、責任政党であることを世論にアピールしようとします。しかし、責任野党として民主党が先ずしなければならないことは、03年度末に720兆円になろうとする国債残高の返済計画を明示することではないでしょうか。これは消費税率を10%上げ、15%にする以外にありません。
 だが、これだけ国民に過酷な負担を求めるからには、その前に政治家がしなければならないことがあります。それは先ず、自分自身を削ることです。でなければ、国民は納得しません。そこで出てくるのが、政治改革です。彼らが言う「官僚主導の政治から政治家主導の政治への変革」であり、「政治資金の全面公開」です。民主党の言っていることは間違っていませんが、及び腰です。自民党に代わって政権を取ろうとするなら、「これ以上引き下がらない」という断固たる決意を国民に示すべきです。
 政府が抱えている赤字はこれだけではありません。失業保険、医療保険等々、軒並み赤字です。国民から保険料を徴収しながら、その管理を任された官僚が私服を肥やした結果がこれです。政治家は官僚を監督する義務を国民から託されているにもかかわらず、このざまです。だが、これを非難しているだけでは済みません。間もなく私たちの肩の上にのしかかってくるからです。
 我が国の国債を買っているのは日本人だけではありません。外国人投資家も持っています。彼らは慈善事業で日本国債を買っているわけではありません。彼らは損得勘定が全てですから、損をするとみれば直ちに手放す人達です。日本政府が720兆円に達する巨額の公債残高に対して、ただ増やしていくだけで、いつまでたっても根拠のある返済計画を示さなければ、彼らは日本政府に返済の意思がないと見なして、一斉に市場で売りに出します。そうなれば、国家の破産です。


人気取りでないマニフェスト作りを

 私は57年前に国の破産を経験しました。1万円の預金がまたたく間に100円の価値しかなくなり、一家が1月も暮らせない金額でした。したがって、消費税率アップは、今年度末には720兆円に達すると見られている公債の返済財源として確保しておかなければなりません。それを年金改革の財源としてつまみ食いすれば、国債返済の道を自ら閉ざすことにほかなりません。
 今話題になっている郵政民営化についても、郵便貯金・簡易保険で集まった資金は財政投融資に回され、特殊法人に貸し出されています。特殊法人と言えば、二重帳簿を作っていた道路公団がそうです。この公団は黒字決算と言いながら、民間企業の基準で決算をしたら60億円の赤字でした。郵便貯金や簡易保険も、特殊法人に天下った官僚が政治家と結託して食い物にしていた、ということです。
 小泉首相は「郵政民営化」を声高に叫んでいますが、郵便事業は別にして、帳簿上の金額と金庫にあるはずの現金とが合わない郵便貯金や簡易保険を引き受ける民間企業が、何処にあるでしょうか。郵政民営化で各都道府県に巨大な地方金融機関が生まれます。これで地方銀行が大きな痛手を被ります。こうして、郵政民営化は具体化するにつれ、自民党内でも異論が広がっています。小泉首相が言う「改革」は、言葉ばかりが先行して中身がありません。
 民主党も責任政党として、裏付けのある公約を作ろうとする余り、安易な人気取りに走ってしまい、全体の目配りに欠けています。「国家の大事とは何か」を良く自覚して、マニフェストを作って欲しいものです。 (渡邊)

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