<<特集>> イラク情勢--始まった戦争の正当性の再評価

  圧倒的勝利を手にしたかにみえた米英首脳に早くもかげりが見え始めている。大量破壊兵器がいまだに発見されず、イラクの脅威を煽る情報自体が捏造・誇張されたものであることが明らかになり、執拗に追及され始めた。ゲリラ戦の執拗な攻撃で駐留コストと米兵の死傷者数が膨らみ、イラク国民の反米感情も高まっている。こうした状況の下、米英の占領政策に影響が出始めている。「統治評議会」等、イラク国民の要求を一定無視できなくなりつつあり、米国も占領政策に協力を得るため、国連に秋波を送り始めている。イラク戦争の正当性の再評価が、小泉首相の評価にも影響し始めている。

◇イラクのウラン購入契約文書 米「でっちあげ」認める

 米政府は8日、ブッシュ大統領が1月の一般教書演説でイラクの大量破壊兵器開発の根拠の一つとして用いたニジェールからのウラン購入計画について、偽情報によるものだったと正式に認めた。これに絡んで11日、CIA長官が、自らの責任を認める声明を発表。政権中枢の責任がさらに追及される可能性も。

◇イラク脅威誇張「情報源」の英科学者死亡 独立司法調査へ

 英政府がイラクの大量破壊兵器の脅威を誇張するため「イラクが45分以内に大量破壊兵器を配備できる」と情報操作した疑惑をめぐって、BBCと英政府が全面対立。それに関連し、フーン国防相がBBCの「情報源」と名指しした科学者の遺体が18日に発見された。ブレア首相は、情報操作疑惑と科学者死亡について独立司法調査を開始することを決めた。

◇暫定当局 10月からイラクで新紙幣導入方針

 米英暫定占領当局(CPA)は7日、イラク国内で10月から新紙幣を導入する方針を発表。フセイン前大統領の肖像を一掃する狙いもある。CPAのブレマー代表の声明では、新紙幣はCPAの印刷、発行。10月15日から使用され、3ヵ月以内に現紙幣と交換。現在のイラク・ディナールと価値は同じで、高額紙幣も発行する。

◇イラク債務 来年末まで返済凍結、主要国合意へ元利合計は260億ドル

 イラクの公的債権問題について、主要債権国会議(パリ・クラブ)は、04年末まで債務返済を凍結することで11日、合意した。凍結対象になるのは元本と利息合わせて250〜260億ドル。日本は41億ドル。

◇イラク統治評議会発足 各勢力代表ら25人

 イラク人による「統治評議会」が13日発足。各政治勢力の代表ら25人がCPAによって選ばれた。反フセイン派の主要7派の代表の他、宗教、少数民族、大部族など各界各分野の有力者やイラク共産党の代表も参加。女性は3人。ただし、実質的な権限はCPAがもっており、統治評議会の権限は、なお不透明である。宗派、民族別の統治評議会メンバー構成は、シーア派13人、スンニ派5人、クルド人5人、アッシリア人(キリスト教徒)1人、トルクメン人1人。

◇インド イラク派兵、正式に見送り決定

◇イラク統治評議会 特別法廷設置

 イラク統治評議会は15日、旧フセイン政権下で行われたイラク市民に対する虐殺などの「戦争犯罪」を裁くため、特別法廷を開設することを決めた。特別法廷は、統治評議会内に高等司法委員会を設立し、特別な法律を新たに制定した上で開かれることになる。

◇15日現在のイラク戦費 総額480億ドルに

◇増え続ける米兵の戦死者 湾岸戦争越す

 15日現在で、3月20日のイラク攻撃開始以降の米軍の戦死者は149人となり、91年の湾岸戦争時(147人)を上回った。事故死などを加えると226人。米中央軍司令官は、米軍への攻撃は「古典的なゲリラ戦である」との認識を示し、戦術転換を示唆した。

◇米、国連決議見直し検討 死者・コスト増負担分散狙う

 パウエル米国務長官は16日、「他の決議が必要かどうか」アナン国連事務総長らと協議を始めたこと明らかにした。米軍へのゲリラ攻撃が頻発し死者が増加していることに加え、駐留長期化による財政負担増の懸念も高まる中、より多くの国の協力を得ることで負担の分散を図りたい意向。インドが14日、米国からの要請を拒否して、インド軍1万7000人のイラク派遣を断ったこともきっかけに。

◇イラク 戦闘終結後に子ども1000人死傷

 ユニセフは17日、米英軍が投下したクラスター爆弾の不発弾や、イラク軍が公共施設や住宅地に隠した数千トンの備蓄弾薬などにより、戦闘終結後に1000人以上の子どもが死傷したと発表した。

◇自衛隊派遣 11月以降に先送り検討 イラク治安悪化や総選挙の思惑が理由

 政府はイラク特措法成立後、10月の自衛隊派遣を想定していたが、11月以降に先送りする方向で検討に入った。ゲリラ戦の激化で、11月総選挙を前にして自衛隊に戦死者が出れば選挙戦の雰囲気が一変するとの危惧から総選挙後の派遣が望ましいとの声が強まっている。また、派遣部隊の活動として、政府はバグダッド空港周辺での給水・浄水活動を提示したのに対して、米側は米軍襲撃が頻発しているバグダッド北方のバラド付近での活動を要請、空港周辺での給水はニーズがないとしている。バグダッド空港でも米軍輸送機にロケット砲が打ち込まれるなどのゲリラ攻撃がおこっており、決して「非戦闘地域」といえる状況ではない。

[←back]