「教育基本法改正答申」で抜け落ちたものが今回の諮問へ
ニュースレター11号で、教育基本法改正の方向を打ち出した3月20日の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」について述べた。その中で、最終答申が、11月の「中間報告」に比べて、「『競争』が後景化し『国を愛する心』が改正の前面に出た」と総括した。「中間報告」ではかなり過激に、今の教育を「平等主義」「画一主義」といって批判し、「競争」や「規制緩和」を肯定する考えが色濃く出されていたが、最終答申では、教育基本法の中に新たに加えるべき教育理念として掲げた8つの理念のうちの一つとして「個人の自己実現と個性・能力、創造性の涵養」をあげるにとどまった。
しかし、5月15日の第31回中央教育審議会総会に遠山文部科学相から出された諮問「今後の初等中等教育改革の推進方策について」を見て、納得した。文科省としては、公の議論にさらされやすい教育基本法改正の中で論議するよりも、別個に、より実践的なテーマとして諮問し答申してもらう方を選択したものと考えられる。「中間報告」で「義務教育制度をできる限り弾力的なものにすべき」などと書かれていたのが、今回そのまま新たに諮問されているわけである。
「画一主義」の見直しが主眼
義務教育改革についての諮問は1971年以来、約30年ぶりである。年数からいったらそろそろ諮問されてもいい頃かもしれない。しかし、今回諮問された内容を見ると、やはり初めからかなり方向性の明確な意図的なもののように見える。諮問の主な課題は二つ、教育課程についてと義務教育についてである。
そのどちらについても、これまで画一的と批判されてきた学校教育に関わるものが目立つ。これまでの教育は、建前といわれるかもしれないが、一応「平等」を重視してきたといえる。理念として「平等」を掲げても、実際にはなかなかうまくいかなかったのが現実である。しかし、これからは「個性の自己実現」「個性・能力の涵養」と称して、「自由競争」や「規制緩和」を重視するということになれば、義務教育の姿を大きく変えることになるだろう。今回の諮問は、それほど重要なものを内包しているように思う。
「教育課程と指導の改善」について
当面の検討課題の第一が、「初等中等教育の教育課程及び指導の充実・改善について」である。内容は「学習指導要領の『基準性』の明確化」「年間授業時数が標準授業時数であることの明確化」「『総合的な学習の時間』の充実」「『個に応じた指導』の充実」「学力テストの結果を活用した指導の改善」である。
これらの内容を見ると、文科省がこの諮問で何を求めているか見えてくる。昨年から学校5日制や、「ゆとり教育」といわれる新学習指導要領が始まったばかりだというのに、マスコミや世論の中に「学力低下」論が広く存在する。それに対症療法的に対応するために、学習指導要領は最低限のことを規定しているだけで、各学校でいろいろ教えてもいいですよ、できる子にはどんどん難しい内容を教えていいですよ、土曜日も補習で勉強してもらっていいですよ、学力テストでいい結果が出せるような指導を行いなさい(学力テストの結果を予算配分に結び付けるかもしれませんよ)、という答申結果が見えてくるのである。
もしそうであるならば、学習意欲の欠落や学力低下の原因がどこにあるのかの分析が抜け落ち(私は授業時数の問題ではないと思っている)、学力とは何かという根本的な問題を脇において、安易に世論に迎合しようとしているというほかない。新学習指導要領は、詰め込み教育の反省から、考える力や「生きる学力」をつけさせようとしたのではないか。「ゆとり教育」や学校5日制は、ライフスタイルそのものを問い直し、人生を豊かにすることにつなげようとしたのではないか。文科省は責任をもってそれらに答えを出して、総括した上で次のステップに移ってもらいたいものである。
現場教師の積極性を引き出す方向で
行政は、現場教師や組合を敵視・管理することのみ考えるのではなく、現場教師の声を尊重し積極性を引き出すよう努力して欲しいものである。一つの例として、中国帰国生の教育保障を、教育委員会や文部省が方針を持たない中で、現場の教師が手探りで進めてきて、行政もそれを評価せざるを得ず、連携して制度的保障していくような例もある。
今日、「改革」すべきテーマは多様なはずである。安易な成果主義に陥らず、時間のかかる取り組みにも向き合い、豊かでゆとりのあるライフスタイルを促進する方向で考えて欲しいものである。 (K)
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