現われた吸血鬼・ネオコンの本性 「ブッシュ再選のためのシリア攻撃を」

再選のために戦争継続が必要

 イラク戦争勝利後、ブッシュ政権内でシリアを攻撃すべきだとの議論が高まっている、と新聞・テレビは報じています。それを正当化するために、大量殺人兵器がイラクからシリアへ運ばれたとの疑いがある、とのニュースまで流されています。
 4月13日、サンデープロジェクトで、青山繁晴さん(総合戦略研究所)はこれについて次のように語っています。「ブッシュ政権内で、再選を確実にするには、戦争をここで終わらせるよりも継続させておく方が有利だ、との判断が強まっているからだ」。これがブッシュ政権に巣食う新保守派(ネオコン)の本性です。彼らは、アラブ・イスラムの人達の血を吸って己の政治的野心を遂げることに何の良心の痛みも感じない、冷酷極まる吸血鬼にほかなりません。
 現大統領の父親は、クウェートに侵攻したイラク軍を国境まで押し戻しましたが、そこで踏みとどまります。これに対して在米ユダヤ人団体は一斉に非難の声をあげ、選挙協力を拒否したために敗北した、というのが彼らの総括です。「米国には『戦争している大統領は選挙で負けない』とのジンクスがある。息子に父親の二の舞はさせない」というのが彼らの立場です。
 だが、いま米国がシリアに攻め込むなら、イラクの混乱がシリアにまで広がり、中東地域全体を巻き込むこと必至です。シリアはレバノン・イスラエルと国境を接しており、この戦争は中東という火薬庫に火をつけます。パレスチナ自治政府を実際に支えているのはシリアです。イスラエルにしばしば自爆テロを敢行しているイスラム原理主義組織ヒズボラはシリア系で、米国はこれが目障りなのです。
 イラク再建のため、ブッシュ政権は単独主義から協調主義へ外交路線を切り替えたように見えますが、気を緩めるわけにはいきません。自分の再選のために何をするか分かりませんから。

過重な任務の前で立ち往生の米軍

 フセイン政権は打倒されたものの、いまイラクは混乱を極めています。400万人が住む首都バグダッドは電気・ガスが止まり、水も出ない、農産物も入ってこないので食料品価格が高騰しています。市内で略奪が横行し、病院から医薬品、医療器具まで略奪され、無秩序状態に陥っています。しかし、この混乱を作り出した責任は誰にあるのでしょうか。
 58年前、私は米軍の占領を経験しました。それと比べて、今回の事態を招いた米国の戦争・占領政策の杜撰さに、私は驚いています。
 1945年3月10日の東京大空襲で旧市内は殆ど焼け野原となりましたが、市街地の外れにあった私の家は奇蹟的に助かりました。その後、8月15日まで連日のように夜間、焼夷弾を浴びせられました。電気・ガス・水道は一時止まりましたが、直ぐ復旧しました。長期にわたって止まることはありませんでした。それは,東京に電気を供給していた芝浦火力発電所や各変電所への爆撃を、米軍が慎重に避けたからでした。港湾施設でも、海軍の施設は徹底して破壊されましたが、民間の荷役施設は残しました。ガス・水道施設も同じでした。
 こうして米軍は,
占領を考えて目標を選んでいました。ただし、沖縄における地上戦、広島・長崎への原爆投下は、無辜の市民に対する無差別大量殺戮でした。当時、日本の敗北は必至であり、にもかかわらず米国が原爆を落としたのは、戦後のソ連との対立をにらんで政治的主導権を取るためで、人道上容認できません。
日本とイラクに対する米国占領政策の違いは、米国の対日占領政策が直接統治でなく、間接統治であったことも関係しています。イラクの場合、米国は「フセイン政権打倒」を掲げたので、直接統治という選択しかありえません。
そんな日本における米軍の占領統治で、こんな経験がありました。占領から半年も過ぎていなかったと思いますが、私が通っていた中学に突然、米兵が3人ほどジープで乗り込んできました。何事かと集まった生徒を前に、兵士の一人は突然チューインガムを地面に撒きましたが、誰一人として拾う者はいませんでした。兵士の心無い仕打ちに、私達は彼らをだだ黙って睨みつけるだけでした。彼らはばつが悪そうに、そそくさとジープに乗り込み、立ち去っていきました。
 マスコミには米軍を歓迎するイラクの人々の写真が載っていますが、彼らの心中は単純ではありません。直接統治の場合、治安、経済、医療など、あらゆる問題に占領軍は責任を負わなければなりません。米英軍はこの厳しい現実の前に、ただ手を拱くのみです。
 日本の場合、天皇制存続を予め約束していたので、間接統治にならざるをえませんでした。彼らは民生部門を全て日本政府に任せていました。それで、58年前の戦争と比べて、イラクにおける米国の占領政策の杜撰さは否めません。ハイテク兵器の御陰でフセイン体制の解体は短期間で終わらせることができましたが、占領地の再建には住民の同意と協力が必要です。
 だが、今回の戦争の場合、米国の事前の計画が余りにも杜撰です。ここから見えるのはアラブ・イスラムの人達に対する彼らの軽蔑心です。米国の白人、特にネオコンは彼らを虫けらとしか見ていないからです。これでは、イラク再建がうまくいくはずありません。

シーア派に足取られ身動き不能に

 米国は圧倒的な軍事力でフセイン政権を短期間で倒すことができましたが、少なくとも社会秩序の回復までは占領軍の仕事です。だが、それが最初からつまずいています。
 占領から1週間過ぎても、未だに電気・ガス・水道などインフラが回復していません。21日、バグダッド市内を米国防総省イラク復興支援室長ガーナーが視察していましたが、「発電所の回復は何時になるのか」と聞かれて、「それは未だ判らない」と答えていました。
 占領直後から市内で略奪が横行しましたが、略奪に走ったのは主に市北部にあるサダムシティの住民達でした。この住民はシーア派で、中南部農村地域からバグダッドに職を求めて出てきた人達でした。それは、スンニ派のフセイン政権が彼らを一ヵ所に閉じ込め、秘密警察の監視下に置くためでした。上下水道など都市基盤が整備されず、街路に汚水が垂れ流されるという劣悪な環境の中に、140万人がひしめき合って住んでいます。
 フセイン政権はここに密告者を配置し、反体制運動を抑えつけてきました。ここから度々暴動が起き、特別防衛隊によって多数の住民が殺害されるという事件も起こっています。それで、フセイン政権崩壊で、抑圧からの解放の喜びを真っ先に身体で表現したのが、彼らでした。
略奪を収拾したのは、シーア派の聖職者達でした。イスラムの休日、18日金曜日、モスクに集まった信者達に彼らは「盗みはイスラムの教えに反する。盗品を返しなさい」と呼びかけたところ、翌日、モスクの中が盗品で一杯になった、と報じられています。バグダッド市内の秩序は、こうしてシーア派の宗教的権威によって保たれています。
 イラク人口の60%を占めるシーア派、特にイラク南部のチグリス・ユーフラテス、二つの川の流域に広がる農村地帯に住む人達は、殆どシーア派信者です。フセイン政権は人口の20%を占めるに過ぎないスンニ派を基盤に作られたため、加えてシーア派がイラクとの間で領土紛争を抱える隣国イランの宗教であったため、彼らは事ある毎に過酷な弾圧と差別・迫害を受けてきました。米軍によってフセイン政権が取り除かれるや、彼らの前面に出てきたのは社会に深く根を降ろし、貧者をまとめてフセイン政権に抵抗してきたシーア派でした。
 23日、数十万人のシーア派信者が彼らの聖地カルバラに集まり、巡礼が始まりました。イランに亡命しているイラク・イスラム革命評議会(SCRSI)議長ムハンマド・ハキームが呼びかけたもので、参加者が掲げた横断幕には「自由なイラクの樹立」「国民の統一維持を」「米軍駐留反対」などのスローガンが書かれていた、と報じられています。
 米軍は親米・親イスラエルの政権をこの国に作ろうとしています。それに彼らは反対です。冷戦下でソ連に対抗するために、米国という後ろ盾の下に作られたのがフセイン政権であり、米国の言うことを聞かなくなったから倒されたことを、この国の人達は良く知っています。米国が作る政権が「使い捨て」に過ぎないことを、彼らは既に見抜いています。ブッシュは「フセイン政権を打倒してイラクに民主主義を実現する」と威勢のいい啖呵を切りましたが、どうやらシーア派という魔物に足を取られ、泥沼に引きずり込まれつつあります。
 ブッシュ政権はイラク占領行政が巧くいかないとなるや、“敵探し”を始めています。シリアにその責任を背負わせようとしましたが、無理と判るやイランに押し付けようとしています。しかし、イラクのシーア派はアラブ語を話すアラビア人です。イランと領土紛争を抱え、度々戦火を交えてきたイラク国民が、ペルシャ語を話すイラン人に操られているというブッシュのこじつけは、彼らの自尊心を傷つけるだけです。 (渡邉)

[←back]