ニュースレターでも何回かお知らせしたように、地・ア研では関西よつ葉連絡会と提携、「キューバ視察・WTO閣僚会議抗議訪問団」を呼びかけ、9月8日〜17日の10日間、キューバとメキシコを訪問してきた。今号より、メキシコ・カンクンでのWTO閣僚会議抗議行動、都市近郊有機農業を中心としたキューバの「印象記」を連載する。第1回目はその前段として、世界各国のNGOと共に現地で途上国支援のロビー活動を行ったアジア・太平洋資料センターの井上礼子さんに、今回の第5回WTO閣僚会議の概要・意味についてうかがったインタビューの要約(文責・研究所事務局)を紹介する。
「南北対決」で「南」が歴史的勝利
◇今回の閣僚会議全体としては、文字通り南北対決となり「南」の勝利に。北を代表したのは米国・EU、南を代表していたのはG20(アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、中国、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、インド、メキシコ、パラグアイ、ペルー、フィリピン、タイ、南ア。会議中にインドネシア、ナイジェリア、エジプトが加わって23ヵ国に)。農業問題で望ましい結果が得られない限り他の交渉には入らないとの立場を鮮明に。中でも中心になったのがブラジルのルラ政権。
◇他にもカンクン会議の直前にインドネシア、ジャマイカ、ケニヤなど23ヵ国が「戦略品目と特別セーフガード・メカニズム連合」(@途上国の貧しい小農民の食糧と生活を守るため、それぞれの国の戦略産品は関税引き下げの対象としないこと、A補助金に支えられた安価な農産物の輸入から国内農業を守るためのセーフガード・メカニズムの設置、を要求)を形勢、ベニン、ブルキナファソ、チャド、マリの西アフリカ4ヵ国が米国の保護主義に反発して綿の補助金撤廃を要求(各国の綿花農民が2年にわたる運動の末、政府を動かす)するなど、途上国からのイニシアティブが発揮された。
◇主張の基本は、世界の過半数を占めグローバル化の中で貧窮している農民の声を代表するもの。
対立軸は農産物自由化と投資協定
◇シアトルでミレニアムラウンドの立ち上げに失敗。ドーハでは9.11の直後だったこともあり、アメリカの恫喝の下で強引に新しい貿易ラウンドの立ち上げを決めたものの、実際の中身は決まらず。
◇途上国と先進国の対立軸
- 農産物の自由化
*どういう交渉様式にするか、自由化のやり方が未定のまま会議になだれ込み。
*8月に米とEUが妥協。これに対抗しG20を結成。
*途上国は、やり方の前に先進国が輸出農産物 にかけている補助金削減を要求。
- シンガポール・イシュー
*中心は投資協定問題、その他に競争、政府調達の透明性、貿易円滑化の問題。
*強く押したのはEUと日本。米国は直接投資だけではなくポートフォリオ(リスクを回避し
様々な形で資産運用する間接投資など)投資まで含めないと米国の利益を守れないとの考えから、それほど熱心ではなくなった。
*途上国は内国民待遇などにより自国の産業を防衛できなくなるとして反対。
*ドーハ会議で突然取り上げられ、かろうじてインドのみが反対、全員一致の場合にのみ交渉に入ることを盛り込ませる。
*これを楯に、インド、マレーシア、フィリピンを中心に16ヵ国が交渉に入ることに反対。
◇最終的に決裂、短い議長声明を採択して終了。「今年12月15日までに何らかの意味での一般理事会を開き、そこで決める」とされているものの、何を決めるかは書いてない。
役割分担やNGOとの提携などで米の恫喝はね返す
◇特徴として、途上国が「うまく」なってきた。特に、ルラ政権のブラジルがスポークス役を自ら買って出て、頑張った。ブラジルは米州自由貿易機構の圧力で、投資協定ではものが言えない。その分、農業で頑張る。投資協定ではインドやマレーシアが頑張るなどの連携、役割分担。これに対し、ブッシュが各国の大統領に直接電話をかけて圧力、会議の合間の2国間交渉で切り崩しを画策、20ヵ国のうち数ヵ国でも切り崩し、全体を瓦解させようとした。が、20ヵ国は屈せず、逆に増えた。20ヵ国側は度々記者会見を開き、世界に直接アピール。ロビー活動をしているNGOに対しても働きかけ、インドやブラジルが秘密交渉などをリーク。NGOから外で活動しているビア・カンペシーナなどに情報がもたらされ、デモなどを組織化。
◇決裂を受け、米のゼーリックが「WTOは壊れたっていい。我々にはFTAがある」との捨て台詞。米国は2国間交渉重視にスタンスを切り替え。
◇日本政府は完全にカヤの外。途上国は、政府自体は民衆寄りとは言えなくてもグローバルな対決軸がどこにあるかは意識して動いていた。日本政府はそれが全く見えなかった。国内問題にしか目が行かず、経団連の大型代表団や農協などと協議。存在感全くなし。農業についても「9ヵ国提案」を出しながら、スイスが取りまとめ、提案の形に。「言葉の問題」と言い訳するが、言いたいことがはっきりしていないから。最終段階の調整の9ヵ国会議にも呼ばれず。
途上国政府の抵抗・闘いをNGOが協同して応援
◇民衆サイドでは、3レベルでの取り組み。
- 登録したNGOを中心とするロビー活動―シアトルの時に、特にアフフリカの政府とNGOとの協力関係が進んでいた。NGOが交渉担当者を集めたワークショップでトレーニングをしたり。ドー
ハで一端途切れたが、今回より密接・有効な協力関係で機能。
- NGOを中心にさまざまなシンポや催し―初めての取り組みとしてフェア・トレード・フェスティ バル、見本市やシンポ。リゴベルダ・メンチェが
「グアテマラでは12万人が職を失い、2500万人の農民が環境破壊の影響を受けて食べられない状況にある中で、フェア・トレードを通じて市場が確保されることは大きな喜び。フェア・トレー
ドを推進しようという国際的な呼びかけを発しよう」、バンダナ・シバが「農産物自由化でインド農民が自殺しなければならない状況がある中で、貿易がどうあるべきか実践しよう。フェア・トレードはマクドナルドに象徴されるような世界よりもはるかに豊かな暮らしをもたらすことができる」とアピール。
- ダウンタウンを中心に、ビア・カンペシーナをはじめとするメキシコの様々な団体による民衆フォーラムや抗議行動。
*10日に、ビア・カンペシーナを中心に農民のデモ。ボリビアなどビザが出なかった国も多かったものの、中南米全域(チアパスからも参加)、韓国などから約2万人が参加して抗議デモ。その中で、韓国の農民運動家が抗議の自殺。各所で追悼や抗議行動が取り組まれた。
*13日は、世界的な抗議行動に合わせて現地でも数千人が参加してデモ。
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