自衛隊の実質的統帥権は米国に
今国会で自民党提出の有事法制案に民主党が修正案を提出しますが、自民党がこれに応じたため、その法案は与野党賛成で可決、成立しました。国会史上画期的なことだと与野党共に自画自賛していますが、本当にお目出度い話です。
その理由の第一は、民主党は安全保障政策という国家の根本に関する党の立場を曖昧にしたまま、自民党にすり寄ったに過ぎません。国家の安全保障政策の根本は軍隊の指揮権である統帥権を誰が握るかにありますが、日本の場合、米統合参謀本部に事実上委ねており、この根本を疎かにしておいて、まともな有事法制の対案など、作れるはずがありません。
第二は、ブッシュ政権の安全保障政策部門の主要ポストを新保守派(ネオコン)に委ねた結果、米国のこれまでの安全保障政策が180度転換しました。この事実に無知であったのは自民党・民主党ばかりではなく、マスコミも例外ではありません。
理由の第一から議論を始めますが、冷戦時代、米ソ対立の中にあって、米国と軍事同盟を結んでいた日本の統帥権を米国が握っていたことは、自明の理でした。だが92年、冷戦体制が崩壊するや、この国の安全保障政策は漂流し始めます。 自社連立政権の出現で、それまで疎遠だった中国との関係が急速に改善されていきます。もし、日中関係が強まれば、米国の東アジアに対する影響力は確実に弱まります。それで、冷戦時代に代わる日米軍事同盟の新たな軍事的脅威を示す概念として、米国が日本に提示してきたのが、「周辺事態(surrounding
condition)」という、捉えどころのない奇妙な言葉でした。これを日本に提示したのは、当時の米国防総省日本課長リチャード・アーミテージ(現米国務省副長官)でした。彼の指示に則って自民党は「周辺事態法」を国会に提出、可決されます。
冷戦時代、日米軍事同盟の範囲は「東アジア」と、曲がりなりにも明記されていました。それが、「周辺事態」という曖昧な言葉に変わってから限りなく拡大し、今ではイラク戦争に参加した米軍艦への燃料補給にまで拡大しています。インド洋へ派遣されているイージス艦に至っては、高性能レーダーを備えた戦闘指揮能力を持っていますから、中東地域を深くカバーしているはずです。
こうして周辺事態法以降、日本の軍事的行動範囲は、「周辺」を超えて限りなく広がっています。だが、周辺事態法以降の問題点はそれに止まりません。冷戦時代、日本の自衛隊が米国の指揮の下にソ連・中国と戦うことは自明の理であり、日本に統帥権はありませんでした。しかし、周辺事態法の下で、その所在は更に曖昧にされます。「周辺事態法」には日米軍事協力の手続きを事細かに定めていますが、細かく文字で記すほど、手続きが複雑になり、戦争の実態と乖離してきます。
米軍の情報量の方が自衛隊よりも圧倒的に勝っています。軍事力も比較になりません。加えて、軍事は経験がものをいう世界です。経験のない自衛隊を実戦に出せば、米軍にとって却って足手まといになるだけです。戦争の場で、日本の自衛隊は笑い者にされ、米軍の「使い走り」しかできず、国民の中で劣等感が膨らみます。こんな日本が劣等感に駆られて、なまじ統帥権を持とうとするよりも、持たないことを誇りとする国作りに、わき目も振らず邁進すべきでしょう。
軍事超大国・米国に潜む癌 エネルギー過剰消費構造
第二の論点に移ります。ブッシュ政権の安全保障部門がネオコンに委ねられていますが、このことについて、民主党が全く無関心であることに、私は驚きました。
ネオコンは、これまでの安全保障政策に関する議論を180度転換させました。これまでの安全保障政策に関する議論には、「世界の安全に寄与する」という、暗黙の共通する前提がありました。ところが、彼らの議論の前提は、「世界を不安定化させることによって米国の安全を確保する」です。この議論の前提は、世界で圧倒的な軍事力を米国が持てば、不安定な世界は米国を頼りにするはずだ、という極めて独善的な考えです。
彼らは9.11テロ攻撃を受けて、これまでの行動を反省するよりも、開き直ってしまいます。この根本原因は9.11テロ被害によるトラウマ(心の傷)、という表面的なものに止まりません。これは、米国社会に根深く潜むものに根ざしています。それは国際環境会議における合意文書、京都議定書からこの国を脱退させた、エネルギー多消費構造という、この国に潜む悪魔です。
今、サウジとモロッコで反米テロの炎が燃え上がっています。イラク再建で国際協調が必要なため、米国の単独主義は修正を余儀なくされています。しかし、米国社会にエネルギー多消費構造が巣食っている限り、ネオコンの力が衰えることはあり得ません。何故なら、社会のエネルギー多消費構造を梃子にして、メジャー(巨大石油企業)を中核とするエネルギー関連企業が、米国社会全体を乗っ取ったからです。
そのことを具体的数字を挙げながら説明します。昨年9月1日付の「ニュースレター」に掲載されたものですが、出典は「世界」02年9月号、青山貞一「エネルギー権益から見たアフガン戦争」です。
米国の人口は世界の4%ですが、エネルギー消費量は25%で、世界の人口1人当りで5倍を超えるエネルギーを消費しています。この国の軍事費は世界の軍事費の1/3を占めており、人口1人当たりで見ると世界の8倍にもなります。9.11テロ以降、米国の軍事費は急増しており、02会計年度の軍事費は前年度比15%も急増しています。米国の石油対外依存率は58.4%に達しており、この国が輸入する石油は世界全体の輸入量の25%を占めています。ちなみに日本は15%です。
米国の1人当りエネルギー消費量は電力に換算して16MWH/人、日本人の2.7倍です。イラクの油田寿命は100年、サウジ85年ですが、米国は7年に過ぎません。米国が世界的な軍事覇権にこだわる理由はここにあります。世界の石油貯蔵庫は、中東、カスピ海沿岸、中央アジア諸国など旧ソ連領に集中しています。これをどのようにして米国まで運ぶのか、その通り道を支配しているのがチェチェン、アフガニスタン、パキスタンなどのイスラム原理主義勢力です。
ブッシュ政権は“利権漁り屋”の巣窟
次にブッシュ政権とエネルギー・軍需産業利権との関係について述べます。ブッシュ政権は“エネルギー利権漁り屋”の巣窟となっています。
ブッシュ自身、“エネルギー利権漁り屋”として人生をスタートさせました。ハーバード大卒業後、石油採掘会社アルプスト・エネルギー社を設立しますが、この会社にオサマ・ビンラーディンの兄の友人ジェームス・バースを代理人に7万$が投資されました。こうして、ブッシュ大統領とビンラーディン家とは旧知の商売仲間でした。
1986年、アルプスト・エネルギー社はハーケン・エネルギー社に合併され、ブッシュはハーケン社の重役に就任します。1990年、ブッシュはハーケン社の株を売り85万$を手にしますが、その1週間後、ハーケン社は2300万$の損失を出し、株価が急落しました。こうして、ハーケン社の倒産で多くの株主が巨額の損失を被りながら、ブッシュ一人だけ巨額の利益を手にしました。これは明らかに犯罪ですが、彼は起訴を免れます。
2001年、大統領となったブッシュは、直ちにユノカル社が中央アジアで中断していたパイプライン建設計画の推進に乗り出します。クリントン前大統領はスーダン米大使館爆破事件など様々なテロ事件に遭遇しますが、その背後にオサマ・ビンラーディンを首領とするアルカイダがいると見て、パキスタン政府などを仲介に裏交渉を始めます。
クリントン政権の交渉姿勢は、パイプラインの通過料を支払うから建設を認めてくれというものでした。だが、大統領が交代するや、ブッシュは手の平を返したように、「首謀者のオサマ・ビンラーディンを引き渡せ。でなければ戦争だ」と脅しますが、これが9.11テロの引き金になった、と私はみています。
次に、ブッシュ政権と軍需・エネルギー産業企業との関連を見ていきます。ブッシュ政権の閣僚であるミネタ運輸長官は、世界最大の軍需企業ロッキード・マーティン社運輸システム担当上級副社長です。チェイニー副大統領の妻リン夫人は、ロッキード社の元重役です。ラムズフェルト国防長官は、ロッキード社軍需シンクタンクの理事長でした。チェイニー副大統領は、世界20ヵ国10万人の社員を擁する石油関連企業ハリバートン社の最高経営責任者でした。エバンズ商務長官は、天然ガス・石油関連企業トム・ブラウン社の最高経営責任者でした。ライス安全保障担当大統領補佐官は、石油関連企業の経営に関与していました。グライルズ内務副長官補佐は、石炭・石油・ガス開発会社ユナイテッド社のロビイストであり、同時に石油・石炭・電力業界の利益を代表して活動する「全国環境戦略」の元副会長でもありました。エヴァンズ商務長官は、石油企業トム・ブラウン社の元役員でした。
こうして見てくると、ブッシュ政権そのものが“エネルギー・軍需利権漁り屋”の巣窟であるだけでなく、ブッシュ本人がいかがわしい犯罪歴の持ち主であることが判ります。彼の父親は当時上院議員であり、その役職を利用して揉み消してもらったに過ぎません。ブッシュ自身、大統領に選ばれたからには、この犯罪歴を反省し清らかな人生を送ろうと考えるよりも、世界最強国の大統領として自分の私腹を肥やすために、どんな犯罪でも許される、と開き直っているに違いありません。類が類を呼び、ブッシュ政権そものが犯罪者の巣窟となってしまいました。
米国民は、とんでもない人物を大統領に選んだものです。 (渡邊)
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