<<特集>> イラク情勢--末期的様相を呈し始めたブッシュ政権

  イラク国内の反米感情は高まる一方で、治安状態は悪化の一途をたどっている。米国は、米国の指揮下で国連を占領統治に関与させ、各国から軍隊派遣と資金協力を得やすくしようとの思惑だが、今のところ新決議案採択の見通しは立っていない。しかし、仏は早々に拒否権を行使する意図がないことを表明するなど、これ以上米国との関係を悪化させたくない欧州諸国が、米国の本質的でない再修正で手を打つ可能性はある。米国内では、大量破壊兵器が存在する証拠は未発見とするCIA報告が議会で証言されたり、イラク問題に絡んでCIA工作員漏洩疑惑がブッシュ政権高官に持ち上がるなど、政権末期の様相を呈してきている。安保理での新決議採択でブッシュ政権が危機的状況を乗り切れるかどうかが焦点。

◇ブッシュ米大統領 870億ドルのイラク関連追加予算案を議会に提出

◇支持率下がり続けるブレア英首相
 ロンドン北西部の労働党の拠点区で18日に行われた下院補欠選挙で、労働党が初の敗北。イラク戦争に反対してきた自由民主党の20歳代の女性候補が勝利した。イラク戦争の情報操作疑惑が影響したもの。23日付英紙ガーディアンの世論調査でも、「イラク戦争は正当化できない」が53%で「正当化できる」の38%を上回り、イラク戦争は正しくなかったと考える人が初めて過半数に達した。英労働党内でも、28日付オブザーバー紙の調査によると、党員の41%が次期総選挙前にブレア首相の退陣を求めた。

◇ブッシュ米大統領支持率 就任以来最低の50%に

◇イラク修正決議案を安保理常任理事国に正式提示
 米国は1日、安保理常任理事国に、イラク統治に関する修正決議案を正式に提示した。修正案では、イラク人への主権の移譲の期限も示さず、多国籍軍の指揮権を国連へ引き渡すことも示さなかった。これに対しアナン国連事務総長は2日、「私の勧めたものとは明らかに違う」と批判。3日の段階で、理事国15ヵ国のうち仏・露・中・独・シリア・メキシコ・チリの7ヵ国が不満ないし反対を表明、少なくとも6ヵ国が今のままの案では採決で棄権に回るとの立場。仏は拒否権の行使はしないと表明しているが、可決に必要な9ヵ国の賛成のめどは立っていない。米国は10月23日からマドリードで開かれるイラク復興支援国会議までの採択をめざしている。

◇CIAが議会に暫定報告書 イラク大量破壊兵器保有証拠未発見
 CIAのデビッド・ケイ顧問は2日、イラクの大量破壊兵器について「具体的な証拠は見つかっていない」とする暫定報告書を下院情報特別委員会で証言した。CIAは同日、この暫定報告書を公表。生物化学兵器が大量に存在していたことを示す証拠はなく、核兵器開発については再開に向けた初歩的な動きがあったと述べているものの、核兵器そのものがあった証拠はない。大量破壊兵器計画の全体像をつかむには「6〜9ヵ月かかる」との見通しを述べた。

◇ブッシュ政権高官「元外交官夫人はCIA工作員」漏洩疑惑
 保守系コラムニスト・ノバク氏が7月14日付ワシントン・ポスト紙のコラムで、ウィルソン元駐ガボン米大使の夫人がCIAの秘密工作員であることを暴露。ウィルソン氏は7月6日付ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、「(ブッシュ政権が)イラクの脅威を誇張するため、核兵器開発をめぐる情報をねじ曲げたとしか考えられない」と告発。それに対する報復として、ホワイトハウス高官が少なくとも6人に情報を漏らしたと言われており、そのうちの1人のノバク氏が記事にした。漏洩の疑惑をかけられている高官は、ローブ大統領顧問とリビー主席補佐官。今後ブッシュ政権の火種になる可能性が高い。

◇イラク復興費550億ドル 世銀4年分を算定
 イラク復興に必要な資金について、2日に開かれたイラク復興支援の次官級準備会合で世銀は、04年から07年までの4年間で356億ドルという見積もり結果を発表した。石油施設や治安、環境など世銀が見積もりの対象にしなかった分野で米英暫定占領当局から提出された見積もりが194億ドルにのぼることも明らかにし、合計で550億ドルになることを発表。米国の意向を受けて、イラク復興支援国会議にむけて各国の協力を促す意図がある。

◇自衛隊 年内イラク派遣 米の要請で方針転換
 日本政府は2日、陸上自衛隊のイラク派遣について、12月中に150人前後の施設部隊を先遣隊としてイラク南部に派遣する方針を固めた。その後、年明け以降に、給水、電力供給、医療支援などを担当する500−600人規模の本隊を派遣する予定。航空自衛隊についても、年末にC130輸送機3機をイラクと周辺国に派遣し物資輸送を行う方向で調整している。政府は自衛隊派遣を年明け以降に先送りする方針だったが、米国の強い要請によって方針転換したもの。また、世銀のイラク復興費の見積もり発表を受けて日本政府は3日、イラク復興支援に必要な資金分担として、当面、04年と05年の2年間で15億ドル超を拠出する方向で調整に入った。04年末までは無償資金協力を先行させ、05年から有償資金協力を本格化させる方針。最終的にはイラク復興支援額全体の1割程度の支援を軸に検討している。10月17日の日米首脳会談で、小泉首相がブッシュ大統領に自衛隊のイラク派遣とともに表明する意向。

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