北朝鮮に時間的な余裕はない
北朝鮮の核開発問題を巡る米中露日韓北の6ヵ国協議は先月29日に終わりましたが、30日付け読売に「6ヵ国協議閉幕 中朝の溝に意外感 米『北』の真意分析へ」との見出しが踊っていました。私も同じように見ていました。北朝鮮は「中国の核の傘」の下に、すんなりとはいかないまでも、最終的に「入ることを表明する」と私は思っていました。それをこの国がかたくなに拒否し、米国にのみ安全保障を求め続けたのは意外でした。北朝鮮は中国の「核の傘」の下に入れば、国防政策で中国の制約を受け、個人独裁体制の修正を迫られることを警戒したのでしょう。北朝鮮は自国民の安全を守るよりも、個人独裁体制の維持を優先させたのです。
中国はかねがね北朝鮮の個人独裁体制に対して不満を示し、修正を求めてきました。中国は文化大革命時代、個人独裁体制の弊害を嫌というほど体験しています。その修正に多大のエネルギーを費やし、今日の経済発展を迎えることができました。それで、これまで何度もキム・ジョンイルを中国に招待し、現場を見せてきましたが、彼は経済改革をかたくなに拒否し、個人独裁体制の維持を優先させてきました。
だが、キム・ジョンイルにとって残された時間はありません。それは昨年の経済改革が失敗に終わっただけでなく、韓国から彼に宛てたカンパも途絶えてしまったからです。北朝鮮は昨年の経済改革で配給制度を廃止し、賃金を上げ、自由な市場取引を認めました。この改革が経済成長を引き出すためには生産の増加が必要でしたが、外貨不足のため工業生産のための原材料が不足し、生産は停滞したままです。これで起こったのは、猛烈なインフレでした。通貨の流通量は増えたものの、外貨不足で原材料が輸入できないため、生産が追いつかないからです。
テレビで中国側から北朝鮮を撮った映像を見ましたが、山の斜面一面に玉蜀黍がびっしり植わっていました。こんなことをすれば山崩れが発生し災害を招くことを知りながら、誰も止める者がいません。今の北朝鮮の絶望を象徴する光景でした。
確かに、市場に物が出回るようになりましたが、物価の高騰で一般の人は手が出ません。化学肥料がないので農業生産は底を這い続け、飢餓が広がっています。家族は崩壊し、家を失った子供は物乞いで飢えを凌いでいます。昨年の経済改革は完全に失敗しましたが、一度外したたがを締め直すのは、容易なことでありません。
韓国ではキム・デジュン大統領の5億$不正送金問題が発覚し、資金を出したヒュンデ財閥のチョン会長が自殺しました。この資金は多数の小口に分割され、仮名を装ったキム・ジョンイルの個人口座に送金されていました。こうして、キム・ジョンイルのポケット・マネーはもうありません。
中国は北朝鮮へ石油の90%を供給しています。武器、弾薬を供給しているのはロシアです。北の独裁体制を支えているこの二つの国がキム・ジョンイルをどのように説得するかに、今後の6者協議はかかっています。こうして、キム・ジョンイル政権に残された時間はもう僅かです。
日本の新聞・雑誌には「中国が北朝鮮を見限る日」など、センセーショナルな見出しが躍っていますが、中国は6者協議の場を通して慎重に進めていくはずです。中国にとってキム・ジョンイル政権は好ましいものでありませんが、この政権の崩壊は望んでいません。この政権が崩壊すれば、在韓米軍基地が中国国境間近に競り上がってくるからです。重村拓殖大教授はテレビで「中国はこれまで2回、北朝鮮への石油供給を止めたことがある」と言っていましたが、6者協議という多国間協議の場ができたのですから、中国はこの場を利用して、核の放棄を辛抱強く説得していくはずです。
日本は米国の強硬路線の後を付いていくだけでは、この国の反発を招くだけです。北朝鮮の最終目的は日本との国交回復を条件に、賠償金50億$を引き出すことにあるのですから、「核の放棄が無ければ国交回復交渉に入らない」と、政府は予め北朝鮮に立場を鮮明にしておくべきです。拉致問題解決はそのための入り口に過ぎません。 (渡邉)
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