<<特集>> イラク情勢--国連安保理が多国籍軍派遣・復興支援決議を採択

  国連安保理は米英軍の占領統治の継続を不問に付したまま、イラクへの多国籍軍の派遣と復興支援を求める決議を全会一致で採択した。これで、治安維持と復興資金の両面で窮地に陥りつつあったブッシュは、当面の危機を回避できた。イラク情勢が決定的に混乱することを嫌った仏独露が、形だけとはいえ米国が再三の修正要求に応じ、政治的面目もたったので妥協に応じたもの。国連決議採択直後、仏独露はさらに米国から譲歩を引き出すため、当面軍隊の派遣や資金援助は行わないと共同声明を出したので、今後、実際に多国籍軍への派遣や資金援助を表明する国がどれだけ出てくるかが焦点である。

◇元イラク兵 給与求め各地で抗議行動 米英軍発砲
 イラク各地で4日、給料の支払いを求める元イラク軍兵士と米英軍が衝突。バグダッド西部の米軍施設前では約5000人のイラク人元兵士らが給与を求めて集まり、抗議行動に発展、米軍の発砲で4人が死亡、多数が負傷した。南部バスラでも集まったイラク人元兵士らに対して英軍が発砲、1人が死亡した。南部のナーシリヤではイタリア軍が発砲。中部のヒッラでも抗議行動があった。

◇米でイラク新組織「イラク安定化グループ」発足
 米ホワイトハウスは6日、イラク統治に関する米関連省庁の連携を強める目的で、新組織「イラク安定化グループ」を発足させたと発表。ライス大統領報道官を筆頭に、テロ対策、経済発展、政治問題、メディア対策の4作業部会からなる。

◇トルコ国会 イラク派兵承認
 7日、トルコ国会は国民の64%が反対している中で、イラクへの派兵を決定した。派兵は1万人規模になるものと思われる。これに対し、イラク統治評議会がトルコの派兵に反対を表明。事態が膠着する中で、トルコのエルドアン首相は18日、イラクへの派兵決定について「イラク国民が望まないなら何もすることはない」と述べ、イラク側が受け入れないなら撤回する可能性を示唆した。

◇国連安保理 全会一致でイラク新決議採択
 国連安保理は16日、イラクへの多国籍軍派遣や復興計画をめぐる「決議1511」を全会一致で採択した。米国は今後、新決議を盾に国際社会に派兵や資金協力の要請を強める。仏独露は3国で共同声明を発表し、「国連の役割強化と主権移譲の時期でさらに踏み込むべきだったが、内容に進展もあったため賛成した」と表明。決議には賛成したものの、派兵や資金、物資の本格的な援助に踏み出すことには慎重な姿勢を示した。パキスタンも議場での演説で「派兵はできない」と表明。米国の度重なる修正にもかかわらず、イラク人への主権の早期移譲や多国籍軍の指揮権の国連への移譲の問題は本質的には何も変わっていない。新決議の骨子は、(1)イラク統治評議会は、イラクの主権を体現する暫定政権の重要な組織である (2)米英の暫定占領当局に対して、可能な限り早く統治権限をイラク国民に戻すよう求める (3)評議会は、新憲法起草や民主的選挙実施の日程を12月15日までに国連安保理に提示する (4)国連はイラクでの人道支援や経済復興などの役割を強化する (5)イラクの安定維持のため、統一指揮下の多国籍軍を設置、決議後1年以内に役割を見直す−以上。

◇米議会 対イラク追加予算870億ドル可決
 米議会の上下院は17日、約870億ドルの対イラク追加予算を可決した。約200億ドルのイラク復興費用について、下院は全額無償資金援助とし、上院は半額を融資としたため、両院協議会で調整する。

◇イラク「信託基金」 国連、世銀で管理分担
 イラク復興資金の受け皿として国連と世銀の管理下で設立される「信託基金」の詳細が固まった。基金を (1)複数国から拠出された資金を一括プールし、世銀が巨額プロジェクト向けに管理・支出する口座(世銀ルート) (2)国連開発計画(UNDP)が拠出国別に資金を分割管理し、事実上、2国間支援の代行をする口座(UNDPルート)―に大別し、これを使い分ける。米英の「イラク開発基金」とは独立した資金援助受け皿機関を作るのが目的。

◇突出する日本の復興支援額 初年15億ドル拠出
 23日からのイラク復興支援国会議に向けて各国が支援表明し始めているが、多くの国が様子見の状態。その中でも日本の04年分として15億ドル(約1650億円)拠出、4年間で約50億ドルの方向は突出している。EU15ヵ国は、04年に限定し2億ユーロ(約260億円)のみ。英国は04年から2年で3億ポンド(約540億円)拠出を表明。韓国は04年から4年間で2億ドル(約220億円)拠出表明。スペインは04年から4年間で3億ドル(約330億円)拠出表明。

◇陸自 イラク派遣準備着手 南部のナーシリヤとサマワに絞る
 防衛庁は陸上自衛隊のイラク派遣先として、イラク南部のナーシリヤとサマワの2都市の周辺に絞り込み、政府内で最終調整に入った。9日に帰国した政府調査団は2都市を調査した結果、ともに浄水・給水活動などの需要があることを確認し、治安も「安定している」と報告。周辺は英軍の指揮のもとイタリア、オランダ、韓国の軍隊が治安維持や人道支援活動などを展開している。政府は15日、自衛隊のイラク派遣関連経費について、2003年度予算の予備費で対応する方針を固めた。防衛庁では派遣の中核をなす陸上自衛隊分で約300億円かかると見込んでいる。防衛庁は、政府としての正式な「準備指示」のないまま派遣準備に着手した。政府が、総選挙で自衛隊派遣が争点化するのを避けて、慣例の「準備指示」を出すのを嫌ったため。


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