株価がこのところ上がっています。今年5月、日経平均株価は8000円の大台を割り込みましたが、その後上昇に転じ、9月3日には10,073円を付けています。これまで日本の株価上昇を支えていたのは外国人投資家、特に逃げ足の速いヘッジファンドだといわれてきましたが、最近になって国内機関投資家が参加し始めた、と9月2日付けの朝日は伝えています。この煽りを受けて9月1日、投資家が国債を売り、その資金を株式投資につぎ込むという動きへ一斉に走ったたため、長期金利が急騰するという「おまけ」まで付きました。
この株価回復の流れは最近発表される経済指標がいずれも好調であることにもよりますが、それだけではありません。日米共同で中国に人民元切り上げを求めることになった、という政治的要因も絡んでいます。これは、日本にとって20年前の「円高騒ぎ」の中国版です。20年前、石油ショックで不況に陥った日本は、この不況から抜け出すため、世界に先駆けて製造業のハイテク化を推進し、高品質・低価格商品を世界に送り出し、日本製品が世界市場を席捲します。その結果、日本が欧米諸国から求められたのは「円切り上げ」(円高)であり、円高で日本製品が売れなくなり、「円高不況」が発生しました。それと同じことが今、中国で再現されようとしています。
9月1日、スノー米財務長官が来日、塩川財務相と会談後、翌日北京へ旅立ちました。これを見て「人民元切り上げ間近」と動き出したのが、日米投資家でした。
現在の世界的なデフレの元凶は中国です。現在、1人民元は14円で、中国の若者の1ヵ月の労賃700元は1万円です。これで、日本企業は争って生産拠点を中国へ移転させます。その結果起こったことが中国から日本への低価格商品の流入、言い換えるとデフレでした。これは米国にとっても同じで、米国の対日貿易赤字が2000年以降減っているのに対して、米国の対中国貿易赤字は増え続け、02年の対日貿易赤字が700億$であるのに対して、対中貿易赤字は1031億$に達しています。
中国は世界貿易機構(WTO)に加盟以降、NY市場に積極的に参加し、巨額の資金を調達しています。その手口は様々ですが、政治的問題も引き起こしています。国営企業の株式が名前を変えて上場されます。この企業はそこから積極的に資金を調達し、その資金でインド洋に面したカラチに港湾施設を建設しますが、それを建設した企業は中国海軍が出資した企業だったことが判明し、クリントン政権時代に米国議会で、政府の対中国政策に不満が高まったことがありました。
米国の製造業現場は荒廃しているので、日本製自動車の時と同じで、元切り上げで立ち直れる状況にはありません。急増する中国の外貨を東アジア地域各国の通貨危機回避のために活用するよう、日本は知恵を出すべきです。
来年の大統領選をにらんで、ブッシュは投資減税で票を集めようとして大盤振る舞いをしています。そのしわ寄せを受けているのが、貿易赤字の急増です。米国の国際収支赤字は昨年4180億$台でしたが、今年は5000億$を突破する勢いで増え続けています。これを見て、英国の経済誌エコノミスト8月22日号は、「経常収支の歯止め無き膨張は、ドル暴落を予見させる。ドル暴落は米国にとっては長期金利の押し上げにつながり、日欧の経済成長の阻害要因となる」と警告しています。米国経済は人民元切り上げで立ち直れるような状況にありません。 (渡邉)
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