☆ 閑 話 休 題 ☆

「子育ての主役は母親」では子供は救われない

 7月9日、長崎市で4歳の子供を殺害した容疑で、長崎県警は14歳の少年の身柄を確保しました。次の日から連日、テレビ・新聞でこの事件が報道されていますが、私が気になっているのは、テレビがコメントを求める相手は母親ばかり、父親に求めたテレビ局は皆無でした。これでは、子育てに責任を負っているのは母親だけで、父親は関らなくて良い、と言っているに等しいのではないでしょうか。どうせ父親にマイクを向けたことろでまともな答えは返ってこない、と思ったからでしょうが、それでもなお父親にマイクを向けるべきです。でなければ、この種の事件の再発を防ぐことはできないからです。
 男の子が「親離れ」するとは、自分の性に目覚めた彼らが、女性である母親を疎ましいと思い始めることです。この時、男の子は自分にその自覚がないので、非常に精神的に不安になり、母親に理由もなく当たり散らしていたことを、私は覚えています。丁度この頃、私の父は戦地へ行っていたのですが、父が復員してきた途端、家に帰って座っている父の顔を見ただけで、私の気持ちが落ち着いたことを、今でも覚えています。
 少年は4歳の子供を駐車場の屋上へ連れて行った際、鋏で子供の皮膚を傷つけています。これを見た子供は、大声を出して泣き叫びます。これで精神的にパニック状態に陥った少年は、柵越しに突き落としたと見られています。子供にこんな恐怖を味わせたらどうなるか、分からない年頃ではありません。だが、それを承知の上でこんな残虐な行為に走らざるを得ない、少年の心の中に潜む魔物。今後、調査の過程で明らかにされるのでしょうが、この種の情報が社会の中で氾濫している現在、こうした精神的な病理現象に関してもマスコミで議論されるべきです。
 母親に対して理由のない反抗をしている息子を見た時、私は当時の自分を思い出し、息子を精神的に支えなければならない、と思いました。だが、息子も学校で問題を起こし、その対応に親も大変でした。
 中学2年で担任が変わりました。妻が言うには、彼は体育の教師で、教育委員会勤務でした。当時、「暴力教室」「学校の荒廃」が叫ばれ、そのエースとして派遣されてきた、と見た私に悪い予感が走りました。私が帰宅したら、息子が青い顔をして神妙に座っていました。「どうしたんだ」と聞くと、息子は「俺は何も悪いことしていなのに、先生に一方的にしばかれた」というのです。それで、私は教師あてに手紙を書きました。「子供は貴方に理由もなくしばかれた、と言っている。もしそうなら、息子に謝って欲しい」。翌日、息子は「教師が謝罪した」と私に言いました。これで一件落着かと思っていたら、そうではありませんでした。
 三者面談があり、妻は私に「行ってくれ」というので、私が出て行きました。私は息子の前でこちらから教師に頭を下げる理由はない、と思っていました。教師の方は教師の方で、「親の方から頭を下げるべきだ」と考えていたらしく、一言も発しません。3分間くらい睨み合いをしたでしょうか、無言のまま三者面談は終わりました。その後、高校で息子は幼馴染の友達と万引きして親が学校に呼ばれたり、色々なことがありました。思春期に子供が達した時、特に父親は息子に対して、揺れ動く心を持った彼を暖かく支えてやることが必要です。 
(渡邉)

[←back]