今月27日に北京で開かれる北朝鮮の核開発を巡る6ヵ国協議を前にして、情報戦が激しさを増しています。6ヵ国協議を前にして、日本政府は北の核に対抗するため、米国の核の傘の下に入ろうとしています。北朝鮮に核の放棄を求めながら、自分は米国の核に頼ろうというのです。北朝鮮は中国の核の傘に入ればいいじゃないか、という話です。韓国にとってこの6ヵ国協議とは、北の核の脅威から解放されるかもしれしれませんが、その代わりに米国の核の支配下に入ることになります。
8月4日付の朝日新聞は、防衛庁が来年度予算概算要求でミサイル防衛(MD)の06年配備を目指して1400億円を要求する、と伝えています。米国から導入するMDが、中国の核戦略に対抗するための手段であることは、言うまでもありません。
米国はこれまで中国の核兵器開発情報を積極的に開示してきましたが、今は沈黙を守っています。どうやら、米国は中国の宇宙開発進展に、脅威を感じているようです。米国は宇宙衛星で中国の核兵器開発状況を常時監視していますから、自動車で運ぶことができる移動式の弾道ミサイルを開発したとか、中国内陸部から打ち上げた大陸間弾道ミサイルを、内モンゴルの標的に正確に命中させた等々、伝えてきました。だが、今年元旦の有人宇宙飛行船回収成功以降、ピタリと止まっています。
これまで米国による核の脅威を非難してきた中国は最近、殊更にそれを言い立てなくなっています。北朝鮮情報に詳しい重村・拓殖大教授は24日のテレビで「中国と米国は最近仲がいいんです」と言っていましたが、これは米国が中国の核開発に脅威を感じ始めたからです。日本の米MD配備受け入れに対しても、今までは非難声明を出していたのに、中国は未だに黙っています。
この事実は、6者協議の背後に何があるのか、語って余りあります。米中両国の沈黙自体、私達にとって「恐怖の沈黙」に他なりません。こうして、北朝鮮を取り囲む東アジア地域は、米中核対決の狭間であり、「恐怖の均衡」下にあります。
この醜悪な現状を見抜いたのでしょうか、今月7日、韓国で学生12人がソウル近郊の米演習場に侵入し、星条旗を燃やし、装甲車を占拠するという事件が起こりました。この基地は休戦ラインから70キロという至近距離にあり、ソウル防衛という最重要任務を帯びた米軍の最新鋭部隊が配備されています。従って米国こそ、朝鮮半島で軍事的緊張を緩和させようとするならば、先ずこの米軍基地を撤去するか、少なくとも休戦ラインから引き離すべきです。だが、今回の6ヵ国協議を前にして米国は、北朝鮮を支えている中国の弱みを利用し、北朝鮮説得の責任を押し付けてきました。これにより、東アジアにおける米中核対決の状況を、少しでも米国に有利にしようとしてきました。このような分断された南北朝鮮民族の危機感に駆られた行動が、米軍基地占拠事件でした。
米中間で核の均衡状態が成立
中国は、北の体制が崩壊すれば米軍基地が国境間近に競り上がってくるので、北の体制にどんな不満があろうとも、支えていかざるをえません。それならば、中国は少なくとも休戦ラインからの米軍基地の引き離しを主張すべきですが、していません。これが、東アジアにおける米中共同核支配の実体です。今回の6者協議で、朝鮮半島における南北の軍事的緊張緩和が最重要議題でなければならないにもかかわらず、それが議題に上らないのは、その背後にこの地域に、米中間で核の均衡状態が成立しているからです。
ブッシュ政権に巣食うネオコンには、これまでの安全保障政策の常識が通用しません。彼らの議論の前提は、世界の不安定化が米国の利益だ、と考えているからです。何故なら、それによって世界は米国を頼りにするからだ、と見なしているからです。従って、彼らと世界の安全保障について議論する共通の土台はありません。
それゆえ、私達にとって最も大切なことは、どちらが世界の国々や人々をどれだけ多く味方に付けることができるか、だけです。それは、韓国学生のように、私達が如何に少数であろうとも、旗色鮮明にし、正義の旗を高く掲げて進むことだけです。その旗に書かれるべき言葉は、「東北アジアを非核地帯に」です。
6ヵ国協議では北朝鮮に対して核の放棄を求める代償として、北朝鮮は米国に不可侵条約の締結を求めています。これに関して我が国では、北朝鮮と武力対立が起こった時、日米安保条約が果たして有効に機能するのか、との疑念が起こっています。こんなことになるのは、北朝鮮と日本、両国共に自国の安全保障の決め手として、米中両国の核に依存しようとしているからです。核は米国にとって最も有効な外交手段ですから、日本の外交はこれに振り回されることになります。「核を以って核を制す」という力の論理には、人類を核という魔力に取り込み、そこから逃れられなくするという魔力が潜んでいます。核保有国と非核保有国とのこのような非対照的関係は、「国家間の平等」という国際法の原則に違反し、必ず小国に不満が溜まります。力で押さえ込まれた北朝鮮には必ず不満が残り、今後何らかの形でそれが吹き出てくるでしょう。
この矛盾から抜け出すには、日本、南北朝鮮、中国を含む東北アジア地域から米国を含むあらゆる核兵器を撤去し、非核地域とすること以外にありえません。「世界」9月号に、梅林宏道さんの「『不拡散』ではなく、『核軍縮』に舵を切れ−北東アジア非核地帯への提言」が掲載されています。皆さんに是非読んで頂きたい文章です。
(渡邊)
|