何処を向いて政治をやっているのか
イラクを占領した米英軍の後方支援をするために自衛隊を派遣する「イラク復興支援特別措置法案」が、国会に上程されます。与党3党は今月18日までだった会期を40日間延長し、7月28日までとし、この法案成立を期すとしています。
これを聞いて先ず私の頭に浮かんだ言葉は、「ブッシュが『ワン』と吠えれば、小泉は『ニャン』と応える」でした。このブッシュ・小泉の“ワン・ニャン・コンビ”が生んだ最悪の産物が、イラク自衛隊派遣法案です。大量破壊兵器も未だ見つかっていないというのに、まるで打てば響くような素早さです。小泉に「先ず自国民を説得しよう」という気持ちはさらさらなく、「ブッシュに良く思われたい」との意欲のみが前面に出ています。これでは日本人としての自尊心など、あったものではありません。「お前は何処を向いて政治をやっているんだ」との思いです。この内閣は教育基本法に「愛国心」を新たに書き入れようとしていますが、彼らはこれだけ私達日本人の自尊心を踏みにじり、子供達に「ブッシュの傭兵になれ」と教えようとしてます。
イラクがアフガニスタンの二の舞になることは明らかです。アフガニスタンのカルザイ政権の支配地域は首都カブールの範囲内に限られ、地方はそれぞれの部族が軍隊を持ち、彼らの支配下にあります。中央政府に税金が集まらず貧乏なので、軍隊も警察も貧弱で、未だに治安は悪化したままです。こんな無政府状態のため、農村ではケシの栽培が復活し、周辺国に阿片が流出している、と伝えられています。
我が国の歴史に農民の武装を解除した先例があります。豊臣秀吉の「刀狩」です。秀吉は全国の大名を支配下に置くや、年貢を確保し農民一揆を防ぐために、先ず「兵農分離」を実施し、農村に住んでいた武士を城下町に住まわせ、農民から刀や槍など武器を取り上げ、「刀狩」を行います。同時に彼は全国で「検地」を実施し、全国統一基準を定めて測量を行い、それぞれの村の石高を決め、農民一人一人の耕作地・米収穫量・年貢を決定します。これは「刀狩」を代償に、全ての農民に耕作権を保障し、年貢納入の義務を課したことを意味します。これで百姓一揆がなくなったわけではありませんが、戦国時代のような「騒乱の時代」は終わりました。
この我が国の歴史が物語っていることは、支配者の側が農民に耕作権を保障もしないで、彼らの武装解除だけ一方的に進めることはできない、ということです。 日本人は元々商売に長けた民族
イラクは未だに部族社会から成る国です。農民はそれぞれ各部族の族長の支配下にあり、彼らに歩役を務めるか、年貢を納める代償として耕作権が保障されており、フセイン体制はその上に乗っていました。
これは1300年前の日本と同じで、「大化の改新」で成立した律令国家は、各地方を支配していた部族を取り込むことによって、国家の支配地域を拡大していきました。勿論、これらの各部族は武装していました。 その後、武士階級の発生で藤原氏の支配体制が衰退するや、農民は土地を有力な神社・仏閣に寄進し、その庇護の下で武士の立ち入りを拒もうとします。これが荘園制度の始まりでした。
農業生産力が上がるにつれて、荘園から上がる剰余に寄生して生きる人達が増えたのも、この時代の特徴でした。荘園内で様ざまな役職が作り出され、その転売すら盛んでした。武士が領地の取り合いに血なまこになっている間に、農民は営々と自分の農地を広げ、利水施設を整備し、村落としての形を整えていきます。鎮守の森、農民の子弟に読み書き・算盤を教える寺子屋が各農村集落に生まれたのは、戦国時代を通じてでした。各農村集落で水利施設が整備されると共に、各集落間で水利権を巡る対立が発生し、訴訟が頻発します。こうした農村集落間の抗争を通じて、農民が自治の力をつけていったのが、検地・刀狩直前の日本の農村集落の姿でした。
世界に先駆けて米先物相場が立ったのは、大阪堂島でした。日本に先物相場が立ったのはロンドンに先んじること100年、天候如何によって変動の激しい米価の巾を縮小するため、全国から年貢米が集まる堂島市場で、米の先物取引が始まりました。日本人は今でこそ自分を欧米人と比べて商売下手のように思っていますが、そんなに自分を卑下することはありません。歴史を顧みると、欧米人のように利益の独り占めと一攫千金を狙うのでなく、商売に参加できる人達を広げていくという独特のやり方で、世界の中で大変商売に長けた民族でした。
長期のデフレによる経済の低迷で今、日本人は自信を失っています。これにつけ込んで、自民党に巣食う右派は、「一人前の日本」=「戦争のできる国」に変えてしまおうとしています。イラク派兵はこの一里塚です。これに打ち勝つには、日本人が自らの内に持っている固有の価値を見つめ直し、これに対する自信を取り戻すことです。ブッシュの口車に乗って海外へ兵隊を出すことが、日本の国際貢献ではありません。 (渡邉)
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