新ガイドライン・周辺事態法の延長線上に米国と共同で戦争するための有事立法

政府・与党の土俵に乗る民主党

 4月18日、衆院有事法制特別委員会で有事関連法案の審議が再開された。民主党も30日に、有事関連法案の対案となる「緊急事態対処基本法案」と「武力攻撃事態法案(政府案)」修正案を国会に提出した。民主党が対案を提出したことによって、与党との間で修正協議が行われ、合意が成立するか否かは別にして、5月中にも衆院を通過する可能性が高くなった。
 政府・与党の有事関連法案は、基本的には「武力攻撃事態」のときに、「国の独立」と「国民の安全」を守るために、平時から備えておこうというものである。それに対して民主党などは「いらない」と言い切れず、政権担当能力があることを示したいがために「私たちのほうが人権にも配慮して、国民の安全をより立派に考えた法案を作れんるんだ」と、政府・与党と同じ土俵に乗ってしまう。一般論でいうと、何に対しても「備えあれば憂いなし」は正しいことになってしまうが、現実政治の中でなぜ今、有事法制が問題になっているのかを把握する必要がある。

有事法制に至る歴史的経過

 ソ連が崩壊し、冷戦体制が終結した以降も日本では、自衛隊の役割や日米安保条約の存在意義について再評価されないまま、むしろ実際に戦える軍隊をめざしてひたすら強化されていっている。軍事大国のソ連を仮想敵国とすることによって成立していた戦後日本の防衛戦略は、目標を失った後、朝鮮半島情勢の緊張を利用し、北朝鮮に対する危機意識を必要以上に煽りながら、軍拡と日米軍事同盟の強化を進めてきた。
 93〜94年にかけて、北朝鮮の寧辺黒鉛型原子炉や核燃料再処理施設、NPT脱退の問題をめぐって、クリントン米政権と北朝鮮との間で一触即発の状態まで緊張が高まった。このときは、カーター元米大統領と金日成・北朝鮮主席(当時)の会談が実現し、危機を回避することができた。その結果成立したのが「米朝枠組み合意」である。しかし、表面的には危機を乗り越えたが、その後、第2次朝鮮戦争をリアルなものと想定して、日米も共同して軍事行動できるよう態勢を整えているのである。
 97年9月に、非常に具体的な協力項目を示した「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」が日米間で作成された。その中で初めて、「周辺事態の協力」が具体的に検討された。「周辺事態の協力」では、「救援活動・避難民への対応」「捜索・救難活動」「非戦闘員の退避」「経済制裁の実効性を確保するための活動」「施設の使用」「後方地域支援(補給・輸送・整備・衛生・警備・通信)」などの協力項目が具体的に書かれている。「経済制裁の実効性を確保するための活動」の中では、「協力には情報交換、国連安全保障理事会決議に基づく船舶の検査に際しての協力が含まれる」と書かれている。また「施設の使用」の中では、「米軍による自衛隊施設、民間空港・港湾の一時的使用を確保する」と書かれている。
 これ以降、米軍艦船が軍港だけでなく、全国の民間港湾に頻繁に寄港するようになった。それは、水深や施設、水先案内など役務の提供、物品の補給など、いざというときに実際に使えるように事前調査しているわけである。
 新ガイドラインに沿って、それに法的根拠を与えるために99年5月に、「周辺事態法」が制定された。後方地域支援として「物品及び役務の提供」や「捜索・救助活動」について、具体的に書かれている。この間、98年8月に日本上空を越えて行われたテポドンの弾道ミサイルの発射実験や佐渡沖での不審船事件がおきており、大々的な反北朝鮮キャンペーンが展開され、今日まで続いている。

北東アジアでの平和創出の決意を

 新ガイドライン・周辺事態法で、日本周辺、特に朝鮮半島で米軍と北朝鮮が戦争状態に入ったときに、日本が米軍を支援するためにどのような協力ができるか検討・法整備した。前線で戦わないというだけで、後方地域支援の内容は実質的に参戦しているのと変わらないような内容である。当然、北朝鮮と自衛隊との間で偶発的な小戦闘も考えられる。
 今回の有事関連法案および国民保護法制は、新ガイドライン・周辺事態法を受けて、国内的な戦争動員態勢を整える法律である。自衛隊の陣地形成のための土地の確保や、放送・運輸・電気・ガス事業者や医療関係者の動員、医薬品や食品などの緊急物資の保管命令などが、強制力を持ってできるようになるのである。いまだ国民保護法制は具体像が見えないが、民間人に対する罰則規定も盛られる可能性が高い。
 今の日本で、どこかの国が日本に対して大規模の軍事侵攻を仕掛けてくることはまず考えられない。北朝鮮の不審船事件や拉致事件も、大規模軍事侵攻の問題ではなく、あくまで国境警備の問題であり、それはそれとしてきちんと対応していけばいい問題である。「テロ」対策も、大規模軍事侵攻の問題ではなく、あくまで犯罪の問題であり治安の問題である。あえて可能性のある緊急事態をあげれば、広域大地震などの自然災害くらいであろう。
 戦争をできる態勢を整えれば戦争を未然に防げると思うのは、事実に反している。戦争ができる態勢が整えば、戦争をしたくなるのである。今もっとも可能性のある戦争は、新ガイドラインに規定されている「経済制裁の実効性を確保するための活動」で、米国が国連に対して北朝鮮の経済制裁を要求し、それが可決されるにしろ可決されないにしろ、米軍が日本海で臨検をはじめ、自衛隊がそれに協力する中で小戦闘が起こる事態である。
 この間の日本政府のアフガン戦争やイラク戦争での対米追随を見るとき、法律の拡大解釈がまかり通っており、小戦闘を「武力攻撃事態」や「武力攻撃予測事態」と認定して、米軍との共同作戦にのめりこむことは十分ありうるように思う。そして、今の日本国内で煽られている北朝鮮に対する国民の悪感情からすると、世論もこれを後押しする可能性は充分ある。
 韓国や中国、ロシアと協力して北東アジアで平和を創出する決意を持ち、北朝鮮との様々な問題は国交回復交渉の中で解決し、早期国交回復を実現する。その展望のなかで、戦争をできる態勢作りの有事法制に反対していこう。 (K)

[←back]